会社員の多くが定年を迎えて手にする多額の退職金。昨今は銀行の金利が極めて低いため、資産運用を検討する人も多いだろう。しかし、失敗するのは怖い。失敗を避けるためにはどんなことに注意すべきなのか、運用する前に学んでおこう。

目次

  1. 定年後の収支はマイナスになる?
    1. 年金の平均受給月額は14万6,162円
    2. 社会保障給付だけでは消費支出を賄えない
    3. ゆとりある老後生活を送るために必要な金額は?
  2. 退職金があっても安心しきれない
    1. 老後は何が起こるかわからない
  3. 退職金の2つの運用方法
    1. 預貯金で着実に資産を増やす
    2. プロの投資家に任せる投資信託
    3. 定期預金より利回りが良い国債
  4. 退職金を受け取る際、投資に回す際の注意点
  5. 退職金は老後のための大切な資金

定年後の収支はマイナスになる?

退職金,運用
(画像=PIXTA)

一般企業の社員や公務員の場合、従来は60歳での定年が主流となっていた。

高年齢者雇用安定法によって企業は65歳までの雇用確保が義務づけられており、それによって定められている継続雇用制度を使ったり、再就職をしたりして65歳まで働き続けるケースもある。しかし、いずれにしても、高校や大学、大学院を卒業して企業に就職し、およそ40年にわたって勤めあげたら、その後は時間を自由に使えるセカンドライフが待っている、というのが一般的だ。

年金の平均受給月額は14万6,162円

2021(令和3)年7月に厚生労働省が発表した「令和2年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性は87.74歳となっている。仮に60歳で退職した場合、多くの人が老後の人生を20年以上送ることになる。

もっとも、時間に余裕ができる一方で、それまで得ていた給与収入がなくなる事態にも直面する。定年退職後は、公的年金が主な収入源となり、65歳から年金が支給される。

厚生労働省年金局の「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2020年12月)によると、2019(令和元)年度末における厚生年金に加入していた人が年金受給者になった場合の平均受給月額(老齢年金)は、1人あたり14万6,162円。夫婦共働きで定年まで正社員として勤務した場合は、単純計算でこの2倍に近い金額を夫婦で受給することができる。

社会保障給付だけでは消費支出を賄えない

しかし、片方が途中で仕事を辞めて国民年金のみを納めていた場合、受け取れるのは老齢基礎年金となり、夫婦での受給額は大きく目減りする。

実際のところ、総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)」における「Ⅱ 総世帯及び単身世帯の家計収支」では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)における社会保障給付を「21万9,976円」と算出している。家計を支えていたのが夫だとして、その夫の受給額を上記老齢年金の平均受給月額である14万6,162円と想定すると、妻の受給額は7万3,814円という計算になる。

一方で、この「家計調査報告(家計収支編)」では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の消費支出を「22万4,390円」としている。平均値を単純に比較すると、社会保障給付だけでは消費支出を賄えない計算になる。

ゆとりある老後生活を送るために必要な金額は?

男性が60歳で退職し、先ほどの平均寿命に準じて81歳まで生きると想定しよう。総務省統計局の調査による最低限の生活費は、月額で21万9,976円。1年間では21万9,976円×12カ月で263万9,712円、21年間だと263万9,712円×21年間で5,543万3,952円が必要という計算になる。

ただし、この金額はあくまで「必要最低限生活費」だ。老後の人生といえども、何もせずつつましやかに暮らすとは限らない。

公益社団法人生命保険文化センターによる2019(令和元)年度の「生活保障に関する調査」では、旅行やレジャー、趣味、日常生活費の充実など、セカンドライフを充実させるために必要だと考えられる日常生活費以外の金額は月平均14万円となっている。

なお、同調査も老後の最低日常生活費を算出しており、夫婦2人で老後生活を送る上での最低日常生活費を「月額平均22万1,000円」としている。総務省統計局が算出した金額と大差はないので、夫婦2人で送る老後の生活費は月額22万円程度と言うことができそうだ。

そして、最低日常生活費の22万1,000円にセカンドライフを充実させるために必要だと考えられる金額を上乗せした「ゆとりある老後生活費」は、月額平均36万1,000円となる。この金額で計算すると、年間では36万1,000円×12カ月で433万2,000円、21年間では433万2,000円×21年間で9,097万2,000円にもなる。心を満たしながら充実した老後生活を送るのは、年金だけでは不可能というのが現実だ。

退職金があっても安心しきれない

「ゆとりある老後生活費」の約14万円を賄うための資金として考えられるものの1つに、定年退職時に受け取る退職金がある。

厚生労働省が2017(平成29)年に実施した調査によると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で就職し、勤続35年以上で定年を迎えた人に支払われる退職金は、退職時に退職金をまとめて受け取れる「退職一時金制度」のみで1,897万円、年金のように定期的に受け取る「退職年金制度」のみで1,947万円、両制度の併用で2,493万円となっている。およそ1,900万円から2,500万円が支給されることとなり、夫婦共働きの家庭であれば、さらに多くの金額を得ることになるだろう。

この退職金を生活資金に回しつつ、公的年金による収入も活用できると考えれば、セカンドライフがスタートした当初はそこまで大きな不安はないように思える。しかし数十年にわたる老後生活全体を考えると、安心しきってばかりはいられない。

浪費せず、節約しながらつつましい生活をすればいいではないか、という声もあるだろう。確かに、夫婦で公的年金による収入が月に22万円あれば、生活できないことはない。

しかし考えてみてほしい。企業に定年まで勤めた場合、給与もその勤続年数に応じた金額と想定できる。それと比較すると、22万円という金額はかなり少ないのではないだろうか。3分の1や4分の1、もしかしたらそれ以下になるかもしれない。

老後は何が起こるかわからない

また、老後生活では医療や介護にかかる費用も考えておかなければならないし、その夫婦に子どもがいる場合、支出は自分たちの生活資金のみにはとどまらないだろう。孫の誕生、入園や入学といったライフイベントがあればお祝いをしたくなるものだろうし、マイホーム資金や進学資金などのサポートを頼まれるかもしれない。そういった支出があることを念頭に置く必要がある。

夫婦それぞれが退職金を手にし、年金を得る状況であればそこまで大きな不安はないかもしれないが、老後の生活はいつ、何が起こるかわからない。早いタイミングで妻や夫と死別するようなことになれば、当然ながら公的年金による収入の額も減少する。

さらに言うと、退職金の支給額は減少傾向にある。厚生労働省の「就労条件総合調査」を見ると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で就職し、勤続35年以上で定年退職した人の退職一時金制度、退職年金制度併用の退職金受給額は2002(平成14)年の調査では2,656万円だったが、2012(平成24)年には2,562万円となり、上述のとおり2017年には2,493万円となっている。15年間で160万円以上も減っているのだ。

また、老齢厚生年金の支給開始年齢は、2000(平成12)年の法改正によって60歳から65歳へと段階的に引きあげられたが、これから先さらに引きあげられる可能性もないとは言いきれない。これまで挙げてきた退職金や年金のデータも、あくまで近年から現在にかけてのものだ。今後、これらの数値が引き続き参考になるとは限らない。

平均寿命が延び、老後の生活が長くなるのは喜ばしいことである反面、少なくない不安が付きまとっているのも事実だ。そういった不安を解消するために、退職金の運用を検討してみるのも1つの方法だろう。

退職金の2つの運用方法

退職金の運用方法は、大きく分けて「預貯金」と「投資」の2つがある。まずは預貯金から見ていこう。

預貯金で着実に資産を増やす

預貯金の代表的な例は、銀行や信用金庫での定期預金だ。金利がほとんどつかない普通預金に比べると、多少ではあるが優れた利回りが期待できる。

1年よりも3年、3年よりも5年と、預ける期間が長ければ金利が上がる金融機関も多々あり、長期的に着実に資産を増やすことができるだろう。

とはいえ、資産を預けた金融機関が破綻した場合は元本1,000万円とその利息までしか保護されず、1,000万円以上の退職金がある場合は、複数の金融機関に分散するなど計画的に預けることを心がけたい。

プロの投資家に任せる投資信託

もう1つの方法が投資だ。退職金の運用に向いている投資としては、投資信託や国債などが挙げられる。

投資信託は、プロの投資家に資金を預けて国内外の株式や債券、不動産、金など複数の商品に投資して運用してもらい、成果を得る方法である。少額からの投資が可能で、ファンドマネージャーと呼ばれる投資のプロが目利きをした商品の中から自分で投資先を選ぶことができる。

一般的には複数の商品に分散投資するためリスクを軽減することが可能となるほか、プロに運用を任せることで、個人では買いにくい海外の株式や債券、特殊な金融商品への投資もできる。初心者にとっても取り組みやすい投資形態であり、「退職金でまとまったお金が入ったので、投資を考えている人」に適した1つの投資方法と言えるだろう。

デメリットとしては、元本の保証がなく、運用がうまくいかなければ資産が目減りしてしまう可能性がある点だ。投資する商品には価格や為替、金利が変動するリスクがある。いくら投資のプロが厳選した商品であっても、世界情勢などに翻弄されて市場が暴落し、最終的に元本割れするケースも想定しておかなければならない。

また、ファンドマネージャーに対する手数料がかかる点も考慮に入れなければならないだろう。購入時の「手数料」をはじめとして、投資信託の保有中、運用会社に対して支払う「信託報酬」、投資信託を解約する際に発生する手数料である「信託財産留保額」などが必要になる。それぞれ1%前後と小さい数字にも見えるが、年々積み重なればそれなりの金額になり、場合によっては利益との差し引きでマイナスになる可能性もある。

定期預金より利回りが良い国債

国債は国が資金を調達するために発行する有価証券だ。発行体である日本国政府が破産する可能性は非常に低いので、元本がほぼ保証されている投資商品と言える。

銀行や信用金庫で定期預金を組むよりも高い金利を得られる利点があり、個人向け国債であれば少ない資金で投資することができる。0.05%の最低金利が保証されているという点でも安心感がある。

発行から1年以上が経過しないと途中解約できず、途中解約すると直前2回分の利子に0.79685をかけた金額が「中途換金調整額」という名目で差し引かれるため、その分利益が少なくなるデメリットもあるが、こちらも投資信託と同様、退職金の投資に向いている商品と言えそうだ。

退職金を受け取る際、投資に回す際の注意点

実際に定年退職を迎え、退職金が支払われて運用を開始する際、いくつか注意しなければならない点がある。まず、退職金には原則として税金がかかる。退職一時金として受け取る場合は「退職所得」、退職年金として分割で受け取る場合は「雑所得」となり、それぞれに所得税と住民税がかかる。

ただし、退職所得には「退職所得控除額」が定められており、その金額を超えなければ所得税・住民税はかからない。「退職所得控除額」は勤続年数によって定められており、例えば大学を卒業して就職し、60歳で定年退職した場合は、勤続年数が38年となり、「退職所得控除額」は2,060万円となる。つまり、退職金が2,060万円以下であれば非課税となるのだ。

一方、退職年金の場合は60歳から64歳までは70万円、65歳以上は120万円が「公的年金等控除」となる。年金額が控除額以内に収まる限りは所得税・住民税はかからない。

具体的な例として、勤続38年で退職金が2,500万円である場合を考えてみよう。退職一時金と退職年金を併用できるようであれば、勤続38年の非課税上限額である2,060万円を一時金として受け取り、残りの440万円を「公的年金等控除」の範囲内で受け取る。そうすれば、課税はされないことになる。

定年を迎える段階でいろいろな条件を考慮に入れ、どのような形で受け取るのがベストなのかをまずは考える必要があるだろう。

退職金は老後のための大切な資金

投資には様々な種類があり、中には短期間で大きな利益を得ることが期待できる一方、元本割れ、最悪の場合は元本の消失といった事態もあり得るハイリスク・ハイリターンの商品もある。

老後の生活を少しでも安泰なものにするために、退職金を投資して資産を増やしたくても、無謀な投資は資産の目減りを招きかねない。そういったハイリスク商品を選ぶべきかどうか、自身が置かれた状況と照らし合わせながらよく検討する必要がある。

また、退職金は数千万円単位の金額が一気に手に入ることになる。急に預金額が増えると気が大きくなり、散財をしたり、投資に高額資金をつぎこんだりといった行動に出てしまいがちになるが、まずは冷静になることが必要だ。

公的年金だけでは日々の生活に不安があるという状況を鑑みると、退職金の使いみちとしては生活費などの必要経費に回すことを優先させるべきだろう。

自分に潤沢な資金がある場合は別だが、退職金はそのまま全額を投資に回すべきものではない。まずは老後のマネープランを考え、生活費や貯蓄など、必要なものから優先的に振り分けていく。そして余剰資金があれば、その分を投資に回せば良い。その際も決して無理はせず、手堅く、無理のない範囲で運用すべきだ。

退職金は老後の人生を不安なく過ごすための大切な資金である。運用する場合はリスクも伴うため、ノウハウを知り尽くしたプロのアドバイスを得ながら、有意義な使い方をしてほしい。