インフレ懸念による欧米早期利上げの可能性が強まる中、世界各国で「スタグフレーション(stagflation)」への懸念が高まっている。アフターコロナの経済回復に水を差すリスク要因とされるスタグフレーションとは、いったいどのようなものなのか。

目次

  1. スタグフレーションとは?
  2. 今なぜスタグフレーションの懸念が高まっているのか?
  3. スタグフレーションになるとどうなる?
  4. 日本でのスタグフレーションの影響
  5. スタグフレーションは本当に再来するのか?

スタグフレーションとは?

スタグフレーション
(画像=PIXTA)

スタグフレーションは「stagnation(停滞)」と「inflation(インフレーション=物価上昇)」を掛け合わせた造語で、景気後退で失業率が高い中、物価が上昇する状態を意味する。「景気が上向くと消費が活発化し、物価が上がる」「景気が落ちこむと需要が縮小し、物価が下がる」という通常の流れとは異なる経済現象だ。

1965年、英国は「英国病」と呼ばれる経済停滞の最中にあった。このとき、当時の英保健大臣だったイアン・マクロードが、自国の経済情勢について用いたのが語源である。スタグフレーションが初めて世界的に認識されたのは、2回にわたるオイルショックの後遺症で、多数の先進国が急速なインフレと高失業率に苦しんだ1970年代だ。

スタグフレーションの厄介な点は、一旦突入すると制止するのが極めて難しいことである。通常の景気後退や成長の鈍化であれば、金利を下げることで支出や消費を刺激できる。しかし、スタグフレーション中に金利を下げるとインフレを悪化させ、最悪のシナリオでは通貨が暴落するハイパーインフレを引き起こしかねない。

今なぜスタグフレーションの懸念が高まっているのか?

コロナ禍の現在、世界中でスタグフレーションの懸念が高まっているのはなぜか。その背後にあるのは、インフレを後押しする原油価格の急騰と供給ショック、そして米利上げが加速する可能性だ。

過去のスタグフレーションの分析結果から、スタグフレーションを引き起こす要因として、原油価格の急騰や緻密さに欠ける経済政策、金本位制、供給ショック、労働力不足などを挙げる専門家が多い。

世界的なロックダウン(都市封鎖)の影響から、2020年4月にはマイナス価格に陥るという異常事態に陥った原油先物価格だが、その後は急速に回復基調に転じた。2021年11月2日現在のWTI原油先物は1バレル約83ドル(約9,453円)と、感染拡大以前である2年前の45%増しとなっている。

高騰の主な原因は、石油輸出国機構(OPEC)加盟・非加盟の産油国で構成されるOPECプラスが、供給を抑制しているためだ。原油価格の高騰は、ガソリンや軽油、食品など様々な商品の価格を引き上げる。インフレを抑制するためには原油価格を安定させる必要があるが、OPECプラスは主要国からの増産要請を拒絶し続けている。

この状況に追い打ちをかけているのが、供給ショックである。コロナ禍で断絶されたサプライチェーンは、今なお完全には回復していない。巣ごもり消費や経済活動の再開を受け、半導体から家電、自動車、エネルギーまで広範囲な領域で需要が急激に拡大しているにもかかわらず、生産能力が追いついていないのだ。感染リスクなどにより労働力が不足していることも、要因の一つだろう。

さらに米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和を縮小、利上げ開始には慎重な姿勢も見えるが、前倒しになる可能性もある。繰り返しになるが、スタグフレーション中の利上げは大きなリスクを伴う。

スタグフレーションになるとどうなる?

スタグフレーションに突入すると、国民の生活から経済、投資まで広範囲にマイナス影響が及ぶ。

ただでさえ景気後退で賃金が停滞している状況にもかかわらず、物価がどんどん上がると想像してみてほしい。当然ながら生活は圧迫され、購買意欲にブレーキがかかる。特に低所得層への経済的打撃は大きく、二極化がさらに進行する可能性が高い。個人消費の減少は企業の売上に影響し、リストラや事業・生産縮小など様々な形で景気を低迷させる。

このような状況に陥ると、経済成長率(GDP)が減速する。今回のケースでは、コロナ禍からの経済回復を遅らせることとなるだろう。

また、過去のスタグフレーション局面では株価や債券が圧迫されたことから、すでに一部の投資家間では警戒心が広がっている。ゴールドマン・サックスの分析によると、過去60年強でスタグフレーションと認定された四半期におけるS&P500種の騰落率中央値はマイナス2.1%だったのに対し、スタグフレーション以外の四半期はプラス2.5%だったという。

日本でのスタグフレーションの影響

世界初のスタグフレーションは1970年代、米国から日本や英国、カナダを含む先進国経済へと広がった。当時ニクソン政権下にあった米国は、賃金・価格統制と通貨供給量の増加を同時進行させたが、石油ショックという予想外の出来事に見舞われ混乱に陥った。コスト高に見舞われた資源輸入国の企業は生産抑制を余儀なくされ、各国の経済は大きな打撃を受けた。

当時の経済企画庁(現内閣府)がOECD(経済開発機構)などのデータに基づき、60~70年代の主要国のスタグフレーション度を分析した結果、ピーク時には米国やカナダのスタグフレーション度は15%、すでにインフレが進んでいた日本と英国はそれぞれ25%を超えていたという。

スタグフレーションは本当に再来するのか?

問題の焦点は、コロナ禍でスタグフレーションが本当に起こるのかどうかだ。市場の懸念とは裏腹に、多くの専門家は楽観的である。「1970年代とは物価上昇の見通しが異なる」「今回の物価上昇は短期的なものであり、供給ショックが緩和されるとともに経済成長が加速する」というのがその理由だ。スタグフレーションが起こったのが後にも先にも70年代のみであることから、「極めてまれな現象」という過信も後押ししているかもしれない。

ただし、FRBが債券の買い入れ縮小ペースを速めたり、あるいは現在より積極的な利上げに動いたりした場合、株式市場に混乱をもたらす可能性を指摘する声もある。いずれにせよ、各国の政策には、先見の明のあるアプローチが求められるだろう。