コロナ禍で所得格差が拡大する中、日本で金融所得課税が引き上げになる可能性が浮上している。なぜ今、見直しが検討されているのか、また引き上げによりどのような影響が予想されるのかなど、様々な角度から考察する。

目次

  1. 見直しが検討されている「金融所得課税」とは?
  2. 日本の課税制度が生みだした『1億円の壁』
  3. 引き上げ率は25%前後が適切?
  4. NISAも課税対象になる?
  5. 日本の税率は諸外国より低いのか

見直しが検討されている「金融所得課税」とは?

金融所得課税,引き上げ
(画像=PIXTA)

金融所得課税とは、預金や株式、投資信託、債券といった金融商品で得た所得(利子・配当金・株式譲渡益など)に対して課税する制度だ。構造や税率は国や地域により異なるが、多数の国で導入されている。

2021年10月30日現在の日本の税率は、金融所得にかかわらず一律20.315%(所得税15%・個人住民税5%・復興特別所得税0.315%)である。例えば、50万円で買った株を55万で売却した場合、利益の5万円に対して20.315%の税金がかかる。

ただし、課税対象となるのは金融商品の売却時に利益が発生していた場合のみだ。つまり、いくら保有している金融資産が値上がりしても、実際に売却して利益が確定しない限り税金はかからない。

日本の課税制度が生みだした『1億円の壁』

今現在、日本では金融所得課税の見直しについて大きな動きはないが、将来的に見直しが実施される可能性は十分にある。その背景には、『1億円の壁』と称される格差是正がある。

『1億円の壁』とは「年間所得が1億円を超えると金融所得の実質負担率が下がる」ことで、日本の課税制度の問題点の一つとして指摘されている。給与所得や事業所得には所得が高いほど税率が上がる「累進課税」が採用されているが、金融所得への課税は所得が100円でも1,000万円でも一律だ。

世帯所得が高いほど株式や投資信託などの保有率が高い傾向があると考えると、既存の金融所得課税は「富める者ほど益々富む」構造になっていることがわかる。実際、平成30年度の日本証券協会「証券投資に関する全国調査」をもとに資産運用アドバイスサイト「Route100」が作成したデータによると、2,000万円以上の世帯の4割以上が株式を、2割以上が投資信託を保有しているのに対し、100万円未満の世帯の保有率はそれぞれ5%にも満たない。

引き上げ率は25%前後が適切?

税率引き上げが所得格差の緩和策として検討されているが、実際にどれぐらい引き上げられるのかが気になるところだ。 税率見直しを支持するある政治家は、「株式市場を混乱させない税率」として25%前後への引き上げを提案している。一方、別の政治家は、年間50万円以上の金融所得に対して30%の課税を提案するなど様々な意見がある。今後見直しをとおして、さらなる議論が繰り広げられるだろう。

NISAも課税対象になる?

もう一つ気になるのは、NISA(少額投資非課税制度)も対象となる可能性が浮上している点だ。

2014年にスタートしたNISAは、年間120万円の非課税投資枠がある「一般NISA」、年間80万円の非課税投資枠がある「ジュニアNISA」、少額から長期積立できる「つみたてNISA」がある。

金融庁の発表によると、令和2年12月末時点のつみたてNISAの口座数は302万2,422口座と前年から約1.6倍に増加するなど、好調な伸びを記録している。

超低金利時代の今、貯蓄から投資へと後押しすることを目的にスタートしたNISAは2024年から口座開設期間を延長するなど一部制度が変更になり、今後もより力を入れていく気配がある。しかし、そのNISAから非課税優遇が排除された場合、NISAの本来の目的が失われてしまう。結果的にNISAの魅力が薄れ、利用者が減ることも想定される。

日本の税率は諸外国より低いのか

金融所得課税の見直しは必要不可欠という意見が多い一方で、「単に税率を引き上げるだけでは大きな成果は期待できないどころか、逆効果となりかねない」といった懸念の声もある。

日本と主要国の税率を比較すると、一見日本の税率は低いように見える。例えば、段階的課税を採用している米国の最高税率は、2021年1月の時点で37%+総合課税(州・地方政府税)と驚くほど高い。

しかし、最高税額が適用されるのは保有期間1年以下の短期取引から生じたキャピタルゲイン(売買差益)のみで、一般的な税率は0%・15%・20%の3段階に分かれている。つまり、条件次第では金融所得税の対象外となり、州・地方政府税のみとなることもあるのだ。なお、州・地方政府税は各地で異なるが、ニューヨーク市で4~8.82%となっている。

同じく英国も最高税率は45%と高めだが、利子所得が5,000ポンド(約78万円)以下は非課税、5,000~3万7,499ポンド(約78万~586万円)は20%など、4段階の課税を採用している。ドイツは26.375% (所得税25%+連帯付加税1.375%)、フランスは30%(所得税12.8%+社会保険関連税17.2%)だが、両国ともに分離課税か総合課税かを選択できる。要するに、所得水準次第で税率の低い方に切り替えることが可能であるため、納税者に優しいシステムだと言えるだろう。

日本の税率が一律なのは、金融商品で得た所得には他の所得と合算されない「申告分離課税」 が適用されるためだ。すべての層の税率を一律で引き上げた場合、所得が少ない層の投資意欲をそぎ、政府が促進する「貯蓄から投資」の動きに逆行するかもしれない。

日本政府は「見直しによる個人投資家への影響は限定的」と見ている、とも言われているが、引き上げ方次第では様々な所得層だけではなく、金融市場にも影響が及ぶことが考えられる。『1億円の壁』を崩し中間層を拡大するためには、一部で指摘されているように、累進制など多種多様な構造を検討する必要があるだろう。