

貸金庫は、お客様が、主として有価証券・通帳・証書・権利書等の重要書類や貴金属等の財産を保管するために、金融機関が店舗内の保管場所を有償で貸与するサービスであり、契約形態としては賃貸借契約に該当するとされています。
貸金庫は、賃貸借契約という性質上、お客様の利用状況を把握・管理する手法が限られることから、マネー・ローンダリングや金融犯罪のリスクが高い取引といえます。
具体的には、金融機関は、お客様が貸金庫内に何を保管したかを確認することはありません。また、お客様が単独で開閉することが可能な貸金庫もあるため、お客様がいつどのように貸金庫を利用したかを把握することも難しいといえます。
したがって、貸金庫の保管物の秘匿性は非常に高く、マネー・ローンダリング等を企てようとする者は貸金庫内に財産を保管することで、容易に隠匿することができます。
事実、国が毎年公表している「犯罪収益移転危険度調査書」では、以下のように、貸金庫がマネー・ローンダリングに悪用された事例が紹介されており、マネー・ローンダリングを企てようとする者が、架空名義( 偽名) や他人名義( 借名)により貸金庫契約を締結・悪用し、真の利用者を隠匿しつつ、犯罪収益を物理的に保管している実態がみられます。
・だまし取った約束手形を換金し、その現金の一部を親族が契約した銀行の貸金庫に保管していた事例
・詐欺事件の犯罪収益が暴力団組織へ上納され、暴力団幹部が家族名義で契約している銀行の貸金庫に隠匿していた事例
また、金融庁が公表している「疑わしい取引の参考事例」では、貸金庫を利用中の顧客が以下のような「真の利用者を隠匿している可能性がある事例」に該当した場合、貸金庫取引についても、疑わしい取引に該当する可能性のある取引として、特に注意を払う必要があるとされています。
・顧客の預金口座が架空名義口座または借名口座であるとの疑いが生じた場合
・口座名義人である法人の実体がないとの疑いが生じた場合
・顧客が住所と異なる連絡先にキャッシュカード等の送付を希望する場合または通知を不要とする場合
このように、貸金庫契約は、マネー・ローンダリング等を企てようとする者が、真の利用者を隠匿して犯罪収益を保管するために利用されているにもかかわらず、契約締結後の管理が難しいという問題があります。したがって、取引開始時(貸金庫契約時)に架空名義や借名での契約を行わせないことが極めて重要になります。