ジェームズ・ボンド
(写真=Getty Images)

いまから51年前、米国のフォート・ノックスに保管された大量の金の延べ棒の貯蔵庫を核攻撃し、金価格を暴騰させようとした男がいた。1964年公開の映画「007 ゴールドフィンガー」のストーリーである。当時のゴールドフィンガーを名乗る男の「運用手法」は、事前に金地金を密輸して大量に保有し、金価格を核攻撃で暴騰させることで収益を狙う「現物投資」であったが、金融のグローバル化が進む現在はより効率的で多様な「運用手法」が考えられる。51年前の映画のようにわざわざ金地金を大量に密輸したり、「核攻撃」を計画しなくても、それ以上の効果を正々堂々と狙うことも可能だ。

では「007 ゴールドフィンガー」を現代の国際金融市場を舞台にリメイクするとどうなるだろうか? まずは、過去の事例をいくつか分析してみよう。

ソロス氏はポンド空売りで15億ドル儲けた

金融市場で大きな利益を出した事で有名なのはジョージ・ソロス氏だ。1992年のポンド危機でソロス氏が率いるクォンタム・ファンドは英国政府の為替介入に対抗して同国の通貨ポンドへ空売りを行い、一説では15億ドルとも言われる利益を得た。

1992年英国はサッチャー政権後期で景気低迷していた。一方、EC(欧州共同体)では域内通貨の統合に向けて域内通貨間の為替レートを事実上固定するENS(欧州通貨制度)とERM(欧州為替相場メカニズム)を進めていた。

英国のERM参加によって、欧州通貨と連動したポンドは次第に過大評価されていった。ポンドが割高だと確信したソロス氏はポンドを空売りするポジションを積み上げていた。9月に入るとポンドはさらに急落。ERMの変動制限ライン(上下2.25%)を超えたため、イングランド銀行は必死のポンド買いの市場介入に加えて、公定歩合を1日に10%から12%、さらに15%まで2回利上げするなど全力で防衛したが、売りは止まらなかった。結局、英国はERMを脱退し、変動相場制へ移行した。

これと同じ手法は1997年のアジア通貨危機でも見られた。ヘッジファンドがタイ、マレーシアなどのアジア通貨に空売りを仕掛けた。アジア経済にスローダウン懸念が出始めたことや外貨準備率が低いのにもかかわらず為替レートが過大評価されていると見て、大胆な空売りを仕掛けた。結局、アジア各国は変動相場制を導入せざるを得ない状況に追い込まれた。

中央銀行に対して通貨の売りを仕掛けるのも凄いが、金額的に史上最高額を稼いだのはリーマンショック時のジョン・ポールソン氏だ。

ポールソン氏はリーマンショック時、CDSなどで150億ドル儲けた

ヘッジファンドのポールソン&カンパニーを率いるジョン・ポールソン氏は住宅価格の下落から来るデフォルトを予想し、トリプルB格債を狙ってCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を大量に購入した。住宅関連以外でも、破綻の可能性のある投資銀行や商業銀行のCDSを購入、英国の銀行株の空売りもして、利益を積み上げた。2007年のポールソン&カンパニーは投資史上最高の150億ドルの利益を出した。

その後、CDSを使ってレバレッジを掛ける手法は、マクロ系、イベントドリブン系ヘッジファンドの主力ストラテジーとなった。2009年末のギリシャ危機から、2010年のPIIGS諸国(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)に連鎖した欧州債務危機でもCDSは市場を大きく揺るがす商品として注目度が上がった。

007ゴールドフィンガーリメイクならETF、CDS、HFTが鍵

大きなポジション作成に現物と同じ役割を果たすのがETF(上場投資信託)だ。2014年以降の外国人の日本株買いの主役は米国で取引されている日本株のETFだったように、コストが安いETFが大手のファンドに好んで使われるようになってきた。先物、オプションがあくまでデリバティブなのに対し、ETFなら現物の所有と等しい。ハイイールド債や新興市場株など通常は流動性に問題があるポジションも、ETFによって比較的簡単に時間を掛けずに大きなポジションがとれるようになっている。

「007ゴールドフィンガーリメイク」で儲けるポジションを仕掛けるなら、ETFで作った現物のポジションに、先物、オプションとCDSを絡めて商いを仕掛けると効果的だ。あとは、HFT(高頻度取引)が市場の動きを加速させる手伝いをしてくれる。

実際、2013年5月のテーパリング(量的金融緩和の縮小)懸念による株の暴落、2015年8月の米利上げ懸念による株の暴落では、株のコールオプションが売られる一方で、「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数が買われた。さらに先物のヘッジ売りも増大し、HFTが下げを加速させている。

狙うなら本命は資源株とハイイールド債、穴は日本国債

「007ゴールドフィンガー」の現代版リメイクを想定すると、国際金融市場で様々なプロダクツに複合的にベットしてレバレッジを掛ける戦略が一番効率的だろう。たとえば、原油先物の売り、資源株の空売り、資源企業のCDS買い、資源企業の発行したハイイールド債のETF、資源国通貨と資源国株の売りが本命だ。

実際、原油が7年ぶりの40ドル割れとなり、世界的にも資源会社の業績は低迷している。ちなみに、ハイイールド債はシェール関連企業などエネルギー会社の記載したものが多い。すでにハイイールド債で7億8800万ドルの資産を運用する米サード・アベニューが、顧客による換金を停止して話題となったのは記憶に新しいところだ。ハイイールド債のETFの値段は急落しており、エネルギー関係会社のCDSは上がり始めている。この一連の動きは、リーマンショック時のパリバショックを彷彿とさせると話題となった。リーマショックもパリバショックから1年が経過したあとに発生しているだけに、気になるところだ。

他方、日本国債の売り仕掛けも穴かもしれない。数年前、ヘッジファンドがよく日本国債売りを仕掛けるポジションをとっているという話を良く耳にした。アベノミクス以降、日本国債売りのトーンは下がってはいるものの、日本の政府総債務残高がGDP(国内総生産)の246%なのは否定できない事実だ。債務危機に苦しむギリシャの172%に比べて1.4倍。日本の財政状態は、ギリシャより遥かに悪く、IMF(国際通貨基金)の予想では今後もさらに比率が上がる見通しだ。

どこかで、日本の景気が大きく低迷し、債務残高がさらに増えた場合、日本国債の売り仕掛け、円急落、日本株急落というシナリオが現実味を帯びたとしても全く不思議ではない。そうなると、さすがのジェームズ・ボンドも防ぐことはできないだろう。

平田和生(ひらた かずお)
慶應義塾大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。国内外機関投資家、ヘッジファンドなどへ、日本株トップセールストレーダーとして、市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスをおこなう。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。

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