新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

暦年課税による贈与税の基礎控除額が110万円であることは皆さんもよくご存知なのではないでしょうか。日本では、年間110万円以下の贈与については課税されず、確定申告も不要となっています。

また、この制度は複雑な手続きを必要としないことから、相続税対策として活用されるケースも見受けられます。今回は、暦年課税による贈与税の活用方法や、活用する上での注意点について解説します。

暦年課税の贈与税の仕組み 

暦年贈与の制度を利用して贈与を行う際に注意したいポイント
(画像=sewcream/stock.adobe.com)

贈与税は、原則として、個人から財産の贈与(死因贈与を除く)を受けた場合に、贈与を受けた人(受贈者)に対して課税されるものです。

また、債務の免除や定額譲受など贈与を受けたとみなされる場合においても贈与税が課税されることとなっています。そして、贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。

相続時精算課税

相続時精算課税とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合においてに選択できる課税方法で、選択しない限り暦年課税によって課税されることとなります。

暦年課税と相続時精算課税の比較

親が長男(20歳以上)に毎年110万円の生前贈与を行い、10年目の贈与後に親が死亡した場合と、一括1,100万円を生前贈与した場合とを比較します。その際、各種非課税特例は適用しないものとした場合、暦年課税と相続時精算課税ではどのような違いがあるのでしょうか。

毎年110万円を贈与(10年間)初年度に一括1,100万円を贈与
暦年課税暦年課税相続時精算課税
贈与時基礎控除額以下のため税負担なし贈与税額:207万円
(特例税率適用)※
特別控除額以下のため税負担なし
相続時(10年目)相続税の課税価格に加算される価額330万円
(相続開始前3年以内贈与分)
なし1,100万円
生前贈与による課税財産の減少効果770万円1,100万円なし

※((1,100万円-110万円)×30%)-90万円

同じように1,100万円を一括贈与したとしても、暦年課税では、初年度の税負担が発生します。暦年課税と相続時精算課税の選択については、いつ資産を移転するかを考えなければならず、その後の変更ができないことから、相続人の数や贈与額によっては難しい選択を迫られるケースもあり得ます。

ただし、上のケースのように、相続時精算課税を利用することで、税負担をなくすことができる点はメリットといえるでしょう。

相続税対策としての生前贈与の意義 

相続税対策として、被相続人の死亡時の財産を減少させる目的で贈与を行うことがあります。暦年課税の贈与税の税率は、その年に贈与を受けた財産の価額の合計額(基礎控除後)に応じて超過累進税率が適用されます。したがって、同じ年に多額の贈与を受けるほど高い税率が適用され、受贈者の税負担が重くなります。

このような場合に高税率が適用されることを回避する目的で、1年間あたりの贈与の価額を少なくし、長年に渡り贈与を行うことがあります。また、同じ年に特定の人への贈与が集中し、高い税率が適用されることを防ぐ目的で、複数の推定相続人などに分散して贈与を行うこともあります。

分散贈与の効果

では、子どものみに贈与する場合と、子どもと孫に分散して贈与する場合を比較してみましょう。
比較にあたり、毎年1,000万円を各受贈者に均等に分散して生前贈与を行い、3年目の贈与後に贈与者が死亡したと仮定します。

また、子どもは2名、孫は3名、いずれも20歳以上であるとし、相続時において、子どもは相続により財産を取得しますが、孫については遺贈により財産を取得しないものとします。

生前贈与合計額3,000万円(1,000万円×3年間)
子ども(2名)へ毎年500万円ずつ贈与子どもと孫(5名)へ毎年200万円ずつ贈与
贈与時(1~3年目)贈与税合計:194万円(※1)贈与税合計:90万円(※2)
相続時
(3年目)
相続税の課税価格に加算される価額3,000万円1,200万円(※3)
生前贈与による課税財産の減少効果なし1,800万円

(※1)((500万円-110万円)×15%)-10万円=48万5,000円×2名×2年分(3年目は相続税の課税価格に加算されることから、贈与税の申告は不要となる)
(※2)(200万円-110万円)×10%=9万円×5名×2年分(3年目は相続税の課税価格に加算されることから、贈与税の申告は不要となる)
(※3)200万円×子ども2名×3年(孫は遺贈によって財産を取得しないため、相続開始前3年以内の贈与財産であっても相続財産には加算されない)

このように、分散して贈与することで、相続時の課税価格を1,800万円減少することができます。

暦年課税を利用するにあたって注意すべきポイント 

暦年課税の制度を利用して贈与を行う際には以下の5つの点に注意するようにしましょう。

相続税における生前贈与財産の取り扱い

相続等により財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前から3年以内に贈与を受けている場合、原則として贈与を受けた財産の贈与時の価額が相続税の課税価格に加算されることになります。ただし、贈与税の配偶者控除相当額や、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税額など、一定のものについては加算されません。

そして、この場合においては、贈与を受けた財産の価額が贈与税の申告が不要となる基礎控除額(110万円)以下であっても加算される点に注意が必要です。ただし、贈与を受けていた人が、贈与者である被相続人から相続などにより財産を取得していない場合には加算されません。

例えば、贈与を受けていた孫が、その贈与者が死亡した際に相続や遺贈により財産を取得しない場合については、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産であっても、相続税の課税価格に加算されないことから、相続税に影響することはありません。

一方、相続時精算課税を選択している場合は、その相続時精算課税に係わる贈与者である被相続人から相続などにより財産を取得していない場合であっても、相続時精算課税選択後にその被相続人から贈与を受けた贈与財産の価額については、全て相続税の課税価格に算入されることに注意が必要です。

相続税における生前贈与財産の贈与税はどうなる?

相続開始前3年以内に贈与を受けた財産が相続税の課税価格に加算される場合、その贈与財産に課せられた贈与税は、相続税の計算上、税額控除(贈与税額控除)の対象となりますが、控除される贈与税額はその人の相続税額が限度となることから、課せられた贈与税額がその人の相続税額を上回る場合であっても、贈与税額の還付を受けることはできません。

一方、相続時精算課税を選択している人において、相続時精算課税が適用される財産に対して課せられた贈与税については、相続税の計算上、その人の相続税額から控除され、該当する贈与税額がその人の相続税額を上回る場合は、相続税の申告書を提出することにより、贈与税額の還付を受けることができます。

毎年贈与を行う場合

毎年贈与を行う場合は注意が必要です。例えば、毎年110万円ずつ10年間に渡って贈与を行う贈与契約は、定期金給付契約とみなされるため、定期金に関する権利の贈与を得たとして初年度に贈与税が課税されることとなります。したがって、毎年110万円ずつの贈与を受けるための申告が不要という扱いにはならない点に注意してください。

名義預金について

相続税の税務調査において、子どもや孫名義の預金について、実質的には被相続人の財産であるとして相続財産の申告漏れ(いわゆる名義預金)を指摘されるケースがあります。被相続人は贈与のつもりであっても、受贈者である子どもや孫が贈与の事実を認識していないなど贈与契約が成立していない場合は、贈与とはみなされないことに注意が必要です。

例えば、親が子ども(幼児)へ現金の贈与を行う場合、贈与契約は贈与者と受贈者の意思の合意によって成立します。しかし、幼児は意思能力がないため、贈与を受諾する意思表示を行うことができず、贈与契約を単独で行うことはできません。

一方、未成年者が法律行為を行う場合においては、法定代理人の同意を得なければならないとされていますが、単に利益を得るもしくは義務を免れる法律行為については単独で行うことが可能です。

したがって、上述のケースでは、幼児の親が受贈者である幼児に代わって贈与を受諾する意思表示を行うことにより、贈与契約は成立することになります。この場合、幼児が贈与の事実を認識しているかどうかは関係ないとされています。

このように相続税対策として未成年者に贈与を行う場合は、贈与契約の有効性に注意する必要があります。

遺留分への配慮

2018年の民法改正により、相続人に対する贈与(特別受益となるもの)は、遺留分算定の基礎財産に含める範囲が、原則として相続開始前の10年以内のものとなりました。相続開始前3年以内の贈与財産の加算既定の適用などといった税務上のことだけではなく、その贈与が遺留分に与える影響についても考慮する必要があります。

今後の制度改正に注意しておこう 

2021年度の税制改正では、相続税および贈与税についての具体的な改正事項はありませんでした。

しかし2020年12月10に公表された「令和3年度税制改正大綱」では、今後の税制改正にあたっての基本的考え方として、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止などに留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」とされていることに注目しておく必要があります。

そのためにも、上述した毎年贈与を行う場合(暦年課税)と一括で贈与する場合(相続時精算課税)でどのような違いがあるのかについても、しっかりと理解しておきましょう。