片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

物件売買や金銭の貸し借り、商品引渡し、報酬・手数料の支払い、また債務者のミスによる損害賠償など、様々な債権債務が存在します。

互いの利益のため、経済取引における債権債務のやり取りは円滑に進みますが、債務者が債務を履行しないこともあります。経済的に苦しくなった債務者が、裁判所へ申請し、法的手続きによる倒産、破産をした場合は、債務がほぼ免責となるため、法律上、債権の回収はできません。

ただし、債務者が何かしらの理由で支払いを拒んでいる、請求を無視する、連絡が取れないといった場合は、債権の回収を図る必要がありますが、法的手続きで債権が確定し、請求を続けても、頑なに支払わない債務者も存在します。

その場合、債務者は何らの刑事罰を受けることもなく、債権者は泣き寝入りするしかないという状況が長らく続いていました。しかしながら、2020年の法改正により、この債務者の逃げ得ともいえる状況が大きく変わりました。

本記事では、これまで損失を回収できず諦めていた多くの資産家や経営者にとって、朗報とも言える民事執行法の内容と利用方法を解説します。

通常訴訟を提起、債権を確定させる

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(画像=beeboys/stock.adobe.com)

債務者との話し合いにおいて、債務者が支払う姿勢を一切見せない場合は、債務者が所有している財産を差押え、回収する方法が適切でしょう。財産の差押えは、まず裁判所への訴え提起や申立てを行い、裁判所から債権を認めてもらう必要があります(民事執行法第22条)。

なお、一般的には少ないかもしれませんが、債務者との間で、事前に債権債務の支払いに係る公正証書を締結していれば、裁判所への訴えは不要です。

債権請求の法的手続きの種類

裁判所への訴え提起や申立ては、通常訴訟、民事調停、支払督促、即決和解、少額訴訟など複数の法的手続きがあります。

その債権の内容と債務者との関係によって、適切な法的手続きは異なりますが、通常訴訟が比較的有効といえます。民事調停や即決和解は、債務者との間で話し合いが見込めるときに有効であり、もし話し合いが成立しない場合は、裁判所から債権を認めてもらうことができず、財産の差押えもできません。

また、支払督促と少額訴訟は、裁判所にて受理後、債務者から何かしらの異議の申立てが出てから通常訴訟へ移行するため、初めから通常訴訟を提起したほうが時間のロスが少ないと言えます。

通常訴訟の流れとは

通常訴訟で、裁判所から債権を認めてもらうためには、大きく分けて二通りあります。

まず一つめが、自身に、債務者との間で債権債務があり、債務者が支払わない旨を裁判所へ訴え、それを裁判所が認容する判決の言い渡しを待ちます。一般的に勝訴判決とされるものです。

二つめが、通常訴訟の進行中、債務者との間で話し合いがまとまり、支払いに関する和解が成立した場合です。これは裁判上の和解とされています(民事訴訟法第267条)。

この二つを、債務名義と言います。債務名義を取得して初めて、債務者の財産差押えが可能となります。

財産を差押える。預金、給料、不動産

財産の差押えも裁判所へ申立てることとなり、この申立時に債務者の財産を特定しなければなりません。預金の差押えであれば該当の銀行名と支店名が、給料の差押えであれば該当の雇用主が、それぞれ申立て時に必要となります(民事執行法規則第133条1乃至2項)。

銀行口座の預金差押え

債務者とのこれまでの取引上の経緯から、債務者が都市銀行に口座を所有している可能性があれば、弁護士を通じて都市銀行へ照会し、銀行口座の所有有無と残高を確認できます(弁護士法23条の2)。

ただ、債務者が財産を隠匿している場合、該当の都市銀行に銀行口座を所有していたとしても、その口座に債権額に見合う残高がある可能性は少ないでしょう。債権者から、差押えされる可能性があるにも関わらず、発見されやすい銀行口座へ、多額の金銭を預金しないためです。

勤務先からの給料差押え

給料の差押えはどうでしょうか。

もし債務者が勤めている法人が判明しているのであれば、給与債権差押えによる回収が見込めます。債務者が退職しない限り、毎月、債務者の給料の手取り額の4分の1が、雇用主から支払われます(民事執行法第151条、同152条1項)。

ただし債務者の職業が、零細企業の代表者や個人事業主である場合は、給料差押えによる回収は困難となります。

通常、給与債権差押えを申立て後、第三債務者とされる債務者の雇用主が、給料差押え分の金額を債権者に対し支払わなければ、債務者の雇用主を被告として、取立金請求の通常訴訟を裁判所へ提起します。勝訴判決を得た後は、その雇用主に対し債権を請求し、回収ができます。

しかし、債務者の職業が、零細企業の代表者なら、取立金請求の通常訴訟で勝訴判決を得ることは困難です。債務者と、その零細企業の代表者が同一なため、債務者と零細企業の主張がほぼ同じとなる傾向があるためです。

通常訴訟の進行中、零細企業から「給料を支払っていない」と答弁されてしまうと、「給料を支払っている」との立証責任がこちらにあるものの、それを立証する方法はほぼありません。

そして、債務者が個人事業主である場合は、債務者と第三債務者が同一であることから、債権債務が存在しないため、そもそも給与債権差押えの申立てができません。

不動産の差押え

不動産の差押えによる回収も一般的です。

裁判所へ、債務者が所有する不動産の強制競売を申立て、競売により売却された後、債権額に沿って配当を受けます(民事執行法第43条以下)。競売時の売却価格は、市場価格よりも安くなることが通例です。

なお、債務者の住居地の建物や土地が債務者の所有名義なら、強制競売の申立てが可能ですが、名義が債務者ではない場合は申立てできません。債務名義に記載されている人物と、不動産の登記簿上の所有者が同一でなければならないからです。

また、裁判沙汰になるほどの債務者の場合、滞納税金や借入金、未払手数料など、他に債務があることもあります。そのような場合、強制競売後の配当が他の債権者との按分の結果、債権額に満たないという可能性もあるため、留意しておく必要があります。

財産開示手続きの申立てで保有財産を判明させる

債務者が、財産を隠匿している場合や所有財産が不明な場合は、差押えによる回収はできず、また差押えできたとしても債権額全額を回収できないこともあります。

こうなると、債権者に打つ手は何もないのでしょうか。

そのときは、法的手続きの一つである財産開示手続きを用い、債務者の財産を確認してみましょう(民事執行法第196条以下)。

まず、債務者を相手方として、裁判所へ財産開示手続きを申立てます。裁判所に申立が受理されると、裁判所から債務者へ呼出しがかかり、債務者が裁判所へ出頭してきた当日、その場で債務者が所有している財産の有無や内容を聴取できるという制度です。この聴取の結果、債務者に差押え可能な財産があれば、回収の目途が立ちます。

債務者の財産開示件数は低下

一見、便利にみえる財産開示手続きですが、その申立件数は、2010年の1207件をピークとして年々減少し、2019年にはピーク時の半数以下となる577件まで減っています。なぜ、申立件数が減少しているのでしょうか。その理由は、まず債務者の開示件数の低さにあります。

2004年は、申立件数718件に対し、債務者が財産を開示した件数は253件と51%の割合でした。しかし、この2004年以降、開示件数の割合が、50%を上回ることはなく、2009年以降は、30%台を推移しています。

財産開示手続きを申立てしたとしても、債務者が財産を開示するケースが少ないことが、申立件数減少の理由の一つに挙げられます。

債務者に科されるのは行政罰のみ

二つめの理由が、債務者に対する罰の軽さです。

債務者が、財産開示手続きの出頭期日に、正当な理由がなく出頭しない、もしくは虚偽の陳述や陳述拒否をしたとしても、債務者へ科されるのは過料30万円の行政罰のみで(改正前民事執行法206条1項)、この行政罰も必ず科されるとは限りませんでした。

そうすると、裁判所の判決内容に従わず、かつ財産を隠匿し続ける債務者としては、裁判所からの呼出しがあったとしても、真面目に対応することは少ないでしょう。

以上、二つの理由を主として、財産開示手続きを申立てたとしても得られる効果が薄いことから、債権回収に有効と思われる財産開示手続きは利用されることが減っていきました。

改正民事執行法が施行。債務者へ刑事罰が科されることも

2020年4月1日、このような状況を是正するため改正民事執行法が施行されました。

この改正では、先に記したような「正当な理由なく、出頭せず、若しくは陳述を拒み、又は虚偽の陳述をした」債務者は、陳述等拒絶の罪とされ、懲役6ヶ月以下または罰金50万円以下の刑事罰が科されることになっています。(改正民事執行法第213条1項1)。

もし刑事罰が科されると前科がつくため、その後の人生に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

また懲役刑が科されると、停止や剝奪の対象となる資格は多くあります。例えば、不動産業を営んでいる宅地建物取引業者は懲役刑が科されると免許の欠格事由に該当するため、5年もの間、宅建業を営業することができません(宅地建物取引業法第5条1項3)。

財産開示手続きに応じない債務者に対する厳罰化により、刑事罰を恐れる債務者との間で支払いに関する交渉が進み、債権の回収の可能性が高まります。

民事執行法が改正されたことは、これまで回収を諦めていた債権者にとっては、大きな一歩と言えるでしょう。

消滅時効の期間は、裁判所で債権が確定してから10年となります(民法第147条1項)。もし、勝訴判決を得たにも関わらず、未回収で泣き寝入りしている債権があるのであれば、財産開示手続きを申立ててみましょう。

それでも債務者が無視を決め込めば、民事執行法第213条1項の陳述等拒絶の罪として、刑事告訴を検討してみても良いのではないでしょうか。そこから、回収の道筋が見えるかもしれません。