
③減少運転資金
後ろ向きな要素が背景にあることを踏まえ売上予測や仕入計画などのヒアリング内容を資金繰り表に落とし込み適正額を算出
市況の悪化や売上不振などを受け、企業は製造を減らしたり仕入れを圧縮したりすることがある。
その後適正な在庫水準へ落ち着くにはある程度の時間が必要で、その間は売上に比して棚卸資産が過大になっていたり、従来どおりの仕入債務にかかる支払いが発生したりする。
人件費や賃料などの固定費も直ちに削減することは難しいうえ、売上減少により売上債権も減少する。そのため、仮に売上代金の全額を手形で回収してすべて割り引いたとしても、調達可能な資金そのものが減少しているため資金繰りは悪化する。
このように、増加した棚卸資産が適正な水準へ戻るまでに需要が発生する短期的な資金を、減少運転資金という。
減少運転資金は、「売上減少に伴い仕入代金の支払い・諸経費の支払いが困難となっている」といった後ろ向きな要素がある先への融資のため、担当者は慎重に対応しなければならない。
経営者との面談で「今後の売上不振が見込まれる」との相談を受けた場合、まずは在庫調整が終了し経常運転資金が適正水準にまで戻る間の売上について確認し、仕入れに関する計画書の提出、そして詳細な説明を求めよう。
今後の資金繰りの見通しを立てるには、各月の棚卸資産の残高を予想する必要がある。原価率や売上債権、仕入債務の見通しを知るためにも、それぞれの回転期間について改めて確認が必要である。
そうして聞き取った内容を踏まえて資金繰り表を作成すると、いつ・いくら減少運転資金が必要かが把握できるようになるというわけだ。
注意点として、このような融資申込みには、滞貨資金や赤字資金が含まれていることがある。また販売不振により早期の解消見込みが立たない在庫水準になっている、あるいは黒字を装うために架空の在庫を積み増しているという場合もある。どちらも資産としての価値はなく販売は困難なことから、返済原資の確保も難しい。
したがって、より一層慎重な審査が必要と心得たい。今後の経営活動から発生するキャッシュフローからの分割弁済を原則として、支援をするにしても長期融資での対応、また担保取得の検討も必要となるだろう。融資希望額が異常に大きい場合は特に注意しなければならない。
中には、自社の売上減少という経営状況をすぐに金融機関に相談できない経営者も多い。経営者から直接の相談がなくとも、試算表や訪問から売上減少や棚卸資産が過大となっていることが確認できたら担当者から声をかけ、早期の支援につなげよう。
また売上不振による減少運転資金需要が発生した場合は、融資提案による資金繰り支援にとどまらず、売上拡大のための販路開拓や経費削減についても支援を行いたい。