資産運用の世界で「ESG投資」という言葉を見かけることが増えた。しかし、どのようなものなのか、メリットとデメリットには何があるのかと改めて聞かれると、実はうまく説明できないという人も多いのではないだろうか。

そこでこの記事では、ESG投資とは何か、ESG投資の市場規模、ESGとSDGsとSRIの違い、ESG投資のメリットとデメリット、ESG投資の始め方などについて解説する。

目次

  1. ESG投資とは
    1. ESG投資はなぜ広まった?
    2. ESGとは?
    3. 世界経済フォーラムが提案する21の中核指標
    4. 環境省の「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」や日本取引所グループの取り組み
  2. ESG投資の市場規模
  3. ESG投資を拡大させる世界の年金基金
  4. ESGとSDGsとSRIの違い
    1. SDGsとは?
    2. SRIとは?
  5. ESG投資の主な3つのメリット
    1. 1.長期の資産形成に向いている
    2. 2.安定した運用が期待できる
    3. 3.社会貢献につながる
  6. ESG投資の主な2つのデメリット
    1. 1.短期的なリターンは小さくなりやすい
    2. 2.投資先の選定が難しい
  7. ESG投資の始め方
  8. ESG投資の動向に注意しておこう

ESG投資とは

ESG投資,メリット,デメリット
(画像=PIXTA)

ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮した投資のことを指す。投資をするために企業の価値を測る材料としては、従来は主に、キャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われていた。ESG投資は、それらに加えて、非財務情報であるESG要素を考慮する投資方法だ。

近年においては、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に「企業経営のサステナビリティ(持続可能性)を評価する」という考え方が普及している。企業の長期的な成長のためには、ESGの3つの観点から長期的な事業機会を検討したり、リスクマネジメントを行ったりする必要があるという考え方だ。

言い換えれば、「ESGへの取り組みに積極的な企業は、長期的な成長が期待できるので投資対象になり得る」「ESGへの取り組みに消極的な企業は、この3つの観点においてリスクを抱えており、長期的な成長が期待できないので投資対象になり得ない」という考え方になる。

ESG投資はなぜ広まった?

なぜ超長期で運用する機関投資家を中心にESG投資が広まったのだろうか。年金基金の主な特徴としては、「投資金額が大きい」「資本市場全体に幅広く投資している」「運用期間が長く、世代をまたいで運用が続く」などが挙げられる。

つまり、目の前の短期的な利益も重要である一方、資本市場が持続的かつ安定的に成長することも、年金基金にとって重要な要素なのだ。その資本市場は、環境問題や社会問題と密接な関係にある。環境問題や社会問題を無視して行動すると、短期的な利益にはつながるかもしれないが、長期的には、資本市場の持続的かつ安定的な成長につながらないことも考えられる。

そのため、公的年金など投資額の大きい機関投資家の間で、ESG投資に対する関心が高まったというわけだ。機関投資家にこのような投資尺度が普及したことによって、足元では個人投資家にも「ESG投資」という概念が普及しつつある。ESG投資に関連したテーマ型投資信託も多く組成されるようになった。

ESGとは?

前述のように、ESGとは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を表している。それぞれどのようなことが挙げられるか列挙してみよう。

<E=環境(Environment)>
・環境汚染(森林伐採、排水など)への配慮
・再生可能エネルギーの使用
・生物多様性の確保
など

<S=社会(Social)>
・職場での人権対策
・ダイバーシティの推進
・ワーク・ライフ・バランスの確保
・女性活躍の推進
・児童労働問題の改善
・地域社会への貢献
など

<G=ガバナンス(Governance)>
・業績悪化に直結する不祥事の回避
・情報開示や法令順守
・社外取締役の構成および活用
・通報制度の確立および通報者の保護
・少数株主の保護
など

世界経済フォーラムが提案する21の中核指標

「どの企業がどれくらいESGを意識しているのか」ということは、どのように判断(採点)すれば良いのだろうか。一つの参考になるのが、世界経済フォーラム(WEF)が発表している21の中核指標だ。

世界経済フォーラム(WEF)は2020年9月、「ステークホルダー資本主義の進捗の測定~持続可能な価値創造のための共通の指標と一貫した報告を目指して~」と題した報告書を公表している。その報告書では、以下の21の中核指標が示されている。

<ガバナンスの原則>

ガバナンスの目的 指標
ガバナンス機関の質 ガバナンス機関の構成
ステークホルダー・エンゲージメント ステークホルダーに影響を与えるマテリアル・イシュー
倫理的行動 汚職防止
倫理的助言と通報制度の保護
リスクと機会の監督 リスクと機会のビジネスプロセスへの統合

<地球>


気候変動 温室効果ガス(GHG)排出量
TCFDの実施
自然の喪失 土地利用と生態系への配慮
淡水利用の可能性 水ストレス地域における水消費量および取水量

<人>


尊厳と平等 多様性とインクルージョン
給与の平等
賃金水準
児童労働、強制労働のリスク
健康とウェルビーイング 健康と安全
将来のためのスキル 教育訓練

<繁栄>


雇用と富の創出 雇用者数と比率
経済的貢献
金融投資への貢献
より良い製品とサービスのイノベーション 研究開発費総額
コミュニティと社会の活力 納税総額

環境省の「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」や日本取引所グループの取り組み

国もESGの普及を後押ししている。環境省ではESG金融の普及・拡大につなげることを目的として、ESG金融または環境・社会事業に積極的に取り組み、インパクトを与えた機関投資家、金融機関、仲介業者、企業などについて、その先進的な取り組みを環境大臣が表彰する「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」を実施している。

ESGファイナンス・アワードは投資家部門、間接金融部門、資金調達者部門、金融サービス部門、環境サステナブル企業部門に分かれており、第1回は2020年2月に、第2回は2021年2月に受賞者が発表されている。

日本取引所グループは、コーポレートガバナンス・コードの策定、ESG関連の指数の算出やETFの上場、インフラファンド市場の開設、女性活躍や健康経営を推進する企業の選定などサステナビリティ関連の取り組みを積極的に推進してきた。

また、「ESG 情報の開示を検討する際に、様々な枠組みが存在するがゆえに、それらがどのように違うのか、どう使い分けたら良いのか悩む」という上場会社の声に応える形で「ESG情報開示実践ハンドブック」を公表した。日本取引所グループは、上場会社の自主的な ESG 情報開示に関する取り組みを支援し、ESG投資を円滑に行える環境を整え始めている。

ESG投資の市場規模

上記のようにESG投資は、機関投資家だけではなく個人投資家にも普及し始めており、国も普及を後押ししている。それでは、ESG投資はどれくらいの市場規模があるのだろうか。

何をもってESG投資であるか(この投資はESG投資であり、この投資はESG投資ではないという区別)については別途議論が必要だが、今回は「国連責任投資原則(PRI)」の署名者の運用資産残高を見てみよう。

「国連責任投資原則(PRI)」は、2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対して提唱した、投資にESGの視点を組み入れることなどを掲げた原則だ。なお、「ESG」という言葉が知られるようになったのは、このPRIがきっかけと言われている。

2008年のリーマン・ショックを経て、資本市場で短期的な利益追求に対する批判が高まったこともPRIの署名機関数増加につながり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のホームページによると、2019年3月末時点で2,400近い年金基金や運用会社などがPRIに署名している。このうち年金基金などアセットオーナーの署名は432にのぼり、その運用資産残高の合計は20兆ドル(約2,200兆円)以上に達した。

GPIFは、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理及び運用を行うとともに、その収益を年金特別会計に納付することにより、厚生年金保険事業及び国民年金事業の運営の安定に資することを目的として運営されている。つまり、国民の年金を運用する機関だ。そのGPIFも2015年に、PRIに署名している。

PRIの署名機関数、運用資産残高は年々増えている。ESG投資は世界的なトレンドであるため、2021年7月執筆時点では、上記よりさらに数字が大きくなっていることが予想される。非常に大きな金額がESG投資として投じられているため、評価を受ける上場会社がESGへの取り組みや開示を強化することはもちろん、投資家にとっても運用成績を上げるためには「ESGマネー」の動向を把握することが重要になっていると言えるだろう。

ESG投資を拡大させる世界の年金基金

前述のように、世界中の機関投資家がESG投資を拡大している。例えば、米国最大の公的年金基金であるカルパース(カルフォルニア州職員退職年金基金)は、2012年にすべての投資判断にESGを組み込む投資原則を採用した。GPIF がPRIに署名したのが2015年であるため、それより数年前から、原則としてすべての投資判断にESGの要素を加味していたことになる。

続いて、GPIFの動きを見てみよう。GPIFは株式を直接保有せず、外部の運用会社を通じて投資しており、GPIFから運用を受託する金融機関に対して、ESGを考慮して投資するよう求めている。

また、株式を対象にした「ESG指数」に連動するパッシブ運用を開始している。具体的には、企業が公開するESGへの取り組みを見て銘柄を組み入れる株価指数を5つ(総合型2つ、特定のテーマ型3つ)採用している。

さらに、2017年10月には投資原則を改めて、株式にとどまらず、債券などすべての資産でESGの要素を考慮した投資を進めていくこととした。2018年からは「ESG活動報告」の発行を始め、企業のESGへの取り組みが強化されているか、それに対する第三者の評価が向上しているかなど、様々な視点から分析を試みている。

ESGとSDGsとSRIの違い

ESGに似た概念として、「SDGs」や「SRI」が挙げられる。それぞれどのようなものなのか解説していこう。

SDGsとは?

「SDGs」とは、「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の略だ。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標を指す。

SDGsの大きな特徴は、民間企業を課題解決の主体として位置付けている点にある。SDGsとESGは必ずしも全くのイコールではないものの、共通する部分は多く、「ESG投資」と「SDGsに取り組む企業への投資」は、近い関係にあると言える。

SRIとは?

「SRI」は、「社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)」の略だ。運用の意思決定をする際に、従来の財務的観点だけでなく「企業として社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たしているか」も考慮して投資対象を選ぶことを指す。

定義の違いについては様々な説明の仕方があるが、SRIが倫理的な価値観を重視することが多いとされるのに対し、ESG投資は長期的にリスク調整後のリターンを改善する効果があるとされている。

ESG投資の主な3つのメリット

ここからはESG投資のメリットについて解説していこう。ESG投資のメリットとしては、例えば以下のようなことが挙げられる。

1.長期の資産形成に向いている

前述のように、資本市場は長期で見ると環境問題や社会問題の影響から逃れられない。従って、このような問題が資本市場に与える負の影響を減らすことが、安定した収益を獲得するために重要となる。

ESG投資は、このような問題の解決に取り組んでいる企業に投資することで、長期的に見たときに、リターンを改善する効果が期待できる。巨額の資金を運用する年金基金をはじめ、多くの投資家がPRIに署名していることがその証左だろう。

2.安定した運用が期待できる

ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの要素も考慮した投資のことだ。この3要素に気を遣っている企業は、気を遣っていない企業に比べて不祥事やバッシングが起こりにくい。起こったとしても傷口が小さく済みやすく、安定した運用が期待できる。

例えば、普段から環境保全に取り組んでいれば、環境破壊への批判を受ける確率は下がる。普段から児童労働問題の改善に取り組んでいれば、児童の違法労働の実情がスクープされても、消費者から敬遠される可能性は下がるだろう。

普段から通報制度の確立および通報者の保護に取り組んでいれば、万が一社内で不正が発生しても、いち早く状況を察知することができ、傷が浅いうちに対応ができる。

このようにESGに力を入れている企業は、企業価値が急落する事態に直面しにくいというわけだ。

3.社会貢献につながる

ESGに力を入れている企業に資金を投じるということは、その企業を支援(支持)するということであり、ひいてはその企業が行っているESG活動を支援するということだ。つまり、ESG投資を行うことは社会貢献につながる。

「投資を通じて社会に貢献したい」と考えている投資家もいる。投資である以上は運用パフォーマンスが重要であることは言うまでもないが、「社会貢献につながる」「自分は社会に貢献できているという精神的なリターンを得られる」こともESG投資のメリットだと言えるだろう。

ESG投資の主な2つのデメリット

ここからはESG投資のデメリットについて解説していこう。ESG投資のデメリットとしては、例えば以下のようなことが挙げられる。

1.短期的なリターンは小さくなりやすい

ESGに力を入れるということは、限られた社内リソースを本業ではないことに投下するということだ。ESGに力を入れることで、同様のリソースを本業に投下した場合以上のリターンをすぐに回収できれば良いが、ESGの特性上、即金性(すぐに業績に反映されること)は低い場合が多いだろう。

短期的には、リターンが小さくなりやすい可能性がある。

2.投資先の選定が難しい

日本取引所グループは「ESG情報開示実践ハンドブック」を公表している。公表理由は前述のように、「ESG 情報の開示を検討する際に、様々な枠組みが存在するがゆえに、それらがどのように違うのか、どう使い分けたら良いのか悩む」という上場会社の声に応えるためだ。

このことからわかるように、ESGの概念は広く、枠組みは多数存在するので、「どの企業がESGに力を入れているのか」「その力の入れ具合は他社と比較してどうなのか」を判断するのはなかなか難しい。業績であれば定量的な比較が可能だが、ESGは定性的な判断になりがちだ。

また、ESG投資に振り向けられる金額は年々増えているため、ESG投資家に良い評価をしてもらおうと、本来は力を入れていないのに入れているかのように見せかける「グリーン・ウォッシュ」企業が存在する可能性も否めない。

ESG活動の裏付けが取りにくいことも、投資先の選定が難しい要因の一つだろう。

ESG投資の始め方

ここからはESG投資の始め方について解説していこう。ESG投資を行う方法には大きく分けて、「パッケージ化されている商品を購入する」と「自ら投資先を選ぶ」の2種類がある。

前者の手段としては、投資信託やETFの活用が挙げられる。今日では、ESG指数に連動したETFを、通常の株式のように手軽に売買することができる。また、ESGを重視した投資信託もいくつか組成されている。これらの金融商品であれば、すでに運用会社がESG関連の銘柄を選定してくれており、随時銘柄を入れ替えてくれるため、イチから自分で選定する必要はない。その代わり、自分が保有したい銘柄だけをピンポイントで保有することは難しい。

後者の手段としては、個別株の活用が挙げられる。個別株であれば、独自のスクリーニング方法を満たした銘柄だけをピンポイントで保有できる。ただし上記のように、選定するのが難しいというデメリットもある。

ESG投資の動向に注意しておこう

環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの要素も考慮したESG投資は、長期の資産形成に向いていたり、社会貢献につながったりとメリットが多い投資方法だが、投資先の選定が難しいなどのデメリットもある。

現在は、世界中の投資家がESG投資に資金を振り向けており、ESG投資自体を行う予定がない投資家であっても、ESG投資の動向は気にしておいた方がいいだろう。