多くの人にとって、相続は何度も経験するイベントではないだろう。しかし、いざ相続が発生した際に、法定相続分や遺留分などの知識が乏しいと余計なトラブルに見舞われることもありうる。スムーズに手続きを済ませるためにも、基礎的な知識を押さえておこう。

目次

  1. 法定相続分とは
    1. 法定相続人とは
    2. 配偶者の法定相続分
    3. 第1順位(子ども)の法定相続分
    4. 第2順位(直系尊属)の法定相続分
    5. 第3順位(兄弟姉妹)の法定相続分
  2. 相続権がない人
    1. 離婚した元配偶者
    2. 内縁の妻(夫)
    3. 養子縁組をしていない再婚相手の連れ子
  3. 遺留分とは
    1. 具体的な遺留分の割合
    2. 遺留分の放棄
    3. 遺留分侵害額の請求(遺留分減殺請求)
    4. 遺留分のトラブル事例
  4. 法定相続分のケーススタディー
    1. AさんとDさんが養子縁組をしたらどうなる?
    2. Aさんが「BさんとDさんにすべての財産を相続させる」と遺言を書いたら?
  5. 相続が「争続」にならないように

法定相続分とは

法定相続分
(画像=PIXTA)

法定相続分とは、民法第九百条に定められた共同相続人が取得する相続割合のことだ。民法第九百条には以下のように記載されている。

第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。

二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

法定相続人の順位により法定相続分は異なる。また、同順位の法定相続人が複数いる場合は、その人数で均等に分ける。

法定相続人とは

法定相続人とは、民法で定められた相続人のことを指す。被相続人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は次の順序で相続人になる。順位が高い人が1人でもいる場合は、それ以降の順位の人は法定相続人になれない。

法定相続人 順位
配偶者 常に相続人
子ども 第1順位
直系尊属(父母や祖父母など) 第2順位
兄弟姉妹 第3順位

第1順位において、その子どもがすでに死亡しているときは、その子どもの直系卑属(子どもや孫など)が相続人となる。これを代襲相続という。子どもも孫もいるときは、被相続人により近い世代である子どもを優先する。

第2順位において、父母も祖父母もいるときは、被相続人により近い世代である父母を優先する。第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人になる。

第3順位において、その兄弟姉妹がすでに死亡しているときは、その子ども(姪や甥)が相続人となる。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人になる。

相続を放棄した人は、初めから相続人でなかったものとされる。また、内縁関係の人は相続人に含まれない。

配偶者の法定相続分

ここからは、配偶者、第1順位、第2順位、第3順位の法定相続分について解説していく。配偶者の法定相続分は、以下のとおりだ。

相続人のパターン(法定相続分)
・配偶者のみ(100%)
・配偶者(1/2)+子ども(1/2)
・配偶者(2/3)+親(1/3)
・配偶者(3/4)+兄弟姉妹(1/4)

第1順位(子ども)の法定相続分

第1順位(子ども)の法定相続分は、以下のとおりだ。なお第1順位の法定相続人が複数いる場合は、原則として第1順位の法定相続分をさらに均等に分割する。

相続人のパターン(法定相続分)
・子どものみ(100%)
・配偶者(1/2)+子ども(1/2)

第2順位(直系尊属)の法定相続分

第2順位(直系尊属)の法定相続分は、以下のとおりだ。なお第2順位の法定相続人が複数いる場合は、原則として第2順位の法定相続分をさらに均等に分割する。

相続人のパターン(法定相続分)
・親のみ(100%)
・配偶者(2/3)+親(1/3)

第3順位(兄弟姉妹)の法定相続分

第3順位(兄弟姉妹)の法定相続分は、以下のとおりだ。なお第3順位の法定相続人が複数いる場合は、原則として第3順位の法定相続分をさらに均等に分割する。

相続人のパターン(法定相続分)
・兄弟姉妹のみ(100%)
・配偶者(3/4)+兄弟姉妹(1/4)

民法に定める法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの取り分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではない。

相続権がない人

ここまで、配偶者、第1順位、第2順位、第3順位の法定相続分について解説してきた。

ここからは相続権を持たない人の例を説明していく。

離婚した元配偶者

離婚した時点で法律上の配偶者ではなくなるため、離婚した元配偶者に相続権はない。

内縁の妻(夫)

内縁関係の人は、相続人に含まれないため、内縁の妻(夫)に相続権はない。

養子縁組をしていない再婚相手の連れ子

再婚相手の連れ子(再婚相手とその元配偶者との間の子)は、実の親子のように生活していても、被相続人と養子縁組をしない限り、相続人に含まれない。そのため、養子縁組をしていない再婚相手の連れ子に相続権はない。

遺留分とは

遺留分とは、民法によって兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された相続財産の最低限度の割合を指す。民法第千四十二条には、以下のように記載されている。

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

本来、自分の財産は生前贈与や遺言によって、自由に処分することができる。しかし、法定相続人以外の人(例えば愛人など)に遺産をすべて相続させてしまうと、法定相続人の生活が成り立たなくなる可能性がある。

そのため、法定相続人は遺留分制度によって、被相続人がどのような遺言を遺したとしても、一定の財産を相続することができる。

具体的な遺留分の割合

遺留分を考える上でまず重要なのは、「誰が相続人なのか」ということだ。相続人のパターンによって、以下のように遺留分の割合が変わる。

相続人のパターン 遺留分の割合
相続人に配偶者や子が含まれる 財産の1/2
相続人が直系尊属(父母)のみ 財産の1/3
相続人が兄弟姉妹のみ 遺留分なし

この遺留分割合を「相続人の組み合わせ」によって配分していく。配分は以下のとおりだ。子どもや直系尊属が複数いる場合は、各人の遺留分の割合をさらに均等割する。





相続人の組み合わせ 各人の遺留分の割合
配偶者のみ 1/2
配偶者と子 配偶者1/4、子1/4
配偶者と直系尊属 配偶者2/6、父母1/6
配偶者と兄弟姉妹 配偶者1/2、兄弟姉妹なし
子のみ 1/2
直系尊属のみ 1/3
兄弟姉妹のみ 遺留分なし

遺留分の放棄

遺留分を有する相続人は、家庭裁判所の許可を得て、遺留分を放棄することができる。被相続人の生存中でも放棄が可能だ。

放棄する場合は、申立書、被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)、申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)、収入印紙800円分などを用意の上、被相続人の住所地の家庭裁判所に申立てる必要がある。民法第千四十九条にも以下のように記載されている。

第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

遺留分侵害額の請求(遺留分減殺請求)

遺留分を侵害する生前贈与や遺贈は、その時点で無効になるというわけではなく、相続人による遺留分侵害額の請求によって、初めてその生前贈与や遺贈が無効になる。

例えば、配偶者や子どもがいる被相続人が「財産はすべて愛人に渡す」という遺言を遺していたとする。それを不服に思った配偶者や子どもが遺留分侵害額の請求をしない限り、財産は全額が愛人に渡ることになる。

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったとき」から1年間行使しないと、時効によって消滅する。「相続開始の時から10年を経過したとき」も、同様に権利が消滅する。民法第千四十八条にも以下のように記載されている。

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

遺留分のトラブル事例

ここからは、遺留分に関するトラブル事例を見ていこう。

まずは前述のように、「愛人に全財産を渡す」という遺言を遺しているケースだ。愛人と法定相続人の間に信頼関係がない、もしくは面識自体がないケースが多く、法的措置を含めたトラブルに発展しやすい。

被相続人が正式に贈与を完了させていたり、正しい形式の遺言を遺していたりすると、愛人に一定割合の財産が渡ることを阻止するのは、かなり難しくなるだろう。このケースに発展する前に、被相続人と密なコミュニケーションを取っておきたい。

つづいて、親が特定の子どものみに全財産もしくは大半の財産を相続させるケースだ。複数の子どもに対して、非均等に財産を相続させること自体は珍しくない。特にファミリービジネス(家業)を持つオーナー経営者一族の場合、財産の一定割合を自社株(出資持分)が占めていることも多く、ガバナンスの観点からも後継者に自社株を集中させることも多い。

問題は、受け取り額が少ない子どもが、そのことに対してどれだけ不満を持っているかだ。当初は納得してくれていたとしても、遺留分があることを学んだり、周りの人が入れ知恵したりすることで、気持ちが変わることもある。

兄弟姉妹で「争続」することは、被相続人も本望ではないだろう。そのような場合は、受け取り額が少ない相続人に不足分を代償金として支払う「代償分割」も視野に入れたい。

法定相続分のケーススタディー

法定相続分で問題になりやすいのが、離婚した元配偶者との間に子どもがいたり、再婚者の連れ子に財産を残してあげたりしたいときだ。ここからは、そのようなケーススタディーを見ていく。まずは家族構成を確認していこう。


Aさん(60歳男性):このケーススタディーの主人公。離婚歴あり
Bさん(55歳女性):Aさんの今の配偶者。離婚歴あり
Cさん(30歳男性):Aさんと元配偶者との間に生まれた子ども。20年以上会っておらず、今後も関係を持つ予定はない
Dさん(25歳女性):Bさんと元配偶者との間に生まれた子ども。血はつながっていないものの、実の娘のように思っている

さらに、詳細の状況を確認していこう。


・Aさんは、Bさんと20年前に結婚(ともに再婚)した
・AさんとBさんとDさんの3人は20年間ずっと同居しており、3人の関係は非常に良好
・AさんとDさんは養子縁組を結んでおらず、法律上は家族ではない
・Aさんは、Dさんのことを実の娘のように思っており、自分の死後はDさんにも財産を継がせたいと思っている
・AさんとCさんは、血はつながっているものの、20年以上会っておらず、元配偶者も含めて、今後も関係を持つことはないと思っている
・Aさんと元配偶者の間に金銭トラブルはない
・Cさんの教育費支払いは完了している

このとき、Aさんを被相続人とした際の法定相続分は以下のようになる。


相続人 法定相続分
配偶者のBさん 財産の1/2
実の息子であるCさん 財産の1/2
同居しているDさん 相続分なし
Aさんの元配偶者 相続分なし

今Aさんが亡くなると、配偶者であるBさんは財産の半分を相続できるが、もう半分は20年以上会っていないCさんの手に渡ってしまう。Aさんとしては、実の息子Cさんや元配偶者と今後も関係を持つことはないと思っているが、法定相続分を見ると、上記のようになってしまうのが現実だ。

なお養子縁組を結んでいないDさんとは、法律上は家族(親子)ではないため、法定相続人と見なされず、法定相続分はない。また、元配偶者はすでに離婚しているため、こちらも法定相続人と見なされず、法定相続分はない。

AさんとDさんが養子縁組をしたらどうなる?

「自分の死後はDさんにも財産を継がせたい」と思っているAさんは、どのように行動すれば良いのだろうか。まずやるべきことは、Dさんと養子縁組を結ぶことだろう。 AさんとDさんが養子縁組を結ぶと、法定相続分は以下のように変化する。


相続人 法定相続分
配偶者のBさん 財産の1/2
実の息子であるCさん 財産の1/4
同居しているDさん 財産の1/4
Aさんの元配偶者 相続分なし

AさんとDさんが養子縁組を結ぶと、DさんがAさんの法定相続人になり、財産の1/4を相続する権利を得る。前述のように配偶者はいつでも1/2のため、もう半分をCさんとDさんで分け合う形だ。

養子縁組を結ぶことで、Dさんも法定相続分を確保できることになった。つまり、再婚者の連れ子に財産を残したい場合、いくら家族同様の生活を送っていたとしても、両者に強い信頼関係があったとしても、正式な親子関係がないと法定相続人にはなれない。そのため、注意が必要だ。

Aさんが「BさんとDさんにすべての財産を相続させる」と遺言を書いたら?

それでは、Aさんが「BさんとDさんにすべての財産を相続させる」と遺言を書いたらどうなるのだろうか。結論として、Cさんから遺留分侵害を請求され、トラブルになる確率が高い。

Aさんは、Cさんとは20年以上会っておらず、今後も関係を持つことはないと思っている。しかし法律上、CさんはAさんの法定相続人のため、遺留分が存在する。したがって、原則としては、BさんとDさんにすべての財産を相続させることはできない。

Cさんの遺留分は以下のとおりだ。

AさんとDさんの養子縁組の状況 Cさんの遺留分
養子縁組を結んでいない 財産の1/4
養子縁組を結んでいる 財産の1/8

AさんとDさんが養子縁組を結んでいない状況では、Cさんの遺留分は財産の1/4であった。しかし、AさんとDさんが養子縁組を結ぶと、これが1/8まで低下する。養子縁組を結ぶことで、Dさんが法定相続人になれるだけではなく、Cさんの遺留分を少なくすることができる。

Aさんが「Cさんには財産を渡したくない。できる限りBさんとDさんに相続させたい」と思っているのであれば、Cさんの遺留分を少なくするという意味でも、養子縁組は有効な手だ。

なお、Cさんから1/8分の遺留分を要求されたら、原則として断ることはできない。それを踏まえた上で、相続対策することが重要だ。

相続が「争続」にならないように

この記事では、法定相続分とは何か、法定相続分の配分割合や相続権がない人、遺留分、トラブルが起きやすい事例などについて解説してきた。普段は仲の良い親族でも、お金が絡むと態度が変わることはよくある。相続が「争続」にならないように、しっかりと準備したい。

争続にしないためには、法定相続人が誰かを事前に把握していくことが大切だ。また、法定相続人の法定相続分や遺留分の範囲と割合を把握するだけでなく、生前から親族全員に遺言で自分の意志をはっきり示しておくことも重要だ。