次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社サーキュレーション代表取締役社長の久保田雅俊氏。創業以来、プロシェアリング市場を創造し、拡大させてきただけでなく、サステナビリティへの取り組みにも注力している同社の経営戦略や想いを聞いた。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

株式会社サーキュレーション
(画像=株式会社サーキュレーション)
久保田 雅俊(くぼた・まさとし)
株式会社サーキュレーション代表取締役社長
学生時代に、地元静岡で進学塾を経営していた父が倒れたことから、21歳で会社の清算を経験。地方中小企業の脆弱さ、経営における「経験・知見」の重要性を痛感し、のちのサーキュレーション創業へと繋がる。
大学卒業後、大手総合人材サービス企業に入社。父の介護を続けながら、IT業界の採用コンサルタントとして活躍。最年少部長に抜擢され、リーマンショック後の金融業界を管掌しV字回復を果たす。その後、社内ベンチャーを立ち上げ、同社初のイントレプレナーとしてカンパニー社長に就任。
2014年に独立し、株式会社サーキュレーションを設立。外部のプロ人材を活用した企業のDXやテレワークなどの新しい働き方の普及に向けた講演、執筆、メディア出演活動も精力的に行なっている。経済産業省の人材力強化研究会にも有識者として登壇。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

マーケットの創出と地方創生を進めながら、組織構造も時代に応じて変化

株式会社サーキュレーション

冨田:私自身は久保田さんのことをよく存じ上げていますが、今日は対談ということで、まずこれまでの事業の変遷についてお伺いしたいです。根幹は変わっていないと思いますが、顧客の広がりや変化についてお伺いできると、P/LやB/Sに表れない企業の特徴が見えてくると思っています。

久保田:サーキュレーションは世界でも注目される、人生100年時代の新しい働き方の1つとして、1人が複数社で働くプロの領域に集中して立ち上げてきました。現在、「プロシェアリング」とお伝えすると「プロ人材のシェアだよね」とすぐに理解していただけることもありがたいことに増えてきましたが、創業した7年半前は働き方改革という言葉も、オープンイノベーションへの注目もありませんでした。

株式会社サーキュレーション

そのような若いマーケットで、最初にお客さまになっていただいたのはベンチャー企業です。マーケットがない中で、本当に1社1社、ビジョンとメッセージを伝えながらやっていたのが第1フェーズです。

その後、銀行とのアライアンスを進めて、地方創生の取り組みを進めています。2014年に安倍政権が「ローカルアベノミクス」を打ち出したというニュース見た瞬間に、戦略を練り、手を挙げさせていただきました。日経新聞の企画でスピーカーとして立ちながら、地銀さんとネットワーキングをしていきました。これが第2フェーズです。社会的価値を生み出せる会社にしていこうと考えて、地方創生とサステナビリティの取り組みは早期に始めましたね。

現在はあまねくお客さまに使っていただけるプラットフォームに進化していて、大手企業のDXプロジェクトや新規事業プロジェクト、また人事や広報といったバックオフィスへのプロシェアリングを進めていると同時に、中小・ベンチャー企業さまにも引き続き使っていただいています。

組織の面では、サーキュレーションはセールスが強いと思われがちですが、実は3年前にThe Model型への切り替えを済ませ、ビジネスもリカーリング型のモデルに切り替えています。非常に蓋然性の高い利益創出ができる仕組み作りを行ってから上場したという流れになります。

株式会社サーキュレーション

冨田:当社でも定期的にサーキュレーションさんのサービスを使わせていただいていますが、ベンチャー周りはもう使わざるを得ない状況とサービス品質だと思います。これを本当にマーケットのないところからつくってこられたのですね。

久保田:ありがとうございます。ただ、大企業が社員や派遣社員と同じくらい当たり前にプロ人材を活用していく未来までを考えると、まだマーケットは創っている段階ですね。でもいま、会社の成長戦略の1つとしてプロ人材を活用するということが、世界的に広がってきています。

例えばGoogleでは半分以上がプロ契約で、ストックオプションと、給料ではなく報酬、保険ではなくジョブへの対価で受け取る形を取っています。このマーケットは、日本ではまだ選択肢にすら入っていないので、今後広げられる部分だと思っています。

「時間」ではなく「成果」を基準に要件定義をする

冨田社長

冨田:たくさんの労働力を確保して大量生産できたら勝ち、みたいな戦い方から、AIを含めてDXで生産性を上げる仕組みができてきたときに、何が企業に足りないポイントになるかというと、圧倒的な知見だったりします。我々はPDCAのコンサルティングやクラウドサービスを提供していて、もちろんPDCAを回して知見をためることは重要なのですが、それを100周ぐらい回して得た知見を投下するだけで、100周分のPDCAをショートカットできる。このことの価値は高いですよね。

我々が各社さんにPDCAを提供する際も、ショートカットするためにプロの知見を掛け算することをむしろ推奨しています。プロは100周どころか1000周以上回した方たちだと思うので、その知見を一瞬で落としてもらって掛け合わせていくことの価値は非常に高くなっていると思います。

久保田:新しいプロジェクトをスタートする際、要件定義が肝なんです。プロシェアリングの契約では、どこまでの成果を出すのかを最初に決める。この議論をできるところがポイントになっています。就業規則で何時から何時までという形で縛る世界ではなく、どんなテーマで、どのぐらい稼働してどういう成果を残すのかをコントラクトとして契約書に落とし込んでいきます。

冨田:面白いですね。PDCAでいう「Plan」の部分が「コントラクト」になるわけですか。

久保田:そうなんです。プロの人たちはもう、そちらのほうが正しいと考えています。ただ、どうしても日本はメンバーシップ型で人と業務が流動的に結びつく環境が一般的だったため、プロジェクト内におけるプランニングや要件定義が弱い。だから「何を成果とするのか」をまずはちゃんと定義すること。その次にあるのがプロジェクトマネジメントです。僕らのプロジェクトマネジメントは、時間ではなく「成果」を狙っていくという価値観で、プロ人材を活用いただいています。

1人3プロジェクトの実行を支える4種類のデータ

冨田:サーキュレーションさんはマーケットリーダーとして先頭を走ってきたと思いますが、とはいえ当然マーケットが広がれば広がるほど、競合が増えていくでしょうし、サーキュレーションさん自体も周辺市場に広がっていくような動きも考えられると思います。そんな中で自社の競争優位やコアコンピタンスはどこにあるとお考えでしょうか?

久保田:プロ人材のデータですね。私たちのビジネスモデルの特徴は、1人が3プロジェクトに入れることです。これまでの人材ビジネスは、正社員はもちろん、SIでもコンサルファームでも、だいたいが1人1プロジェクト、あるいは1社に入ります。プロシェアリングでは1人が同時に複数プロジェクトで稼働でき、プロジェクトも完了まで伴走するので、データマネジメントが肝になります。

いまは4つのカテゴリでデータを収集しています。「スキルのデータ」「企業のイシューのデータ」「コントラクト(契約)のデータ」「プロジェクトのプロセスデータ」です。これらを活用して適切にプロジェクトを評価していく仕組みを社内で設けています。

データを入れて活用することで、お客さまの課題に対する「ベストなマッチング」のみならず、「解決手段」まで明示できるのです。もちろんプロ人材が過去にどういうプロセスで問題解決してきたのか、その評価もわかります。このデータがコアコンピタンスになると思っています。

冨田:面白いですね。サーキュレーションさんは必ず1つのプロジェクトに担当者が1人ついて面談に参加されていますよね。そこに汗をかかれているのは、いまおっしゃった4つのデータを確実に蓄積し続けることを狙いとしているからでしょうか。

久保田:はい、そうですね。データ蓄積のために最も重要視しているのがカスタマーサクセスです。そのためにカスタマーサクセス部隊を設けてはいるものの、将来的に大事なのはデータを元にした高いサービス品質と、お客さまとのタッチポイントでの体験価値だと思っています。これを両軸で進めていくことを大事にしています。

冨田:経営の意思決定の中でこだわっているポイントや他社と比べて特徴的な部分はありますでしょうか。

久保田:大きく考え、大胆にやる。そして、驕りなく、甘さなく、他責のないチームだと思っています。やはりプロ人材と一緒に働いていますし、常に企業経営と向き合う身ですので、経営陣は本当に驕りや甘さを持たず、他責にしないでやっていこうと心がけています。あとこれは僕の感覚ですが、カラフルなチームだなと思います。僕と各役員は本当に、違う種類の人間というか。

冨田:コアの部分は共通しているものの、社長が持っていない特徴をそれぞれが持っていて、かけ合わせるとすごくいい色になるというような感じですかね。

BtoBベンチャーがサステナビリティへの取り組みにリソースを割く理由

冨田:もう1つすごいなと思うのは、久保田さんは顔が広いですし、上場も迎えられて、経営者としてたくさん褒めそやされたり、「すごいすごい」と言われたりすると思うのですが、その中にあっても驕らないというのは、何か仕組みで解決されているのでしょうか。

久保田:いや、単純に驕れないんですよ。ビジョンを掲げて、サステナブルを掲げて、仲間を集めてやっているので。あとは、結構手厳しい人と付き合っているからですかね。僕はいつも素晴らしいメンターの皆さまに恵まれて事業をしてきましたし、コロナ禍での上場だったのでお祝いもほどほどでしたし。だからそこまで「すごい」と言われることはないですね。

冨田:なるほど、確かに久保田さんは上の世代でより先のフェーズにいる先輩経営者と親しいイメージがあります。そういう方々を当たり前として見ているからこそ、謙虚に自分自身を捉えられているのかなと思います。では最後にぜひ未来に向けての構想をお話しいただければと思います。

久保田:「新しい働く価値観を創る」ことをずっとやってきました。なかなか社会が変わらないなという初期があって、徐々にマーケットが変わってきて、コロナ禍となって。本当に働き方への思考の深さが変わったなと思います。僕らは「人の可能性を最大化する」と掲げて、かつては可能性を発揮できる場が限られていたプロ人材とのプロジェクトを9300件ほど創ってきて、やっとマーケット規模が広がってきました。

この次に必要なのは「プロになる人」を増やしていくことです。これがすごく難しくて、まさに今言われている「リカレント教育」が求められます。「人の可能性を最大化する」というのは、「何年大企業に勤めて、年収がいくら」というような“条件”ではありません。自分自身の可能性が最大化されているという“実感”です。それが実現できるようなマーケットをつくっていかなければと、長期的には考えています。

冨田:サステナビリティページも公開されて、「知のめぐりをよくする。」というスローガンのもとに、「機会格差をなくし、人の可能性を最大化する」と掲げ、そのための活動として5つのマテリアリティを示されています。この辺りは決算資料でも押し出されていますが、これも未来に向けたメッセージと理解してよろしいですか。

株式会社サーキュレーション

久保田:そうですね、サステナビリティについてはおそらくどの会社でもやっていないくらい時間をかけています。例えば経営陣だけでも、3年間かけてサステナビリティについてのラーニングをしています。上場後すぐにサステナビリティ委員会を設置して、専門家に参画してもらい、役員全員に加えて執行役員や部長まで巻き込んで、インプットを欠かさない体制を創っています。

社内にも専門部隊を置いてソーシャルセクター向けサービスを提供し、それを月2~3本、ウェビナーとしても発信しています。これでもまだまだ道半ばで、100のうちの1くらいの感覚です。僕はBtoBのベンチャーでも、社会のためになっている実感を持てるメンバーが1人でも増えるだけで、未来に寄与できると思っているんです。

冨田:私が初めて久保田さんのところを訪問したときに、プロ人材と同じコワーキングオフィスでお会いしたのを覚えています。そのときに「これからこういう時代になるんですよ」っておっしゃっていたことを、今日お話を伺いながら思い出しました。まさにそれを自分たちで体現されてきたのがサーキュレーションさんなのだなと腑に落ちました。今日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
久保田 雅俊(くぼた・まさとし)
会社名
株式会社サーキュレーション
役職
代表取締役社長
受賞歴
2015年ベストベンチャー北尾賞