少ない元手で大きなリターンを得ることができる可能性を持つことが魅力の信用取引。信用取引にはさまざまなコストが発生するため、どの証券会社を選ぶべきか悩む人も多いだろう。
今回は、株式投資における信用取引の仕組みやコストを解説したうえで、人気の証券会社を徹底比較する。特徴的なサービス内容も紹介するので、信用取引に興味のある投資家は、ぜひ参考にしてほしい。
信用取引の基礎知識

まず、信用取引の仕組みについて、簡単に解説する。
信用取引とは何か
信用取引とは、証券会社に担保を預けることで、担保の数倍の資金を証券会社から借りて投資する取引方法である。
通常の取引では、元手が100万円だとしたら、取引できる金額も100万円となる。そのため、元手100万円を株式に投資した場合、時価100万円相当の株式を保有することになる。株式を売却する際は、自分が購入した株式をそのまま売却する。このような通常の投資を「現物取引」と呼ぶ。
一方、信用取引では、元手が100万円だとしても、100万円を超える金額で取引ができる。信用取引で株式投資をする場合、一般的に元手の3.3倍の取引が可能だ。つまり元手が100万円だとしても、時価330万円相当の株式を保有することも可能になるわけだ。株式を売却する際は、証券会社から借りた株式を売却する形をとる。
このような信用取引の性質を、「レバレッジ(てこの原理)」で表現することもある。「レバレッジ3.3倍」「レバレッジをかけて取引する」といった使い方が一般的だ。
なぜ信用取引が存在するのか
信用取引があることで、投資の機会が増え、投資家にはメリットがもたらされる。加えて、公正な価格形成につながりやすいという側面がある。
投資に限らず、価格は「需要」と「供給」によって決まる。需要が供給を上回れば価格は上がり、需要が供給を下回れば価格は下がる。
価格決定プロセスにおいては、市場参加者が多いほど、本来の価値が価格に反映されやすくなる。仮に「需要」の決定を担う人がたった2人なら、個人の意見に偏ってしまう可能性があり、本来の価値が正しく価格に反映されるとは限らない。しかし、1万人の「需要」となると、より正確に価値が価格に反映されるだろう。
つまり、信用取引によって、より多くの人が市場に参加すれば、公正な価格形成が促進されることになる。少ない元手で大きなリターンを狙えるという投資家にとっての魅力だけでなく、市場全体にメリットをもたらす取引方法であることを押さえておきたい。
信用取引で証券会社を選ぶ際に見るべきポイント
信用取引にはさまざまなコストが発生する。証券会社を選ぶ際は、取引コストに注目し、自身の投資スタイルに合った証券会社を選ぶことが大切だ。
手数料の安さ
現物取引にしろ信用取引にしろ、取引で発生する手数料には注意しておきたい。頻繁に売買するほど手数料の負担が大きくなるため、デイトレードなど短期で取引をする人は、特に手数料の安さにこだわって証券会社を選ぶことが大切だ。最近では、信用取引の手数料0円の証券会社も増えてきている。
金利の低さ
信用取引で「買い」注文をする場合、証券会社から資金を借りることになる。そのため、借りた資金に金利を乗じた金額を、手数料として証券会社に支払わなければならない。取引額が多くなったり、取引期間が長くなったりするほど、手数料の負担は重くなる。金利の低さにもこだわって証券会社を選ぶようにしたい。
貸株料の安さ
信用取引で「売り」注文をする場合、証券会社から株式を借りて売却することになる。そのため、手数料として貸株料を証券会社に支払わなければならない。「売り」注文から入れるのは信用取引のメリットでもあるため、貸株料にもこだわって証券会社を選ぶようにしたい。
信用取引におすすめの証券会社比較表
証券会社の信用取引手数料の比較(税込)
信用取引のメリット
証券会社によって、コストの設定はさまざまだ。信用取引をする際は、自身の投資スタイルを踏まえて証券会社を選ぶことが大切だ。続いて、信用取引で享受できるメリットを見ていこう。
資金以上の取引が可能
信用取引の1つ目のメリットは、なんといっても元手を超える金額の取引ができることだ。
利回り5%と仮定すると、現物取引で元手100万円を投資した場合、得られるリターンは5万円だ(税金は考慮しない)。一方、信用取引で元手100万円を3.3倍の330万円で投資した場合、得られるリターンは16万5,000円となる。
信用取引では、少ない元手でも大きなリターンを狙うことができる。
株価が下がっているときも空売りで利益が出せる
現物取引では、最初は「買い」から投資を始める。そもそも購入していない株式を売ることはできないからだ。つまり現物取引では、株価が下がりそうだという局面では、投資を始めにくい。
一方、信用取引では、「売り」から投資を始めることも可能だ。株価が下がりそうだという局面で「売り(空売り)」の注文を出し、実際に株価が下がったら、「買い(買い戻し)」の注文を出す。こうすれば、下落局面でも戦略的にリターンを狙うことが可能だ。
このように、株価が上がっているときだけでなく、株価が下がっているときも投資のチャンスを狙えるのが信用取引の2つ目のメリットと言える。
株主優待が得られる
株式投資をするにあたり、株主優待を楽しみにしている人も多いだろう。信用取引を活用することで、株主優待を受け取るうえでもメリットが発生する。
株主優待を受け取れるのは株主で、株主とは株式を現物で保有している人のことだ。そのため、信用取引で株式に投資しても、株主になって株主優待を受け取ることはできない。
しかし、「つなぎ売り」という現物取引と信用取引を組み合わせた投資手法によって、リスクを抑えて株主優待を獲得できる可能性がある。まず、株主優待が欲しい株式を現物で購入する。その後、信用取引で「売り」注文を出す。株主優待の権利が発生してから、株価が値下がりした場合、信用取引で買い戻す。こうすれば、株価が下がった場合も差額分のリターンを得ることができ、現物の値下がりをカバーできる。
このように、リスクを抑えて株主優待を獲得できるのも信用取引のメリットと言えるだろう。
投資のバリエーションが増える
信用取引は、「制度信用」と「一般信用」に大別される。制度信用とは、証券取引所の規則によって運用される信用取引のことで、一般信用とは、証券会社が投資家との間で自由に規則を設定して行う信用取引のことだ。
制度信用は、金利が低い傾向にあるが、返済期限が最長6ヵ月で、選べる銘柄にも制限がある。また、信用売りが信用買いを上回り、証券会社の株式が不足した場合、「逆日歩(ぎゃくひぶ)」が発生する。逆日歩は事前に想定しづらいコストなので、投資家にとっては大きなリスクだ。
一方、一般信用は、金利が高い傾向にあるが、逆日歩が発生しないのがメリットだ。証券会社によって異なるものの、返済期限は数年から無期限で設定されていることが多い。選べる銘柄も、制度信用より多いことが一般的だ。
このように、信用取引の制度を理解して使いこなすことで、投資のバリエーションが増えるだろう。
信用取引のデメリット
信用取引には多くのメリットがある一方、注意しておくべきリスクもある。続いて、信用取引のデメリットを2つ紹介する。
現物取引に比べてコストが高い
信用取引では、証券会社から資金や株式を借りて元手以上の取引をする。そのため、金利や貸株料が発生することには注意しておきたい。コストが高くなった分をリターンでカバーできればいいが、投資である以上、必ずしも満足のいくリターンを得られるとは限らない。
現物取引と比べてコストが高くなることをしっかり認識したうえで、コストをカバーできるようリターンを狙うことが大切だ。
自己資金以上の損失が発生する場合がある
信用取引では、少ない元手で大きなリターンを狙うことができる。一方で、元手以上の損失が生じるおそれがあり、場合によっては、負債が発生することもある。そうなると、速やかに追加の保証金を入金しなければならなくなる。
信用取引はハイリスク・ハイリターンな投資方法であることを理解し、一定の投資経験を積んでから挑戦するようにしたい。
信用取引におすすめの証券会社まとめ
証券会社を選ぶにあたり、コストはもちろんだが、サービス内容や使い勝手が気になる人も多いだろう。最後に、信用取引をする人におすすめの証券会社を8つ取り上げ、それぞれの特徴を解説する。
SBI証券
ネット証券の口座開設数No.1で、みんかぶの「ネット証券総合ランキング比較」でも人気No.1のSBI証券。
一般信用の「新規売り(空売り)」が可能で、中でも、一般的に空売りができない新興市場銘柄を日計りで空売りできる「HYPER空売りサービス」が人気だ。また、スタンダードプランとアクティブプランがあり、アクティブプランなら1日100万円までは取引手数料が0円なのもうれしい点だ。
貸株料についても、1回の取引が100万円以上であれば、貸株料無料になる点も押さえておきたい。ほかにも、預かり資産残高等によって、手数料や金利の優遇も実施されている。ただし、こちらは大口の取引をする場合に限られる。
楽天証券
「ネット証券総合ランキング比較」で人気No.2を獲得した楽天証券。
日頃から楽天経済圏でメリットを享受している人も多いだろう。楽天証券の「超割コース」を選べば、信用取引の手数料に応じて楽天ポイントが貯まる。貯まったポイントは、買い物や投資で自由に使うことができる。
「いちにち定額コース」を選べば、1日100万円までの取引なら、取引手数料は無料だ。また、1回の取引が100万円以上であれば、貸株料は無料になる。条件を満たすと手数料や金利が優遇される「大口優遇」もある。
松井証券
松井証券は、若年層の資産形成をサポートするため、25歳以下の株式取引手数料(現物・信用)を無料化している。25歳以下で少額から株式投資を始めたい人は、松井証券で口座開設すれば、手数料を気にせず取引できるだろう。
また、年齢に限らず、1日50万円までの信用取引の取引手数料は無料だ。SBI証券や楽天証券同様、1回の取引が100万円以上であれば貸株料が無料になるのもうれしい点だ。
デイトレード限定で手数料が無料になる「一日信用取引」もある。1注文当たりの約定金額が100万円以上だと、金利も0%になる。
マネックス証券
銘柄分析ツールが充実しており、サイトの見やすさにも定評があるマネックス証券。長期業績や貸借対照表(BS)、配当利回りをグラフ化してくれるなど、銘柄分析に役立つ「マネックス銘柄スカウター」が人気で、銘柄選びに苦手意識がある人も、根拠を持って銘柄を選びたい人も、納得して投資ができる。
取引手数料は、1注文当たり99円、1日定額コースなら1日当たり550円だ。
auカブコム証券
三菱UFJフィナンシャル・グループが運営するネット証券のauカブコム証券。「ネット証券総合ランキング比較」では人気No.3を獲得している。特に銘柄検索やチャートで高得点を獲得しており、使いやすさに定評がある。
取引手数料が条件なしですべて0円なのはうれしい点だ。また、残高や約定金額に応じて金利が優遇されるプランも用意されている。
auカブコム証券には、「信用ロボアド」というサービスがある。ロボットアドバイザー(ロボアド)とは、AIが投資家の投資スタイルに合わせて投資の助言をしてくれるサービスのことだ。AIのアドバイスを受けられるため、初めて信用取引をする人にとっても安心だ。
SMBC日興証券
三井住友フィナンシャルグループ傘下のSMBC日興証券。ダイレクトコースの場合、信用取引の手数料はすべて0円だ。人気アナリストのレポートが充実しており、初心者も投資経験者も満足できる。
また、すべてのフル板情報を超高速でリアルタイムに届けてくれる次世代サービス「BRiSK for SMBC日興証券」や、過去の膨大なデータから逆日歩を予測する「逆日歩予報」など、投資家にとって魅力的なサービスが豊富だ。
SBIネオトレード証券
2021年にライブスター証券がSBIホールディングスの傘下に入り、SBIネオトレード証券が生まれた。信用取引の手数料がすべて0円なのはうれしい点だ。
初心者にもわかりやすいシンプルなWeb版トレードツール、カスタマイズ可能なアプリ版トレードツール、投資経験者も満足できる多機能なダウンロード版トレードツールなど、ツールも充実している。
入金・入庫で制度信用の買方金利が最良1.19%に優遇されるキャンペーンなど、お得なキャンペーンが実施されており、要注目だ。
LINE証券
LINEグループと野村證券グループが設立したネット証券のLINE証券。信用取引は、2020年5月からスタートしている。制度信用のみで、一般信用は行っていない。
操作が簡単で初心者でも始めやすく、シンプルで使いやすいアプリが人気だ。ただし、詳細な分析などはできないため、一定の投資経験がある人は、物足りなく感じてしまうこともあるだろう。
信用取引で、投資家としてひとつ上のステップに
これまで解説してきたように、信用取引にはリスクもあるが、メリットも多い。うまく活用すれば、リターンを高めることができる可能性もあるだろう。
特性を理解したうえで、信用取引を活用すれば、投資家として「ひとつ上のステップ」に上れるのではないだろうか。