近代セールス
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普及に時間がかかったABLの二の舞にならないような議論が求められる。

担保権の新しい概念「事業成長担保権」の導入についての議論が、政府において続いている最中だ。政府は来年にも、法案を国会に提出することを目指していると報道されている。もし実際に導入されるようになれば、金融機関の実務にも影響する。そこで、改めて事業成長担保権の概要と、議論の要点についておさらいしよう。

事業成長担保権の議論が始まったのは2020年11月のこと。中心機関は、金融庁に設置された「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」( 以下、研究会)だ。背景には、産業構造や外部環境の変化がある。

我が国の産業では長らく、工場等の有形資産を事業活動の基盤とする製造業が中心であった。しかし現在はIT業・サービス業といった、必ずしも有形資産を保有しない新興企業が増えている。

外部環境の変化もある。経済が成熟した現在の事業活動においては、顧客基盤や知的所有権といった無形資産の重要性が高まっているのだ。

こうした背景を踏まえ、有形資産に限らず事業全体を包括的に担保対象とする「事業成長担保権」が検討されているのである(図表1)。

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具体的な議論進捗については、21年11月30日に研究会にて行われた議論の論点整理2・0が公表。さらに金融機関からの「実務上のイメージが湧かない」という意見に対して、22年4月8日には米国の類似担保である「全資産担保」についての調査報告書が公表されている。

なお、過去4回開催された研究会議事録は金融庁のHPで公開されている。例えば21年10月25日開催の研究会事務局資料3によると、事業成長担保権について次のように検討・議論されていることが分かる。

「事業成長担保権とは、法人の債務(将来発生する債務を含む。)を担保するために設定する担保権であって、その目的物は、動産、債権のほか、契約上の地位、知的財産権、のれん等(将来発生するものも含む。)も含められるものとするか。ただし、次に掲げるものは、除くか。

一 不動産

二 預金債権(預金口座を管理する金融機関の同意がある場合を除く。)

三 振替証券(振替口座を管理する機関の同意がある場合を除く。) 」

こうした表現からも分かるとおり、事業成長担保権はまさにいま議論の最中なのである。

現場目線を踏まえた議論が求められる