
企業支援で活躍する全国の人材に登場してもらい、そのノウハウや実践知、支援事例を紹介する。
はくさん信用金庫の取組み──取引先に伴走し一緒に課題解決策を検討
今回は、はくさん信用金庫(石川県金沢市)の事業先支援部コンサルティング室の山本浩一室長に、支援事例をご紹介いただいた。
喜ばれることを目指し伴走支援を実施
はくさん信用金庫は、2020年9月に北陸信用金庫と鶴来信用金庫が合併し誕生した。発足時に「経営改善や事業再生などのコンサルティング機能を発揮していく」とコンサルティング業務を重点施策として掲げた。これを受けて21年2月、事業先支援部内に新たにコンサルティング室の設置に至り、私が初代室長を命ぜられた。
コンサルティング室が発足してからの1年間は、新型コロナウイルスの影響を受けて、数多くの事業者の経営に影響が出ており、数多くの支援先候補が上がった。当金庫では支援対象を「経営改善支援先」「コロナ融資先」「本業支援先」と明確にしており、コンサルティング室としても多忙を極めた。
現在は各スタッフがコンサルティング経験を積んだこともあり、「お客様に喜んでいただける」「お客様に感謝される」ことが最良の支援であり、伴走支援にもつながっていくという共通認識が醸成されている。
コロナ禍であるが、事業者と直接お会いすることを大事にしている。コンサルティング活動には経営者との対話や議論、外部専門家の協力等が欠かせない。このような状況下でも毎日支援先を訪問し、課題解決策を模索し、伴走するスタッフには敬意を表したい。では、当金庫が取り組んできた個別事案をいくつかご紹介したい。
①老舗の繊維製造業の支援
まず取り上げるのは、繊維製造業の事例である。同社はコロナ禍以前より利益率が低下傾向にあり、また不良製品が急増するなど不安定な状態にあった。
まず私たちは、経営者、続いて幹部社員にヒアリングをしたところ、小さな違和感があった。「現場を統括している幹部社員と従業員との間にコミュニケーションの壁」を感じたのだ。もしかしたら不良製品の急増の原因が、ここにあるのではないかと仮説を立て、従業員全員から話を聞くことにした。社外の人間だからこそ知り得る、社内の不協和音である。その結果、従業員からは外国人労働者とのコミュニケーションの難しさや労働環境の悪化など、様々な問題を聞くことができた。
私たちはその結果を無記名化して経営陣に示し、喫緊の経営課題として改善会議を立ち上げることにした。「従業員の不満」という社内の綻びについて、真摯に向かい合うことで、会社全体のコミュニケーションが改善することになり、結果としてオペレーションが改善することにつながった。具体的には、従業員の意見から「前工程での検査強化による、製品の不良率の大幅な低減」「省エネクーラーの設置による労働環境改善」などに取り組み、経営者と従業員が会社の経営改善にまい進する結果となり、事業も黒字化に転じたのである。
同社は、欧州中東向け製品が主力であったため、新型コロナの影響を受けて工場稼働率は60%台に落ち込んでいたが、経営が安定したことで、大手繊維メーカーからの新規受注に対応することができた。また、再生糸の加工技術等が評価され、工場は現在フル稼働状態となっている。コロナ禍以前、コロナ禍中の経営支援が身を結んだ経営改善支援事例となった。