年金基金
(写真=Thinkstock/Getty Images)

高齢化は、デフレ圧力なのか、インフレ圧力なのか、これまで大きな議論の混乱があった。高齢化は、供給者(生産年齢人口)に対する需要者の割合が大きくなるため、通常はインフレ圧力になるはずである。しかし、高齢化が進行してきた日本では、デフレ圧力が強かったため、生産年齢人口の減少それ自体が需要を減少させデフレになるという少し窮屈な論が浸透していた。高齢化を過剰に懸念し、それに備えようとすると、貯蓄が大幅に前倒され、短期的にはデフレ圧力になってしまう。供給者(生産年齢人口)に対する需要者の割合が大きくなるため、長期的にはインフレ圧力になることは変わらない。このようなロジックで、高齢化は過剰な準備があれば短期的なデフレ圧力、長期的にはインフレ圧力ということが理解できる。

家計の貯蓄率の低下が財政ファイナンスの懸念として指摘されてきたが、それが高齢化にもかかわらず年金基金が過度に積み上げられた結果だとすると、かなりおかしな展開になっていたと言える。高齢化を懸念して必要以上に公的な準備を前倒しし、それが家計のファンダメンタルズを悪化させ、貯蓄率の低下が更なる財政不安につながり、増税と社会保障負担の引き上げが更に家計のファンダメンタルズを悪化させる、悪循環になっていたと言える。

現在は年金基金が取り崩されているので、貯蓄から需要への変化となり、内需と雇用環境の回復につながり、それが家計の貯蓄率を修復させてきたと考えられる。消費者心理が改善し、内需が拡大に転じ、デフレ圧力が和らぐ、これまでとの逆の展開となっている。家計の貯蓄率は十分に修復してきたため、これからの雇用・所得環境の改善による総賃金の増加分は、消費の増加につながっていく可能性が高い。その動きが強い景気回復を持続的にし、デフレを完全に払拭し、保有している金融資産や不動産などの価格も上昇していけば、家計の安心感は更に強くなっていく可能性がある。リスク資産価格の上昇は、私的な準備をより容易にし、消費の拡大にもつながる。

家計の安心感は、消費税率引き上げなどにより財政収支が改善することではなく、しっかりと貯蓄ができる環境が整ってこそ生まれる。増税と社会保障負担増加によって財政再建を進め、社会保障に対する信頼を高め、その安心効果で消費を拡大させようとしても、家計の貯蓄率が大幅に低下するほどのことをしてしまえば、消費者を逆に不安にするだけだろう。

今回の消費税率引き上げも、家計のファンダメンタルズ悪化による貯蓄率の低下につながった。その後の消費の停滞により、増税による安心効果はほとんどないことが確認された。本来は年金基金は存在するだけで安心材料になるはずであり、それが取り崩されるということは現役世代の所得を増加させ、デフレ圧力が和らぐことになる。それが誤解により、取り崩しが始まっただけで財政に対する過度な不安感を抱き、消費税率引き上げや現役世代の社会保障負担増加につながってしまえば、家計のファンダメンタルズは更に悪化し、デフレ完全脱却の力を削いでしまうことになる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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