片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

2019年、金融庁が発表した老後2000万円問題を契機に、投資での資産形成の必要性が叫ばれています。その中で、ワンルームマンションの不動産投資が注目され、市場は活発です。しかしながら、ワンルームマンション投資に潜む落とし穴に注意しなければなりません。

都心のワンルームマンション投資。投資家の手元にいくら残るのか

ワンルームマンション投資の思わぬ損失は増加する
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

東京の都心に立地するワンルームマンションは、地方の物件と比べて、利回りが比較的良いとされています。

例えば、東京都心に所在する価格1,050万円、月額家賃6万5,000円の投資用ワンルームマンションを購入した場合、投資家が得る年間の家賃収入の金額は以下のようになります。

①物件価格1,050万円+諸費用100万円
②借入額850万円
③自己資金300万円
④年間の潜在総収入78万円
⑤空室率(5%と仮定)と未回収損3万9,000円
⑥運営費用20万円
⑦年間返済額39万円

④の年間の潜在総収入から、⑤⑥⑦を控除しますと、年間で手元に残るお金は15万1,000円となり、これが投資家の得られる利益となります。なお数年間、購入した不動産から家賃収入を得た後、適切なタイミングで売却すれば、更に多くの利益も見込めるでしょう。

このように、ワンルームマンションの不動産投資は、その物件の立地や価格、賃貸条件が望ましいものであれば、投資の一つとして魅力的なものであることが分かります。

ワンルームマンションが不動産投資家に思わぬ損害をもたらす

損害の原因は何なのか

ただし、注意しなければならないのが、良い不動産を購入すれば、後は安心して資産形成ができるわけではないという点です。

投資用ワンルームマンションは、賃借人が物件に入居して初めて家賃収入を得られますが、その賃借人の属性によっては、大きな損害を被ることに気づいていない投資家が少なくありません。その思わぬ損害の要因となっているのが、日本の少子高齢化です。

日本の少子高齢化の現状

現在、日本は少子高齢化社会となり、今後も人口減少に歯止めがかからないとよく耳にしますが、実際のところ、どれほどの状況なのでしょうか。

現在の日本の総人口は、2021年7月1日時点で1億2,536万人となっています。

総人口を年代別でみますと、15歳未満の人口が1,486万人で全体の11.9%、15歳から64歳までの人口が7,415万人で同59.1%、高齢者と定義される65歳以上の人口が3,635万人で同29.0%となっています。

過去20年と今後の日本の人口推移

次に過去20年の日本の人口の推移をみていきます。

2000年から2010年まで、日本の全体人口は増加していますが、年少人口である15歳未満の人口割合と、生産年齢人口である15歳から64歳までの人口割合は、減少傾向にあります。反対に、高齢者である老齢人口の人口割合は増加を続けています。

そして、2010年から2015年は、全体人口が減少しているにもかかわらず、年少人口と生産年齢人口は減少が続き、老齢人口の割合は増加しています。この傾向は、2021年以降も続くことが予測されています。

このように、日本の少子高齢化社会が進むのは明白となっています。

日本の生涯未婚率の上昇

都心のワンルームマンションを借りる賃借人は、主に単身者です。ワンルームマンションを借りる単身者は、就職や結婚、自宅購入などを理由として引っ越しをすることがあり、ファミリー層と比べると居住期間は短くなります。

しかしながら、現在、単身者が引っ越す理由の一つである“結婚”にも変化が出てきています。日本の生涯未婚率が、増加傾向にあるためです。

内閣府の調査によりますと、50歳時点で、結婚経験がない人の割合は、40年前の1970年においては、男性が1.7%、女性が3.3%と、大抵が結婚経験を有していました。

この50歳時点での生涯未婚率は、調査を開始した1970年からしばらくの間、微増もしくは横ばい傾向でしたが、1990年代後半から大きく上昇し始めています。今後も、日本の未婚化は続くことが予測されていることから、単身者は増加を続けるでしょう。

日本の持ち家と借家の総数と割合

総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によりますと、今後の日本の傾向が見て取れます。まず、過去30年間、日本の居住世帯の持ち家と借家の総数は、それぞれ増加していますが、割合はほぼ横ばい傾向にあります。

続いて、65歳以上の高齢者の単身世帯の推移については、単身高齢世帯の持ち家と借家の割合は、ほぼ横ばい傾向ですが、世帯数は増加しています。少子高齢化が進む現在、高齢者の割合増加、そして生涯未婚率の上昇に伴い、今後、単身高齢世帯の借家世帯数はますます増え続けていくでしょう。

高齢単身者の賃貸住宅の平均居住期間

さて先ほど、単身者は、ファミリー層と比較して居住期間が短いとお伝えしましたが、高齢の単身者もこれに該当するのでしょうか。

日本賃貸住宅管理協会の調査によりますと、賃貸住宅に住む一般の単身者(学生を除く)の平均居住期間は、4年未満が7割と、やはり単身者は短期間で引っ越すことが分かります。しかし、高齢者を見てみますと、その6割以上が、平均居住期間6年以上となっています。高齢者になると、いわゆる終の棲家として、長期にわたり居住する傾向が見られます。

ワンルームマンションで起きる賃借人の孤独死

ここまで見ますと、今後も日本の少子高齢化と未婚化が進むことによる単身の高齢者世帯の増加、そして賃貸住宅の高齢者世帯の平均居住期間の長さから、投資用ワンルームマンションの投資家としては、継続した需要が見込め、かつ保有している物件が空室になることがないため、現在の日本社会は良い傾向に思えます。

では、何が問題なのかといいますと、投資用ワンルームマンション内で発生する賃借人の孤独死です。

賃借人の孤独死が発生した場合、部屋の状況にもよりますが、一般的に遺体が腐敗する日数は2週間程度、夏場ですと僅か数日で腐敗が進むこともあります。そして遺体が腐敗しますと、部屋中に特有の匂いが染みつき、また遺体の体液が床に浸み込むため、特別な工事が必要となります。

通常、ワンルームマンションの所有者は、賃借人が部屋を明け渡した後、新しい賃借人に対し賃貸するため、部屋の原状回復工事を行います。

例えば、20平方メートルのワンルームマンションの場合、賃借人が比較的清潔に部屋を使用し、かつ修繕の必要が見られない場合、原状回復工事の費用は概ね10万円程度で収まることもあります。しかし、賃借人が、部屋で孤独死してしまい、遺体が腐敗した場合、その原状回復工事の費用は100万円を超えることも珍しくありません。

また、その工事期間中は、賃借人へ貸し出すことができず、新たに募集をしたとしても、「室内で病死」の告知義務が発生する可能性があるため、空室期間が長期化する傾向にあります。その間、家賃収入はもちろん得られません。そうすると、その合計の損害額は、冒頭で挙げました投資家の年間利益の10年分を優に超えてしまうのです。

ワンルームマンションで発生する孤独死の対応と対策

誰にとっても、死はいつか迎えるものであり、避けることはできません。

では、今後起こりえる賃借人の孤独死が発生したとき、どのように対応すれば良いのでしょうか。また事前に対策できることはあるのでしょうか。そのための対応と対策は、以下3点となります。

①定期的な見守り対策

不動産業界において、賃借人の孤独死対策は注視されています。その孤独死対策の一つとして、賃借人の見守り器具があります。室内において、一定時間、賃借人の動作確認が取れないと、コールセンター、もしくは、器具の管理者(不動産の所有者など)へ通報がいく機能が付帯されたものです。

通常、この見守り器具を、賃借人自らが進んで取付け、その費用を負担することはありませんため、不動産の所有者にて、見守り器具を取り付けることになりますが、その器具の取り付け費用と毎月の固定費は、所有者にて負担となります。

もし、毎月の家賃収入と照らし合わせて、この取付け費用と固定費が妥当であれば、見守り器具設置を検討しても良いかもしれませんが、できるだけ毎月の維持管理費用を抑えたい場合、見守り器具設置は不適当かもしれません。

また、この見守り器具を好ましく思わず、監視、見張られていると感じる賃借人は少なくなく、器具の設置を拒むケースもあります。賃借人自身、高齢者であるという認識と、いつかは孤独死してしまうかもしれないという思いはありますが、そういった自身の将来を受け入れることが難しいのが現実です。

そのため、賃借人とは、ただ単に家賃を生みだす「モノ」ではなく、一人の人間であることを念頭に置いた対策が求められます。

その対策が、管轄の地域包括支援センターや居住支援法人と連携の上で行う、賃借人の定期的な見守り体制の構築です。この場合、所有者の毎月の維持管理費用の負担は発生しません。また、「モノ」ではなく「ヒト」による見守り支援のため、賃借人の忌避感はそれほどありません。

見守り体制を構築していれば、例え孤独死が発生したとしても、早期発見の可能性が高く、原状回復工事の費用軽減と“事故物件”化の防止につながるでしょう。そして、専門家による定期的な見守りにより、賃借人が一人で生活できない状況に陥ったと判断された場合、施設への入所手続きへ移行となるため、この点からも孤独死対策として非常に有効です。

②発生後の速やかで適切な対応

賃借人の見守り体制を構築していたとしても、孤独死を防止することは非常に困難です。そのため、孤独死の発生後に求められるのは、速やかで、適切な対応です。

初めに、賃借人の遺族と、室内に残された遺品についての話し合いを行う必要がありますが、ワンルームマンションで孤独死した賃借人の場合、その遺族の所在が分からないことがあります。無縁社会といわれる現代、単身世帯の高齢者にとって、連絡を取り合う関係の親族が誰一人いないということは珍しくありません。

その場合、遺族を探し出すため、戸籍を取得し、賃借人の法定相続人を調査し、コンタクトを取る、という流れになります。

そして、遺族との話し合いとなりますが、室内を確認したものの、換価価値のある遺品が出てくるケースはほぼ無いと言っても過言ではありません。このようなケースの場合、大抵の賃借人が年金や生活保護により生計を立てており、経済的に余裕のある賃借人は稀なためです。

そうすると、遺族としては、相続放棄という手段を取ります。遺族にとって、今後発生する原状回復工事の費用と、換価価値のない遺品を天秤にかけた場合、相続放棄を選択することは当然です。こうしてようやく原状回復工事へ着手できるのですが、ここまで数ヵ月間、要することもあります。

新たな賃借人へ賃貸し、家賃収入を得ることが目的の投資家にとっては、賃借人の孤独死発生から原状回復工事までの期間を、できる限りスピーディーに、かつ遺族との交渉もスムーズに進めなければなりません。もし遺族との交渉が難航した場合、その間は投資家の不利益となるからです。

③孤独死保険の加入

最後が、保険の加入です。

孤独死により発生する費用は、前述のように100万円を超えることもあります。そのため、もし孤独死が発生した場合、その損害額を補償する保険プランを、複数の保険会社が作っています。各保険の補償内容や免責事項を確認の上、毎月の家賃収入と照らし合わせ、保険加入を検討することも対策の一つとして有効です。

少子高齢化社会の日本。投資家が取るべき対策

以上3点挙げた賃借人への孤独死の対応と対策のうち、保険加入は不動産投資家にとって、比較的容易なものかと思われます。しかしながら、他の2つは、その分野の専門家として経験がある、もしくは携わっていない限り、かなり難易度が高いでしょう。

賃借人と信頼関係を築いた上で、地域包括支援センターや居住支援法人へのつなぎ作業、孤独死発生後の遺族との交渉作業、これらを理解していたとしても、滞りなく処理することは予想以上に困難です。

今後、ワンルームマンションの不動産投資を検討している投資家にとって、また現在ワンルームマンションを保有している投資家にとって、優良な物件を紹介するだけではなく、物件購入後もパートナーたりえる不動産会社を見極めることが求められます。