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(写真=PIXTA)

ドル/円が昨年10月末に110円を超えて大きく上昇した要因には、日銀の追加緩和だけでなく同時に発表された本邦公的年金基金(GPIF)の想定以上の外貨資産購入姿勢があった。

実際、GPIFは昨年10-12月期に日本株や外国証券の購入を大きく増やした。もっとも、今年に入ってからも昨年10-12月期と同ベースでポートフォリオ調整が行われたと仮定すると、現時点でGPIFは既に新基本ポートフォリオの比率を達成しており、追加的な外国証券の購入とそれに伴う円売りは非常に限定的となりそうだ。

日銀の円安牽制や追加緩和消極姿勢と合わせ、円安圧力は着々と後退している。


円安の影の立役者、GPIF

ドル/円は昨年10月末、日銀が予想外の追加緩和を発表したことから109円台から1日で112円台へ上昇し、その後12月入りにかけて120円乗せへ続伸した。

この際、米国の利上げ開始期待を受けたドル高地合いに加えて、同日にGPIFが対外投資を大幅に増やす運用改革を決定・発表し日銀との協調姿勢が演出されたことも円安化の重要な追加要因だった。

新たな基本ポートフォリオでは外債が15%、外株が25%、合計40%と、発表時点で公表されていた最新比率である昨年6月末時点の外債11.1%、外株16.0%、合計27.0%から大幅な引上げとなり、事前の市場予想(30%程度)をも上回った。

実際、昨年10-12月期には外国証券の比率が29.5%から32.8%へ上昇し、金額にして6.2兆円増加していたことが明らかになっている(但し新規投資額だけでなく評価額の増加も含む)。

GPIFの運用を事実上のベンチマークとして運用している企業年金も多いとされ、また国家公務員共済など準公的年金基金もGPIFと一体運用に向かうことから、追随的な動きも期待されてきた。

なお、外貨運用についてGPIFでは為替ヘッジを行わない方針であることから、外国資産への新規投資はそのまま為替市場での外貨買いに繋がることになる。


任務ほぼ完了、円安圧力は弱まる見込み

もっとも、既にこれまでハイピッチで新基本ポートフォリオに向けて運用シフトが行われてきたことから、今後、外国証券への追加的な資金シフトに伴う外貨買い・円売り圧力は低下に向かうとみられる。

GPIFの最新の運用状況は昨年10-12月期分までしか公表されていないため、今年1-3月期、4-6月期も昨年10-12月期と同ペースで総資産額が増加し、各資産比率の変更幅も同じだったと仮定すると、外国証券比率は毎四半期に3.2%ポイントずつ引き上げられることとなり、今年6月末には39.3%と、新基本ポートの40%をほぼ達成していることになる(次頁の表を参照)。

もちろん、基本ポートフォリオからの乖離も許容されており、外国証券の場合は最大12%ポイント上振れすることができるほか、短期資産に滞留させている資金も数兆円あるとみられ外国証券を含む他資産への投資に回せる資金が存在するのも事実だ。

もっとも、欧米の債券市場ではボラティリティが高まっており、米国株式市場では割高感が徐々に高まるなど、他の資産クラスを犠牲にしてまで積み増す長期的なメリットがあるかは不明だ。

更に、今年2月にはGPIF運用委員会の一部委員(清水委員)が、外国資産保有に関して、円高時の為替差損を回避するための為替ヘッジ取引の導入の必要性を指摘した。

三谷GPIF理事長は6月5日、為替ヘッジ導入について拙速に答えを出す必要はないとしているが、今後円安が進まなくなると、こうした議論が活発化する可能性もあり、為替ヘッジに伴う外貨売り円買い、あるいは外国資産購入時に必要な外貨手当額の減少が意識され易くなりそうだ。

その場合、GPIFの対外投資の円押し下げ力が弱まることから、為替市場で円安要因としては考慮されなくなってくる可能性が更に高まる。

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円相場へのインプリケーション

こうしたGPIFの外国資産購入余力の縮小は、ドル/円相場が一時125円を超えた直後に黒田総裁が事実上の円安牽制発言を行ったのと同時期に起きており、かつ日銀が16年度前半にインフレ目標2%を達成できるという自信を維持する中で年内の追加緩和の可能性が低くなっているのとも重なる。

日銀の大規模金融緩和とGPIFの対外投資増加は、昨年10月末以降の強力な円売り要因であり、これらがなくなるようだと、円安圧力は大きく後退する。ドル/円の場合、米景気の回復と米利上げという米ドル高要因が健在で、125円超へのドルじり高シナリオの実現可能性は残るものの大きく低下している。

山本雅文(やまもと・まさふみ)
マネックス証券 シニア・ストラテジスト

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