生涯年収の平均額は、一般的には3億円前後と言われている。一方、生涯支出の平均額についてはどのようなイメージがあるだろうか。この記事では、一般的な生涯年収と生涯支出の計算を試みると同時にお金を準備するための3つのポイントについて解説していく。

目次

  1. 生涯年収はどれくらいある?
    1. 生涯賃金
    2. 退職金
    3. 年金
    4. この3つを足した想定生涯年収は?
  2. 生涯消費支出はどれくらいある?
  3. 「生涯年収−生涯消費支出」はどうなる?
    1. Bさんだと家計が破綻?
  4. お金を準備するための3つのポイント
    1. 1.自己投資で収入を増やす
    2. 2.支出を減らして貯蓄を増やす
    3. 3.投資で増やす
  5. 投資で資産形成をするためには?
    1. iDeCo
    2. つみたてNISA
  6. コツコツと積立投資を続けていこう

生涯年収はどれくらいある?

生涯年収
(画像=PIXTA)

一般的な人の生涯年収はどれくらいあるのだろうか。主な収入源である「生涯賃金」「退職金」「年金」の3要素に分解して、各種データをもとに計算してみよう。

生涯賃金

労働政策研究・研修機構が発表している「ユースフル労働統計2019-労働統計加工指標集-」によると、男性の生涯賃金(生涯の給与収入の総額/平均)は中学卒で2億180万円、高校卒は2億1,140万円、高専もしくは短大卒で2億1,550万円、大学もしくは大学院卒で2億6,920万円となっている。

女性の生涯賃金は中学卒で1億4,490万円、高校卒は1億5,020万円、高専もしくは短大卒で1億7,590万円、大学もしくは大学院卒で2億1,670万円だ。

また、企業規模が大きくなるほど、男女ともに生涯賃金が増える傾向にある。以上をまとめると、「学歴が高い」および「企業規模が大きい」ほど、基本的には生涯賃金も増えると言える。

なお、これらは額面収入であり、手取り収入ではない。給与水準や家族構成などにもよるが、額面収入に70〜80%をかけた数字が、だいたいの手取り収入と言えるだろう。

退職金

退職金は定年退職か、会社都合退職か、自己都合退職かなどによって、もらえる金額が変わってくる。今回は、定年退職したという仮定のもとで考えてみよう。

厚生労働省が発表している「平成30年就労条件総合調査の概況」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の定年退職金(平均)は、高校卒(現業職)で1,159万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,618万円、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,983万円となっている。

なお、退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が設けられていたり、他の所得と分離して課税されたりするなど、税負担が軽くなるよう配慮されている。退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として、一時に支払われるものであるためだ。

例えば、18歳で就職して、60歳まで勤めあげたとすると、勤続42年であり、2,340万円の退職所得控除が発生する。この範囲内であれば所得税はかからない。

年金

総務省が発表した「家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年) 平均結果の概要」によると、高齢夫婦(夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦)無職世帯の社会保障給付は月21万6,910円、高齢単身(60歳以上)無職世帯の社会保障給付は月11万5,558円になっている。

公的年金の収入も課税対象であるが、年齢、年金以外の収入、年金収入によっては、課税負担が発生しない場合もある。詳細は国税庁ホームページを確認しよう。

この3つを足した想定生涯年収は?

それでは、上記のデータをもとに、「生涯賃金」「退職金」「年金」の3要素を足した想定生涯年収を考えてみよう。最も差が生まれるのが生涯賃金だ。まずは大学卒の男性Aさんを想定してみる。

・生涯賃金:2億6,920万円

次に退職金だ。ここではAさんが新卒で入社(22歳で入社)してから、60歳まで一度も転職せずに、60歳で定年退職を迎えたと想定してみる。

・退職金:1,983万円

最後に年金だ。Aさんには配偶者がおらず、高齢単身無職世帯だと想定してみる。さらに、老後生活は90歳までの30年間と想定したとしよう。高齢単身無職世帯の社会保障給付は月11万5,558円のため、以下のような計算式となる。

・年金:11万5,558円×12ヵ月×30年=約4,160万円

したがってAさんの生涯年収は、

・生涯年収:2億6,920万円+1,983万円+約4,160万円=約3億3,063万円

と3億円を上回る計算結果となった。Aさんは大学卒の男性のため、生涯賃金が多く、結果として生涯年収が多くなったが、これが女性であったり、高校卒であったりすると、生涯年収は低くなる。

その他の条件はAさんと同様と仮定して、「高校卒の女性(現業職)」であるBさんのケースも考えてみよう。生涯年収は以下のとおりだ。

生涯賃金 1億5,020万円
退職金 1,159万円
年金 約4,160万円
Bさんの生涯年収 1億5,020万円+1,159万円+約4,160万円=約2億339万円

Aさんに比べて、約1億3,000万円近く少ない結果となった。上記はややラフな計算ではあるが、「生涯年収は3億円前後」という一般的なイメージとは、やや乖離があるかもしれない。なお、これらは額面収入であり、ここから税金や社会保険料が引かれるため、実際の手取り金額はもっと少なくなる。

生涯消費支出はどれくらいある?

ここまで、人生をとおしたキャッシュインである生涯年収について考えてきた。ここからは、人生をとおしたキャッシュアウトである生涯消費支出について考えてみよう。

消費には大きく分けて、「非消費支出」と「消費支出」の2つがある。非消費支出とは、直接税や社会保険料など、消費を目的としない支出のことを指す。消費支出とは、個人や家族が生活を維持するために行う支出(いわゆる生活費や家計費)のことを指している。

再び、総務省が発表した「家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年) 平均結果の概要」を確認してみよう。単身世帯の平均消費支出は、1世帯当たり1ヵ月16万3,781円であった。また、高齢単身無職世帯(60歳以上の単身無職世帯)の平均消費支出は、1世帯当たり1ヵ月は13万9,739円であった。

年代別に分けるとより正確であるが、今回は便宜上、現役時代は一律16万3,781円、老後は一律13万9,739円と設定し、Aさんの生涯支出を計算してみよう。なお、生涯消費支出の起点は、社会人生活を始めた時点とする。

Aさんは22歳で入社し、60歳で定年退職している。90歳までの生涯消費支出の計算結果は以下のとおりだ(60〜90歳は30年間として計算)。

22〜59歳の37年 16万3,781円×12ヵ月×37年=7,271万8,764円
60〜90歳の30年 13万9,739円×12ヵ月×30年=5,030万6,040円
Aさんの生涯消費支出 1億2,302万4,804万円(約1億2,302万円)

「生涯年収−生涯消費支出」はどうなる?

当然ながら、収入を上回る支出はできない。家計管理においては、収入の範囲内で支出を行うことが大前提だ。それは、生涯という長い時間軸で見たときも基本的には変わらない。

それでは、上記で計算した生涯年収と生涯支出を比べてみると、どれくらいのギャップが生じるのだろうか。Aさんの場合は以下のとおりだ。

生涯年収 約3億3,063万円
生涯消費支出 約1億2,302万円

ただし前述のように、この生涯年収は手取り金額ではなく額面金額だ。手取り金額だと、どれくらいになるのだろうか。

税額や社会保険料は各人の状況によって異なるため、一概には言えないが、例えば、手取り金額が額面金額の80%とすると約2億6,450万円、70%とすると約2億3,144万円であり、生涯消費支出との差はそれぞれ約1億4,148万円、1億842万円のプラスギャップとなる。

この結果だけ見ると、かなり余裕を持った家計管理ができるように感じるかもしれない。しかし、このデータにはいくつか注意点がある。

まず、Aさんは大学卒の男性であり、モデルケースのなかでは比較的恵まれた人である。高校卒の女性であるBさんの生涯年収は、Aさんに比べて約1億3,000万円少ない約2億339万円だ。手取り金額が額面金額の80%とすると約1億6,271万円であり、社会人生活を始めた時点を起点する場合、生涯消費支出もAさんより4年長くなるため、Aさんよりも家計が圧迫される。

また、家計調査の回答者には、すでに持家がある人が一定数含まれていることが予想される。単身世帯の平均消費支出(16万3,781円)の細かい内訳を見ると、住居に関する支出は2万854円となっている。高齢単身無職世帯の平均消費支出(13万9,739円)の内訳を見ても、住居に関する支出は約1万2,855円だ。Aさんの生涯消費支出には、ある程度の住宅費負担を追加する必要がありそうだ。

Bさんだと家計が破綻?

Bさんの事例で具体的に計算してみよう。BさんはAさんよりも4年分の生活費(16万3,781円×12ヵ月×4年=約786万円)が多くかかる。また、居住地にもよるが、住居費が毎月プラス3万円かかる(3万円×12ヵ月×72年間=2,592万円)と仮定する。まとめると以下のようになる。

生涯年収 約2億339万円
手取り金額(額面金額の80%と仮定) 約1億6,271万円
生涯消費支出(住居費追加なし) 約1億3,088万円
生涯消費支出(住居費追加あり) 約1億5,680万円
手取り金額(額面金額の80%と仮定)と生涯消費支出(住居費追加あり)のギャップ プラス591万円

手取り金額(額面金額の80%と仮定)と生涯消費支出(住居費追加あり)のギャップは何とかプラス591万円となったが、退職金1,159万円が入ってくるタイミングは60歳の退職時であることを考えると、家計状況は相当厳しいと言えるだろう。

お金を準備するための3つのポイント

それでは、どのようにして家計破綻を回避すればよいのだろうか。また、トータルでは何とかプラスを保てていたとしても、局所ではお金が足りなくなることも予想される。そのような事態を避けるためには、どのように行動をすべきなのか。

結論として、自分のライフプランに合わせて、計画的にお金を準備する必要がある。ここからは、お金を準備するための3つのポイントを解説する。

1.自己投資で収入を増やす

まず挙げられるのが「自己投資で収入を増やす」ことだ。年収が増えると、それに伴って生活水準も上がりやすく、税負担も増加することになるが、生涯年収の軸となるのは生涯賃金であり、ここを増やすことが最も確実に生涯年収を増加させることにつながる。

具体的には、資格を取得したり、スキルを身につけたりすることで、収入の増加につながりやすい。自己投資は「お金を投下する」ことはもちろん、「時間を投下する」ことも含まれる。

収入が増えることで貯蓄を行いやすくなるため、まずは「いかに収入を上げるか」ということに意識を注ぎたい。

2.支出を減らして貯蓄を増やす

資産を確実に増やす方法は、支出を減らして貯蓄を増やすことだ。特に老後は月間(年間)の収支が赤字になりやすく、貯蓄を切り崩す生活になることも多い。自己投資とのバランスを考えながら、現役時代のうちに、しっかりと貯蓄しておこう。

自分の支出を今一度洗い出してみて、無駄遣い(浪費)がないか、切り詰めることができる項目がないか、などを確認してみよう。1回ごとの支出削減額は小さくても、それが5年、10年と積み重なれば大きな数字になる。支出の可視化のために、家計簿アプリを活用することもおすすめだ。

3.投資で増やす

上記の生涯年収の計算は「生涯賃金」「退職金」「年金」の3要素で構成されており、「資産運用で得る運用益」という要素は入っていない。そこで検討したいのが、「投資で増やす」ということだ。

現在は低金利時代であり、銀行預金に預けておくだけでは、ほとんど運用益を得ることはできない。そこで株式や債券などに投資し、運用益を得て、お金を増やしていこうというわけだ。

投資で資産形成をするためには?

ここまで、お金を準備するための3つのポイントを解説してきた。ここからは、3番目の「投資で増やす」について掘り下げていこう。

投資で資産形成する場合においても、先取り貯蓄と同じ理由から、毎月決まった金額を投資に回す「積立投資」は有効な手の一つだ。具体的には、「iDeCo」や「つみたてNISA」といった制度を活用するとよいだろう。

iDeCo

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度のことだ。60歳になるまで掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで、掛金を運用する。60歳以降に、掛金とその運用益との合計額を給付として受け取ることができる。

iDeCoでは「掛金を拠出するとき」「運用益があったとき」「給付を受け取るとき」の3点に関して、税制上の優遇措置が講じられている。原則として、60歳になるまで資産を引き出すことはできないものの、その分、無駄遣いする可能性は低いとも言える。また、利用するためには手数料がかかる。

「老後のための資産形成」と割り切ることができるのであれば、非常に優れた制度と言えるだろう。なお、元本保証型の商品も用意されているが、基本的にはリスク資産で運用することになるため、運用結果によっては元本割れの可能性があることには注意が必要だ。また、受け取る方法(一時金か年金か)やその金額によっては、税金がかかる可能性があることも注意しよう。

つみたてNISA

つみたてNISAとは、少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度だ。2018年1月からスタートしている。新規投資額は毎年40万円が上限で、非課税投資枠は20年間(最大800万円)だ。保有している間に得た分配金と、値上がりした後に売却して得た利益が、購入した年から数えて20年間課税されない。

つみたてNISAで購入できるのは、金融庁が長期の積立・分散投資に適したと認める投資信託のみだ。6,000本近く存在する投資信託の中から、金融庁がある程度選択肢を絞ってくれているため、比較的商品を選びやすくなっていることはメリットと言えるだろう。

iDeCoのように「掛金を拠出するとき」の税制メリットはないが、いつでも解約することが可能なため、流動性は高いと言える。また、iDeCoのように「給付を受け取るとき」の税金も発生しないため、よりシンプルな制度だと言えるだろう。

もちろんデメリットもある。具体的には、運用結果によっては元本割れする可能性があること、損失が出た場合は他の運用益と相殺したり(損益通算)、年をまたいで繰越したり(繰越控除)できないことなどが挙げられる。

各人の状況にもよるが、「老後のための資産形成」と割り切る場合はiDeCo、「老後用とは決まっておらず、流動性は保っておきたい資産形成」をしたい場合はつみたてNISAなど、目的によって使い分けるとよいだろう。「同時に利用してはいけない」といったルールは存在しないので、これらを併用することも問題ない。

コツコツと積立投資を続けていこう

ここまで、一般的な生涯年収と生涯支出を計算し、お金を準備するための3つのポイントについて解説してきた。ややラフな計算ではあるものの、一般的な大学卒の男性サラリーマンの生涯年収は約3億6,711万円であり、単独で二人以上の世帯を支えると仮定したら、かなり家計が厳しくなるという結果になった。

近年は共働きも増えているものの、若いうちからの資産形成が重要であることは変わらない。自己投資をして収入を上げることを意識しつつ、貯蓄だけでなくiDeCoやつみたてNISAといった積立投資に回していくことも選択肢として考えてもよいだろう。