近代セールス
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全国の金融機関の融資金利の傾向を都道府県別に調査・分析した著書で金融分野の研究者の間で話題を集めた、小倉義明・早稲田大学教授に、金利の傾向やあるべき金利設定について聞いた(敬称略)。

小倉義明(おぐら・よしあき)
1973年生まれ。95年京都大学法学部卒業。99年京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。2005年コロンビア大学大学院博士課程修了。2015年より早稲田大学政治経済学術院教授。『 地域金融の経済学―人口減少下の地方活性化と銀行業の役割』(慶應義塾大学出版会)で2022年に第62回エコノミスト賞受賞。

──まず、法人融資金利の傾向をお聞かせください。

小倉 簡単に言えば、多くの金融機関の貸出金利は定価ではなく割引販売の状態です。

まず、金融機関の法人融資における貸出金利は、①預金を中心とする資金調達コスト+②融資先ごとの信用コスト+③競争要因という要素に分解できます。①+②は概ね金融機関の基準金利となります。③の競争要因は金融機関が案件ごとに調整する数値をこう呼んでいます。プラスもマイナスもありますが、各種の調査からマイナスが多い傾向が読めます。すでに10年前の時点で、基準金利を下回る「原価割れ」の融資は全体の約7割に及んでいました。

──なぜ、原価割れでも実行してきたと見ていますか。

小倉 競合金融機関の金利と企業の需要の両面を踏まえ、融資獲得を図るためと考えられます。原価割れでも、融資稟議では「将来の総合取引拡大の見地から~」などと記載し、低金利で実行する傾向があります。ミクロ経済学では、企業には損益分岐点と操業停止点という基準があり、先述した金融機関は両者の間にいる状態です。簡単に言えば、損益分岐点は変動費と固定費を賄える売上で、下回ると赤字になります。操業停止点は、変動費までは賄えないものの固定費だけなら賄える売上を指します。金融機関は、融資で賄えない分を他の分野で補っているわけです。

金利を下げても需要が増えない傾向