2021年6月、一定の所得がある75歳以上の人の医療費の窓口負担を、1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立しました。2割に引き上げということは、単純計算で、負担が倍になるということです。

この高齢者の医療負担増について、実際はどうなるのか、モデルケースによるシミュレーションから、わかりやすく解説します。そして、将来の医療費増加に、30代のうちから備えるための考え方を、ビジネスパーソン向けにお伝えします。

75歳以上の医療費負担は、一定の所得がある人は2割に

医療費負担
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

2021年6月の医療制度改革関連法の成立によって、将来の医療費負担が増加する可能性が出てきました。75歳以上というと遠い将来のことに思えますが、誰もがいずれは老後を迎えます。健康で元気に働く現役世代も、負担増の内容を理解し、将来に備えましょう。

日本では、医療機関を受診しても、医療費の全額を負担する必要はありません。窓口で支払う医療費は現役世代で3割、70歳以上は2割、75歳以上で1割と決められています。残りの7~9割の医療費は、公的医療保険によってカバーされます。

しかし、今回の改正によって、一定の所得を持つ人は75歳以上でも2割負担となりました。75歳以上の約370万人(約20%)が影響を受けるといわれています。

もともと、現役並み所得者(年収の目安は単身世帯383万円以上、複数世帯合計520万円以上)だと、70歳以上でも窓口負担は3割でした。しかし、要件に該当する人が少なく、ふくれあがる医療費をカバーしきれない現状がありました。

そのため、政府は中間となる「2割負担」を設け、より多くの人が対象になるようにしました。今回の改正の対象となる「一定の所得」の年収の目安は、単身世帯200万円以上、複数世帯合計320万円以上です。

医療費負担増加のモデルケースを紹介

1割負担が2割負担になるということは、単純に考えて、負担が2倍になるということです。具体的に、医療費の負担増をどう見積もればいいのでしょうか?

政府が設けた経過措置や、窓口負担額が大きくなり過ぎた場合に使える制度を踏まえ、医療費増加のモデルケースをご紹介します。

ケース1:関節リウマチでときどき通院→年間3万6000円の増

基本的に健康ですが、持病の悪化などで、時折通院している高齢者を想定しました。関節リウマチで通院している場合、1ヵ月の医療費は3,000円でした。改正で2割負担になると、負担増加額は1ヵ月3,000円、年間3万6,000円です。夫婦2人で10年と仮定すると、72万円負担が増加します。

関節リウマチとは、免疫の異常により、手足の関節が痛む病気です。明確な原因はわかっていませんが、過労やストレスが発症に影響するといわれています。進行すると、関節が変形したり、骨同士がくっついたりして、関節が動かせなくなります。微熱、食欲不振、息切れなどの症状を併発することも多いことから、趣味を楽しめなくなったり、日常生活に支障をきたしたりします。

関節リウマチは30~50代に発症することが多く、残念ながら完全に治ることはありません。症状の出方や進行スピードも人によって違います。関節リウマチの初期症状には「身体が重い」「微熱がある」「食欲がない」などの不調があります。「よくある体調不良だ」と安易に決めつけず、早めに専門機関で適切な検査を受けましょう。

ここでは関節リウマチと仮定して試算しましたが、医療費が1ヵ月3,000円というのはかなり健康を維持している稀なケースです。続いて、もう少し医療費が増えた場合を見ていきましょう。

ケース2:腎臓病で定期的に通院→年間8万4,000円の増にも!

いくつかの慢性疾患に悩まされ、継続的に通院している高齢者を想定しました。慢性腎臓病の治療を受けている場合、1ヵ月の医療費は7,000円でした。

政府は経過措置を設けており、3年間は1ヵ月の負担増加額を3,000円以内に抑える方針です。そのため、今後3年間の負担増加額は1ヵ月3,000円、年間3万6,000円ですみます。しかし、4年目からの負担増加額は1ヵ月7,000円、年間8万4,000円です。

ただし、これから老後を迎える現役世代は、この経過措置の恩恵を受けることができません。そのため、ダイレクトに医療費が増加します。単純に10年換算しても84万円です。夫婦2人分で168万円となると、負担増の重みをイメージしやすいのではないでしょうか。

腎臓には、体内の水分調節や老廃物の排泄など重要な役割があります。腎臓病によって腎臓が正常に機能しなくなると、身体に有害な物質が溜まり、息苦しさ・脈の乱れ・思考力の低下などの症状が表れます。悪化すると、意識を失ったり、心臓が止まったりするリスクもあります。

腎臓病にはさまざまな種類があり、20代~30代での発症率が高い腎臓病もあります。腎臓病の代表的な兆候として、血尿、むくみ、高血圧などがあります。ただし、検査をしなければわからないケースも多く、無症状のまま進行していくこともあるため、注意が必要です。

多くの場合、腎臓の状態は一度悪化すると、回復不可能といわれています。そのため、血液透析や腎移植などを検討しなければなりません。また、厳しい食事・運動制限が生まれ、主治医と相談しながら日常生活を送る必要がります。その結果、趣味や交際を断念せざるを得なくなり、人生が一変してしまうこともあるでしょう。

ケース3:糖尿病その他で頻繁に通院→補助により医療費は変わらずながら……

糖尿病が悪化し、他にも複数の慢性疾患に悩まされ、疾患別に通院治療をしている高齢者を想定しました。糖尿病の透析治療の他、関節リウマチや緑内障で通院しており、1ヵ月の医療費は1万8,000円でした。

日本には高額療養費制度があり、窓口負担額が一定額を超えると、超えた分は払い戻されます。今回のケースでは、高額療養費制度の上限1万8,000円(※上限額は年齢や所得によって変わります)を超えた分は払い戻されるため、改正後も負担が増えることはありません。

高額療養費制度のおかげで、医療費の負担は一定の範囲内に抑えられます。しかし、今後ますます高齢化が進み、医療費が財政を圧迫する中、将来も今と同じ恩恵を受けられるとは限らないでしょう。

今回、一定の所得がある人の窓口負担が2倍になったように、高額療養費制度の上限引き上げなどの措置がなされる可能性も十分ありえます。これから老後を迎える現役世代こそ、将来の医療費増加を見据えて、対策を練っておく必要があります。

糖尿病が悪化して、血液透析が必要になると、週3回程度、1回3~5時間は病院に滞在する必要があります。旅行に行く際も、旅先の透析施設を探し、決まった時間に透析を受けなければなりません。

透析では、血液を体外に取り出し浄化してから、再び体内に戻します。透析を始める時や、条件を変更した時などに、透析中から透析後10時間以上にわたって、吐き気・嘔吐・頭痛・脱力感などの症状に襲われることもあります。また、かゆみやけいれんなど、人によってさまざまな症状が表れます。

金銭的・時間的・身体的に、大きな負担感が生まれることは間違いありません。

体質や生活習慣によっては、20~30代で糖尿病を発症し、治療せざるを得なくなるケースも少なくありません。糖尿病の兆候としては「急に太った、もしくは痩せた」「食べた直後でもお腹が空くことがある「喉が渇きやすい」「時々目がかすむ」「疲れやすい」「夜中にトイレによく起きる」などがあります。気になる症状があるなら、早めに専門機関で検査を受けましょう。

30代のうちから健康投資を始めよう

将来の医療費増加に備えるというと、貯蓄をイメージする人が多いかもしれません。貯蓄はもちろん大切ですが、そもそも健康を維持しておくことが大切です。夫婦ともに将来も健康を維持できていれば、世帯の医療費は大きく抑えられるでしょう。

特に糖尿病や高血圧など高額な治療費がかかる疾患は、生活習慣と深い関りがあります。30代は、生活習慣による健康への影響を少しずつ意識し始める年代でもあります。健康にまつわる不安があるなら、まずは健康診断を受け、自分自身の体に潜む健康状態へのリスクを把握しましょう。

自分の身体と向き合い、健康状態を知ることが生活改善の第一歩です。今のうちから適切な健康投資をすることが、将来の医療費の負担を減らすことにつながるでしょう。