金融庁の資料によると、60歳以上の金融資産の保有状況は、2014年時点で全体の65.7%、2025年には全体の66%、2035年には70.6%にのぼると見込まれています。金融資産を潤沢に持った60歳以上のシニア世代は、最近増加している高齢者を狙った詐欺や金融機関が販売する際の金融商品のビジネスターゲットにもなりやすい傾向にあります

しかし、高齢になるにつれ認知機能が衰え、適切なプロセスを踏んで商品を購入しても商品に対する正しい理解ができておらず、トラブルになることも少なくありません。認知機能は自分でコントロールできるものではないため、現在起きている高齢者の金融トラブルの実態をきちんと把握し、自分なりの対処法を見いだしておく必要があります。

高齢者の金融トラブルの現状はどうなっているのか、またどのような対策を取る必要があるのかについて解説します。

高齢者の金融トラブルの現状

高齢者の金融トラブルの現状と対策
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

国民生活センターの資料によると、2018年~2020年に寄せられた金融関連商品やサービスに対する苦情相談の件数は以下のとおりです。

(金融商品・サービス部門)

2018年2019年2020年(中間値)
生命保険関連6,586件8,807件5,632件(前年同期8,205件)
投資信託952件869件571件(前年同期794件)
商品先物取引220件176件168件(前年同期165件)
外国為替証拠金取引577件741件1,423件(前年同期672件)
ファンド型投資商品10,340件5,529件4,799件(前年同期5,178件)
未公開株310件235件153件(前年同期217件)
怪しい社債319件166件92件(前年同期154件)
暗号資産(仮想通貨)3,453件2,471件1,469件(前年同期2,328件)

相談件数は2021年3月31日現在のもの(消費生活センター等からの経由相談は含まない)

具体的なトラブル事例

生命保険関連では、特に「外貨建て生命保険の契約」に関するトラブルが目立っています。2019年度の全体の相談件数は483件、うち70歳以上は243件、平均契約購入金額は957万円と高額になっており、トラブルの代表的な例としては「高金利、元本保証をうたって自宅に何度も訪問され契約してしまったが、元本保証ではないと知り解約したい」というものです。

また、投資信託については、元本が保証されないなどの十分な説明がないまま契約をさせられたというケースが多いようです。商品先物取引については強引な契約が問題視されており、さらに外国為替証拠金取引やファンド型投資商品、暗号資産においては、SNSがらみのトラブルが増えている傾向にあります。未公開株や怪しい社債については新規事業の話を聞かされ、強引に契約させられるというケースが多く見られます。

トラブルが発生する背景

このように、高齢者が金融商品についてよく理解しないまま契約してしまう背景としては以下のようなことが考えられます。

  1. 高齢者のみの世帯や高齢の独り暮らしが増える中、寂しさから営業担当者を家に上げ、何度も茶飲み話をしているうちに商品の購入に至る。

  2. 金融機関側においては、昨今の低金利で円建ての終身保険といった商品が販売休止となり、高齢者に外貨建て商品を提案せざるをえない状況にある。
    また、高齢者側においては、相続対策を意識して終身保険への加入を検討する人が多く、円建ての商品が少ない現状では金融機関が勧めてくる外貨建てを検討せざるをえない。

  3. 外貨建て商品はさまざまな金融機関が取り扱っているが、高齢者にとって大手金融機関は絶対的に信頼できる存在であり、特に銀行員が売る商品に元本割れする商品はないと思い込んでいる。

銀行で保険商品や運用商品を窓口販売するようになって日が浅く、高齢者には銀行の金融商品は元本割れしない、と思い込んでいる人もいます。また、預貯金や保険の予定利率が高い時代を過ごし、保険でお金が増えた経験を持つ人も多く、現状のような低金利を受け入れられないこともトラブルを招く一因とも言えるのではないでしょうか。

トラブルに巻き込まれないために

75歳以上の高齢者の取引では、金融機関の担当者だけではなく、その取引において管理責任のある立場にある役職者の事前承認による2回以上の面談や家族の同席など、高齢者を守るために金融商品取引法など法律に基づいた勧誘ルールが整備されています。しかし、高齢者が元本確保ではない商品の詳細まで担当者からの説明の全てを理解し、覚えておくのは大変です。

記憶力や理解力が年々衰える高齢者は、提案された運用商品が自分にとって必要かどうかを判断できず間違って購入してしまう場合もあります。また、現在のような低金利の状況では、金利が高く元本が確保できる商品はないという価値観を受け入れることが難しく、商品をよく調べず安易に契約してしまうということが起こりえます。

トラブルの対策法

このようなトラブルの対策としては、以下のことが挙げられます。

  1. 株式や投資信託などのリスク商品は70代になったら順次売却し、現金化して預貯金の口座にシフトしていく。

  2. 銀行の預金口座も管理しやすいように、口座引き落としなど使う口座といざという時のお金を貯めておくストック口座など2~3の口座にまとめておく。

  3. 外貨建て保険や変額保険など、高齢者にとって為替リスクや運用リスクが伴い、仕組みが難しい商品は契約しない。

  4. 金融商品を提案されたら必ず子どもなど親族に連絡することを約束しておく。

  5. クレジットカードを所有している場合で、使い慣れていない、高額な買い物をしてしまう、支払いの管理ができないということであればクレジットカードを解約する。

  6. キャッシュカードからの現金の引き出し、振り込みは金融機関で1日に引き出しや振り込みできる上限額を設定し、高額な支払いや振り込みができないようにしておく。

  7. どのような資産があるのか、相続時への備えという意味も含め財産目録を作り子どもと共有しておく。

  8. 通帳や印鑑、証券などの保管場所を親子で共有しておく。

必要な対策は人により異なりますが、認知能力がさらに低下したときのために、後見制度や信託など将来必要になるかもしれない仕組みについて伝えておくことも重要です。

特に、1人暮らしが難しくなり高齢者施設に入居するといった場合、金融商品を解約、売却したり、自宅を売却して入居金に当てようと考えている人は多いでしょう。

しかし、もしそのときに認知症等で契約行為ができなくなっていると、解約や売却ができず、自分の財産を自分のために使うことができなくなってしまいます。

こうしたトラブルを防ぐためには、認知症になる前に金融資産や不動産の全部、または一部を子どもなど信頼できる親族に委託する家族信託の仕組みを利用するのも一案です。

本人の意思能力にかかわらず、財産を受託した子どもなど親族が、金融資産の解約や不動産の売却を行い、本人のためにお金を使うことができます。

金融犯罪に巻き込まれたら

どんなに気をつけていても金融トラブルに巻き込まれることはあります。例えば、離れて暮らす親が数回に分けて特殊詐欺犯に多額の現金を渡してしまったという例もあります。

特殊詐欺の被害

特殊詐欺の被害に対しては「振り込め詐欺救済法」により原則としては金融機関が補償します。しかし、すでに振り込んだ口座から犯人が現金を引き出してしまった場合や犯人に現金を渡してしまった場合、ゆうパックなどに現金を同封して犯人に送ってしまった場合などは補償されません。

払い出し被害

キャッシュカードの盗難や偽造による払い出し被害「預金者保護法」によって保護されますが、重過失の場合は補償されません。

重過失に当たる事例としては、本人が暗証番号を第三者に教えた場合、暗証番号をキャッシュカードに記載していた場合、暗証番号を誕生日など容易に推測できる数字に設定していた場合、本人がキャッシュカードを第三者に渡してしまった場合などがあります。

高齢になると暗証番号を覚えていることが難しく、家族の誕生日や電話番号、同じ数字の羅列など第三者に推測されやすい番号に設定している場合が散見されます。

離れて暮らす高齢の親がいる場合は、年に1回程度は一緒にキャッシュカードでお金を下ろしたり、口頭で確認するなどして、危ない暗証番号を設定していないかを確認することも大切です。

金融ADR制度 

金融機関とのトラブルが発生した場合、その解決手段として「金融ADR制度」の利用が考えられます。

制度の概要

銀行・保険・証券など業態ごとに金融ADR機関が設置され、所属する弁護士・認定司法書士など中立・公正な専門家が、当事者双方の話を聞きながら和解案を提示し、紛争解決を図ります。標準的な解決までの期間が2~6カ月と裁判より短く、一部機関を除き無料で利用できるメリットがあります。

ただし、中立な立場での和解案は、必ずしも利用者の思い通りとなるわけではありません。トラブルを未然に防ぐためには、商品サービスの説明をしっかりと聞き、理解して納得の上で契約することが重要です。

家族とのコミュニケーションが重要

金融トラブルで資産を失うことのないように、年をとったらある程度の金融資産を子どもや孫に贈与して資産の一部を移転しておくことも一つの対策法とも言えます。資産移転をしておくことで、次世代のための生きたお金の使い道となり、高齢者が金融トラブルに巻き込まれる可能性も少なくなります。

現在の高齢者は戦後の高度成長期を支えてきた、質素倹約が身につき物やお金を所有し続けることにこだわる世代とも言われています。

世代間でお金の話をするのは面倒ですし、なかなか話しにくいことですが、自身の認知機能がしっかりしているうちに子どもとのコミュニケーションをしっかり取り、現状の資産状況を共有し、有効な使い道を一緒に考えることが、特殊詐欺や金融機関とのトラブルを事前に避ける近道であることをしっかりと認識しておきましょう。