保険募集,重要関連法制,違反事例,コンプライアンス
(画像=kouta/PIXTA)

ケース⑫ 保険募集制限先に関する確認が漏れて保険の提案をしてしまった…

『バンクビジネス』より引用
(画像=『バンクビジネス』より引用)

金融機関の保険窓販では、当該金融機関から事業性融資を受けている法人(保険募集制限先)に対して代理店手数料を得て保険募集を行うことは禁止されています。 

そのため、金融機関では保険の提案にあたり保険募集制限先に該当しないことを確認するチェックシートやアプリなどを用いていますが、保険募集制限先に対して保険の提案をしてしまったというのは実際には多く発生している類型です。 

例えば、保険募集制限先に関する申告書に記載された法人には事業性融資はなかったものの、被保険者が代表を兼務する別法人には事業性融資があり、金融機関内ルールでは兼務先についても確認する必要があったにも関わらず見落としてしまったような事例があります。 

そのほか、保険募集制限先を確認するアプリを使用したにもかかわらず勤務先の正式な名称を入力しなかったため行内チェックをすり抜けて契約が成立してしまったようなケースがあります。 

制限先社員の家族に対する募集は禁止ではないが… 

また、保険募集制限先に該当する会社の社員が契約者・被保険者となる保険募集はできませんが、その家族に対する募集は法令上は禁止されていません。 

しかし、形式上は禁止されていなくても、家族への保険募集が「信用供与の条件として保険募集をする行為、その他の自己の取引上の優越的な地位を不当に利用して保険募集をする行為」である場合には、法令違反として行政処分の対象となる恐れがあります。 

そのため、保険募集制限先に該当する人の家族に対して募集を行うのであれば、募集時に圧力募集や保険募集制限先規制の潜脱行為がないこと、そして、事後的に募集記録などでそれを証明できるような態勢整備が必要であるとされています。 

適切な対応のポイント 

• 制限先に関する確認では、複数の法人の代表者の場合それぞれしっかりチェック
• 制限先の家族への募集では圧力募集等がないことを証明する態勢整備が必要

ケース⑬ 保険契約の見返りにローン金利(預金金利)の優遇を約束した…

▼こんなことしていませんか
普段から顔見知りのお客様に「今後もメインバンクとして長く取引していくので、定期預金の金利を優遇してほしい」とお願いされた。このお客様は、今後も金融商品の提案の見込みがあり断りづらかったので、「生命保険を契約してもらう」という条件をつけて、金利優遇に応じることにした…。

保険業法第300条1項には保険募集に関する禁止行為が規定されており、同法1項5号には下記のような行為が禁止されています。 

・保険契約者または被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を約し、または提供する行為 

金融機関の皆さんであれば、本業を通じてお客様にノベルティ(粗品)を渡すことがあると思いますが、金融機関ごとに厳格なルールがあるでしょう。 

保険募集に関しても同様で、各保険会社は保険業法に抵触しない範囲でノベルティ基準を定めていますので、それを順守することが必要です。 

一般的に、現金はもちろん、電子マネーや換金可能なものは、実質的に同法で既定するところの「保険料の割引・割戻し」になると考えられており、お客様への提供を不可としている保険会社がほとんどです。よって、ノベルティとしては、タオルやカレンダー、手帳などの一定金額までの物品としていることが多いようです。 

一見保険料の割引に思えないものにも留意する 

また、ノベルティ以外でも、住宅ローンや定期預金の金利優遇の条件として当該金融機関で保険に加入することを例示したり、生命保険の見込みづくりのために保険証券収集キャンペーンや保険相談キャンペーンを実施して、カタログギフトや換金性のあるクオカード等を提供する行為も禁止している保険会社がありますので留意が必要です。 

住宅ローンや定期預金の金利優遇は、一見、「保険料の割引・割戻し」とは思われません。しかし、間接的にお客様の金銭的な負担を軽減することで実質的に利益を提供していますので、総合的に判断する必要があります。 

なお、いうまでもなく、募集人が保険契約をしてもらったお礼にお客様の初回保険料を負担するなどの行為も厳禁です。これは、特別利益の提供に該当しますので注意しましょう。 

適切な対応のポイント 

• 各金融機関ごとに定められているノベルティ基準を順守する
• 金利優遇については、実質的に利益を提供しているので総合的な判断が必要

ケース⑭ 事業性融資担当者として保険募集に同行して募集に関与した…

▼こんなことしていませんか
融資完済先に保険募集を行う際、保険募集人は契約者と面識がなかったため、事業性融資担当者に同行してもらうことにした。しかし保険契約の途中で、保険募集人は急用で帰宅することになった。このお客様は平日にアポイントを取ることが難しいので、代わりに事業性融資担当者が、契約の申込みを受けることにした…。

保険業法施行規則第212条3項3では、事業性融資担当者が保険募集に携わることがないように次のように規定されています。 

・銀行等が、その使用人のうち事業に必要な資金の貸付けに関して顧客と応接する業務を行う者が、保険募集( 第1項第6号に掲げる保険契約に係るものに限る) を行わないことを確保するための措置を講じていること(以下、省略) 

保険業法では、融資という優越的な地位を利用して、保険募集を圧力的に行うことがないように定められており、一般には「担当者分離規制」といいます。 

皆さんは、「融資担当者だからといってお客様に圧力をかけているつもりはない」と思われるかもしれません。しかし、融資を受けているお客様の立場としては、「いつかまた、融資を受けることになるかもしれないので」と金融機関の融資担当者とは円滑な関係を望むものです。 

結果的に、お客様側が忖度して本来必要がない保険契約をしてしまう可能性があり、そのようなことを未然に防ぐために設けられている規制なのです。 

事業性融資担当者が保険募集に携わり得る例は 

例えば、融資完済先に保険募集を行う際、保険募集人は契約者と面識がなかったため、事業性融資担当者に同行してもらうようなケースがあります。事業性融資担当者は保険募集に関与しないつもりであったとしても、保険募集人と同行して商談している中で、結果的に募集に関与してしまうことがあるのです。 

また、行内の書類チェックで、「事業性融資担当者が自身の家族に保険募集を行い、取扱報告書の作成のみ、担当者分離規制の対象外の募集人に依頼した」というケースが発覚することもあります。 

なお、「特例地域金融機関」が適用されている場合には、担当者分離規制に対する緩和規定がありますので、自行庫のルールに従って、正しく募集を行ってください。 

適切な対応のポイント 

• お客様の立場に立ち、保険募集を圧力的に行うことがないようにする
• 特例地域金融機関には担当者分離規制の緩和規定があるので自行庫ルールに従う

黒澤 雄