不動産投資
(画像=inkdrop/stock.adobe.com)

不動産投資家にとって新築マンションを購入するときに大きなコスト負担になるのが消費税です。新型コロナウイルスの感染拡大による経済的打撃が大きいなか、消費税の減税を目指す政治的な動きが活発化しています。

野党のみならず与党のなかからも消費税減税を求める意見が出るようになりました。衆議院選挙の争点にもなりそうな消費税減税が急浮上してきた背景と今後の行方を探ります。

目次

  1. 消費税負担が最も大きいのは不動産投資家?
    1. 新築マンション
    2. 中古マンション
    3. 土地
    4. 建売住宅
  2. 消費税はなぜ始まったのか、歴史を振り返る
    1. 消費税導入以前
    2. 消費税3%導入
    3. 消費税5%導入
    4. 消費税8%導入
    5. 消費税10%導入
  3. 消費増税が「社会保障のために使われている」は本当か?
  4. コロナで急浮上した消費税減税案
  5. 消費税減税研究会が引き下げ案発表
  6. 衆議院選挙の争点になる消費税
  7. 消費税減税なら不動産市場が活性化する
  8. 不動産投資家最悪のシナリオは消費税19%への増税
  9. 消費税減税実現には国民的ムーブメントが必要

消費税負担が最も大きいのは不動産投資家?

おそらく絵画などの美術品や骨董品を除き、通常の買い物のなかで最も高価なものは不動産でしょう。したがって、不動産を購入して貸し出すことで収益を上げる不動産投資家は消費税負担が最も大きい存在ということができます。

はじめに、不動産の物件形態別に消費税課税の有無を確認しておきましょう

新築マンション

新築マンションの購入には消費税がかかります。5,000万円(建物価格3,800万円)の新築マンションを購入すると実に380万円の消費税を支払うことになります。新車の自家用車が1台買える金額です。

土地部分は非課税のため、建物価格のみに消費税がかかります。マンション価格の表示が税込であれば、不動産会社が消費税を計算して表示しているため、新たに計算する必要はありません。

【計算例】5,000万円の新築マンション
建物価格 3,800万円×消費税10%=380万円
土地部分 1,200万円×消費税0%=0円
合計消費税 380万円

中古マンション

中古マンションを購入する場合、消費税は非課税のケースが多いですが、すべてが非課税というわけではありません。

売りに出しているのが個人であれば消費税はかかりません。消費税は事業者の売上に対して課税される税金なので、個人の売買に課税されることはないのです。不動産会社は単に仲介しているだけで、売上にはならないため消費税はかからないことになります。ただし、仲介手数料には消費税がかかります。

一方で、不動産会社が直接販売する物件や、売りに出しているのが事業法人である場合は消費税がかかります。不動産の販売形態が「売主」となっている場合は不動産会社などが直接売主になっているため、消費税を支払う必要があります。

土地

前述したように土地はもともと非課税のため、取引相手が誰であっても消費税を支払う必要はありません。土地は消費される品物ではないため、単なる資本の移転に過ぎないというのが理由です。

建売住宅

建売住宅は土地と建物をセットで販売するケースが多いですが、この場合は建物部分のみに消費税がかかります。建物総額のうち建物と土地がそれぞれいくらかは契約書に内訳が記載されており、建物価格の割合が大きいほど消費税が多くかかることになります。

また、建売住宅の土地には「所有権」と「借地権」があり、売出広告に記載されています。所有権であることが一般的ですが、借地権の場合は「借地権付建売住宅」と記載されるのですぐにわかります。

価格は安い傾向があり、それに伴って消費税負担も少なくなりますが、更新料がかかったり、売却時に制約もあるので、一概に得とは限らない場合があります。

消費税はなぜ始まったのか、歴史を振り返る

次になぜ消費税がかかるようになったのか、消費税導入と引き上げの歴史を振り返ってみましょう。消費税が始まったのはバブル経済最盛期の1989年です。以降次のような経緯で消費税は増税を重ねてきました。

消費税導入以前

消費税導入には紆余曲折があり、簡単に導入が決まったわけではありません。最初に導入を目指したのは大平内閣で、1979年1月に「一般消費税」の導入を閣議決定します。しかし、同年10月に行われた総選挙への影響を恐れて断念し、選挙も大敗に終わりました。

次いで挑戦したのが中曽根内閣で、1987年2月に「売上税」法案を国会に提出しますが、国民の反対が大きく、同年5月に廃案に追い込まれました。

消費税3%導入

そして、ようやく1988年12月に消費税法が成立し、翌1989年4月、竹下政権によって3%の消費税が導入されました。当時消費税を導入する目的の1つが「直間比率の是正」でした。直を表す直接税とは、法人税のように事業者が直接納税する税金のことをいいます。一方の間接税とは消費税のように消費者が税を負担し、事業者が納税する税金が該当します。消費者は直接納税することなく、レジなどで間接的に税金を支払うことから間接税と呼ばれています。

直接税だけでは給与所得者に税の負担が偏る弊害があることから、国民が幅広く公平に税負担を分かち合うべきという主旨で消費税が導入されました。そして、もう1つの理由が高齢化社会を見据えて社会保障を充実させるためです。

消費税5%導入

1997年4月、橋本政権下で消費税が5%に引き上げられました。このときの増税で地方消費税が導入され、5%のうち1%は地方税となる改革が行われています。

消費税8%導入

2014年4月、安倍政権によって消費税が8%に引き上げられました。これは安倍政権になってから急に出た案ではなく、民主党野田政権時代の2012年8月に消費税率を2014年に8%、2015年に10%に引き上げる法案が参院本会議で可決成立したことを受けて実行したものです。

消費税10%導入

新型コロナウイルスが蔓延する直前の2019年10月に安倍政権によって10%への引き上げが行われました。当初は2015年10月に引き上げを行う予定でしたが、景気低迷の社会情勢を考慮して2回にわたって延期していました。これにより2012年に成立した「消費税引き上げ法案」は実行されたことになります。

消費増税が「社会保障のために使われている」は本当か?

消費税は「社会保障のために使われている」というイメージが強いでしょう。しかし、時事通信の報道によると、2019年10月に行われた8%から10%への消費税増税について、増収分の5.7兆円のうち社会保障費・経済支援に充てられたのは2.8兆円で、全体の約半分でしかないことが判明しています。残りの約半分は国の借金の膨張を抑制するために使われています。

増税分の使い方自体は、2012年の野田内閣の時代に社会保障の充実に充てる1.1兆円以外は国の新たな借金の抑制に充てることで与野党が合意しているため問題ありませんが、国民が抱いている「消費増税は社会保障のためにはやむを得ない」という認識とは実態がやや異なることを心得ておく必要があります。

コロナで急浮上した消費税減税案

2019年10月から10%に増税されてしばらく落ち着くかに見えた消費税ですが、2020年に本格的に感染が拡大した新型コロナウイルスによって状況は一変しました。2021年6月8日に内閣府が発表した2021年1-3月期のGDP(国内総生産)は、年率換算で-3.9%と大きく落ち込んでいます。

海外では新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した2020年4月以降多くの国で付加価値税(日本の消費税に相当)の引き下げが期間限定で行われました。例えば、英国では飲食・観光業の税率を20%から5%へ大幅に減額しています。また、韓国では個人事業主の付加価値税納税を減額・免除する施策を実施しました。これに対し日本では10%に据え置いたままで、GDPの落ち込みをカバーできない状態が続いています。

海外では減税や経済対策によってGDPが大きく回復する国が増えています。米国の2021年1-3月期のGDPは年率6.4%の成長を達成。中国にいたっては同期のGDPが前年同期比で18.3%増と1992年以降で最大の伸びを示しています。日本では減税も有効な経済対策も行われず、先進国のなかで経済の回復が大幅に遅れています。このような状況のなかで上がってきたのが「消費税減税」を求める声です。

消費税減税研究会が引き下げ案発表

2021年5月31日、超党派議員連盟の「消費税減税研究会」が消費税5%への引き下げ案を発表しました。消費税減税研究会は、立憲民主党の馬淵澄夫議員とれいわ新選組の山本太郎代表が共同会長をつとめる研究会です。れいわ新選組はかねてから消費税廃止を公約に掲げていますが、野党共闘への現実的な路線として5%減税案を受け入れた形です。

研究会の案ではコロナ禍が収束するまで時限的に消費税を5%に引き下げるとしています。財源は国債の発行で賄う方針です。その後コロナが収束しても経済が回復しない場合は、法人税増税や所得税累進課税強化などの手法で消費税を5%に固定する計画です。

両代表は6月9日に国会内の日本共産党控室を訪れ、志位委員長に提言書を手渡し5%減税実現への協力を申し入れました。志位委員長は「まずは5%への減税が野党共同の旗印になるように努力したい」と前向きな姿勢を示しました。

一方、与党のなかからも消費税減税を求める声が上がっています。議員連盟「日本の未来を考える勉強会」(安藤裕会長)は2021年4月23日、「令和3年度第一次補正予算に関する提言」を発表しています。

この提言のなかで消費税について、2021年10月から3年間の課税停止を盛り込んでいます。消費税の課税停止は現金給付と同じような効果があり、自動車、住宅、家電などの大型消費を促進すると説明しています。住宅の販売が伸びることから、不動産業界としては歓迎したい提言といえるでしょう。

衆議院選挙の争点になる消費税

以上のような経緯から、2021年秋に予定されている衆議院選挙では消費税減税が大きな争点になる可能性が出てきました。野党は表立って反対する動きはないことから、野党共闘の旗印として消費税5%減税を共通の公約として掲げる可能性は高いでしょう。

片や与党側は消費税減税には消極的な姿勢を崩しておらず、ワクチン接種を加速させ、秋までにコロナ収束への目途を立てることで支持につなげたい考えです。菅首相は2021年6月9日に行われた党首討論のなかで、「10~11月で希望者全員のワクチン接種終了を目指す」意欲を改めて強調しています。また、政府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)にも加える方針です。

ただ、骨太の方針の中身を見ると、デフレ脱却や最低賃金1,000円への引き上げには前向きですが消費税減税には触れていません。

今後秋までに与党が消費税減税に対抗するような経済対策を打ち出してくるのかが注目されます。

消費税減税なら不動産市場が活性化する

では消費税減税が実現した場合、不動産市場にはどのような影響が予想されるのでしょうか。3つのケースに分けて予算内で購入できる物件の数をシミュレーションしてみましょう。

【消費税が0%になった場合の需要拡大モデルケース】不動産投資家A 年間購入予算5億円
・5,000万円(建物価格3,800万円)の新築マンション購入の場合
消費税10% 3,800万円×9戸×消費税10%+1,200万円×9戸=4億8,420万円
消費税0% 5,000万円×10戸=5億円

【消費税が5%になった場合の需要拡大モデルケース】不動産投資家B 年間購入予算10億円
・5,000万円(建物価格3,800万円)の新築マンション購入の場合
消費税10% 3,800万円×18戸×消費税10%+1,200万円×18戸=9億6,840万円
消費税5% 3,800万円×19戸×消費税5%+1,200万円×19戸=9億8,610万円

これらのケースではいずれも予算の範囲内で1戸多く購入することができます。つまり、消費税が減税されることによって投資家が投資する金額は同じ予算でも、販売戸数が増えることになるのです。また、中古マンションの追加買いを呼び込む可能性もあります。

【中古マンションの需要拡大モデルケース】不動産投資家C 年間購入予算5億円
・5,000万円(建物価格3,800万円)の新築マンション購入の場合
消費税10% 3,800万円×9戸×消費税10%+1,200万円×9戸=4億8,420万円
消費税5% 3,800万円×9戸×消費税5%+1,200万円×9戸+中古マンション3,290万円(非課税物件の場合)=5億円

このケースでは新築マンションを購入した段階で予算の残りが3,290万円しかないため、新築マンションをもう1戸購入することは難しいですが、中古マンションなら追加購入が可能です。

このように、消費税が減税されることによって、不動産業界全体では販売戸数が増える可能性があります。不動産投資家にとって消費税の負担がいかに大きいかがおわかりいただけると思います。実際には諸経費がかかるため、上記のシミュレーションより出費は多くなります。およその目安としてご覧ください。

不動産投資家最悪のシナリオは消費税19%への増税

消費税減税の可能性がある半面、実現しない場合将来的にさらに消費税が引き上げられる可能性があります。不動産投資家にとって最悪のシナリオになりそうなのが経済同友会の提言です。

経済同友会が2021年5月11日に発表した提言によると、経済成長や財政状況について2050年度までの試算として、国と地方の債務残高がGDPに占める比率を縮小するには消費税19%への引き上げが必要としています。

もし19%になれば、建物部分1億円の新築マンションを購入したときに負担する消費税は1,900万円にも及び、不動産投資家に壊滅的な打撃を与える恐れがあります。不動産投資家はこれからも消費税を巡る動きを注意深く見守っていく必要があります。

【消費税税率別の実現可能性】
・0%
日本共産党とれいわ新選組は将来的に廃止を目指しています。自民党の議員連盟のなかには時限的に0%を求める声があります。緊縮財政派や財務省の抵抗が予想され、実現は厳しい状況です。

・5%
最も現実的な減税案です。野党は総選挙の旗印としてまとまる可能性があります。野党連立政権樹立なら実現の可能性が高いでしょう。最大野党立憲民主党の対応がカギを握ります。

・10%
自公連立政権が継続し、消費税10%が据え置かれるパターンです。ただし、野党の公約が国民から支持され、事前の選挙情勢が不利になった場合は0~5%への時限的引き下げで対抗する可能性もあります。

消費税減税実現には国民的ムーブメントが必要

不動産投資家としては消費税減税を実現してほしいところですが、それには消費税減税を求める国民的ムーブメントが起こる必要があります。先に紹介した時事通信の報道にもあるように、消費増税分のうち半分しか社会保障費・経済支援に使われていないとすれば、本来の目的のためには5%でも問題ない計算になります。国民も「消費増税は社会保障のためにはやむを得ない」という意識を変えることが必要です。

もし5%への減税(食品などは軽減税率3%と仮定)が実現すると、年間消費税を20万円負担している家庭の場合10万円の負担減となります。そうなれば手元に残るお金で欲しかったパソコンを買ったり、旅行へ行ったりする人もいるでしょう。日本経済が活性化するので、減税分は税収増である程度賄えると思われます。不動産投資家にとって良い結論が出ることを願うばかりです。

※本記事は2021年6月12日時点の情勢を基に構成しています。消費税減税の行方は流動的ですので、参考程度にお考えください。