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今、自筆遺言書を作成する人が急増しています。その背景には、2020年7月から始まった法務局の自筆遺言書の保管制度が深く関わっています。「この制度が注目されている理由はなにか」「どんな手続きを踏めばこの制度が利用できるのか」などについてくわしく解説します。

目次

  1. 2020年7月開始の新制度で自筆遺言書の作成者が急増
  2. 遺言書が適正な形式で作成されているかチェックできる
  3. 「申請までの流れが手軽で添付書類が少ない」メリットも
    1. 遺言書の申請〜保管開始までの流れ
    2. 遺言書の保管申請時の添付書類と手数料
  4. 利用時の要注意ポイント「保管制度特有の形式上のルールがある」
  5. 保管した遺言書は内容の訂正や撤回・再申請もできる

2020年7月開始の新制度で自筆遺言書の作成者が急増

「なぜ今、自筆遺言書を作る人が急増しているのか?」その背景をまとめると次のようになります。

「財産を誰にどれくらい残すか」遺言者の意思を示すための書面が遺言書です。遺言書の形式にはいくつかの選択肢がありますが、このうち「自筆証書遺言(以下、自筆遺言書)」には手軽に作成できるメリットがあります。一方、自筆遺言書のデメリットとして紛失・改ざん・差し替えなどのリスクが指摘されてきました。

しかし、2020年7月から始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」によって、デメリットである紛失・改ざん・差し替えなどのリスクがなくなったことから自筆遺言書を作成する人が急増しました。この制度は、法務局の本局・支局・出張所などに設置された全国300か所以上の保管所で遺言書を預かってくれるというものです。

実際にどれくらいの人が保管制度を利用しているのでしょうか。日本経済新聞では、2020年7月〜翌年3月までの9ヶ月間で、保管制度の利用件数が1万6,655件にも上ったと報じています(2021年6月5日付)。新型コロナ感染拡大の最中にこれほどまでの利用があったことは「大きな反響」といってよいでしょう。

保管制度が紹介されるときには、上記の「自筆遺言書が安心して保管できる」というメリットばかり強調されることが多いのですが、ほかにもいくつかのメリットがあります。

遺言書が適正な形式で作成されているかチェックできる

自筆遺言書の保管制度の2つ目のメリットとしては、「遺言書が適正な形式で作成されているか」チェックできることが挙げられます。民法に沿った「法的に有効な自筆遺言書」には、以下のような形式上の決まりがあります。

  • 遺言書の全文を遺言者の自筆で書くこと
    ……ただし、財産目録はパソコンでの作成や添付書類での代用も可
  • 遺言者の氏名を自著すること
  • 遺言者が押印すること
  • 遺言の作成日付を入れること
    ……「令和3年6月吉日」のような表記は不可。必ず年月日で表記
  • 訂正や追記を適切に行う
    ……①訂正・追記を行う②付記・署名する③訂正・追記の箇所に押印

自筆遺言書の保管申請の際には、これらの「形式上の決まりを守っているか」を遺言書保管官がチェックしてくれます。つまり、保管申請が受けつけられたということは原則、その遺言書に不備がないと理解することができます。

ただし、保管所で申請時にチェックしてくれるのは「形式上の不備があるかどうか」だけです。遺言書の内容自体をチェックしているわけではなく、内容に対してアドバイスしてくれるわけでもありません。遺言書の内容自体について不明点がある場合は、弁護士など法律の専門家に相談するのがよいでしょう。

「申請までの流れが手軽で添付書類が少ない」メリットも

自筆遺言書の保管制度の3つ目のメリットとして比較的、申請までの流れが手軽で添付書類が少ないことも挙げられます。加えて、手数料が安いのも魅力です。それぞれの内容を見ていきましょう。

遺言書の申請〜保管開始までの流れ

自筆遺言書を作成した後の「申請〜保管開始までの流れ」は、次の通りです。

  1. 適正な形式で自筆遺言書を作成する
  2. 遺言書の保管所を決める
    ……遺言者の住所のあるエリアの保管所や本籍地のあるエリアの保管所など
  3. 保管申請書に必要事項を記入する
    ……申請書は法務局の公式サイトからダウンロード(こちら)または、法務局の窓口で入手可
  4. 申請予約して保管所に行く
  5. 手続きに問題がなければ保管証を受け取れる

ちなみに、手続きが終わったら渡される「保管証」がどのようなものか気になる方もいるでしょう。保管証には下記のような情報が記載されています。

  • 遺言者の氏名や生年月日
  • 保管所名
  • 保管番号など

こちらは保管証のイメージ画像です。

出典:法務省公式サイト「自筆証書遺言書保管制度」
(画像=出典:法務省公式サイト「自筆証書遺言書保管制度」)

なお、この保管証は「再発行が不可」となっています。そのため、紛失リスクのない場所で管理することが重要です。とくに保管番号はその後の手続きや遺言書の特定に必要な情報です。

遺言書の保管申請時の添付書類と手数料

自筆遺言書の保管申請を行う際の添付資料は次の通りです。

  • 住民票の写しなど(作成後3か月以内のもの)
  • 運転免許証やマイナンバーカードなどの顔写真付きの身分証

さらに、自筆遺言書の保管制度のメリットとして、遺言者にとって使いやすく有用にもかかわらず「手数料が安いこと」が挙げられます。遺言書1通あたりの手数料は3,900円という設定です(収入印紙で納付)。また、保管の年数が数十年など長期になっても追加の手数料は不要です。

利用時の要注意ポイント「保管制度特有の形式上のルールがある」

自筆遺言書の保管制度を利用するときの注意点としては、「この制度で決められた形式で遺言書を作成しなければならない」ことが挙げられます。

自筆遺言書というのは本来、「遺言者の自筆で書く」などの要件さえ守れば、紙のサイズや書き方については自由で構わないものです。しかし、保管制度を利用する場合は、この制度が指定する形式で自筆遺言書を作成しなければなりません。「用紙はA4サイズのみ」で下記の画像のように上下/左右の余白が細かく指定されています。

出典:法務省公式サイト「自筆証書遺言書保管制度」
(画像=出典:法務省公式サイト「自筆証書遺言書保管制度」)

気を付けたいのは、上下あるいは左右で余白サイズが違う点です。たとえば、上の余白は5ミリメートル以上、下の余白は10ミリメートル以上と下の余白のほうが広い設定になっています。

そのほか保管制度特有のルールとして、次のような内容が挙げられます。

  • 用紙の片面のみを使う
  • 両面を使った遺言書は保管不可
  • 各ページにノンブル(ページ数)を記載する
    …… 1/2、 2/2 のように総ページ数も示すこと
  • ページ数が複数ある場合もホチキスなどで綴じない
  • 戸籍通りの氏名を記載する など

なお、「自筆証書遺言書保管制度」で決められた様式をくわしく知りたい方は、法務局の公式サイト(こちら)をご参照ください。

保管した遺言書は内容の訂正や撤回・再申請もできる

「自筆証書遺言書保管制度」は特有のルールはあるものの、手続きが比較的簡単で使い勝手のよい制度です。手数料が3,900円とそれほどかからないのも魅力でしょう。遺言者のメリットが大きい制度なので、今後さらに利用者が増えていくことが予想されます。

この保管制度を使うか迷っている方のなかには、保管所にいったん預けた遺言書は「内容を訂正できないのではないか?」と考えている方もいるかもしれません。

しかし、「保管申請の撤回の手続き」をすれば遺言書の文面などの変更は可能です。そして変更した遺言書は再度、保管制度の利用が可能です(※)。ただし、遺言書を保管し直す場合、再度3900円の手数料の支払いが必要になります。

※保管所に預けた自筆遺言書をそのままにして、新たに自筆遺言書を作成して保管所に預けることもできます。ただし、法務局では遺言書の内容を変更する場合、保管申請を再度することを推奨しています。