新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

増加傾向にある「ラップ口座」の残高が、過去最高水準となっています。ラップ口座とは、金融機関が投資家と投資一任契約を結び、投資家に代わってまとまった資金を投資信託や株式などで運用する投資一任サービスのことです。本記事では、ラップ口座の基礎的な知識やその活用法について解説します。

ラップ口座とは? 

ファンドラップの基礎知識とその活用法
(画像=Arthon/stock.adobe.com)

ラップ口座の「ラップ」は英語の「包む(wrap)」が語源となっています。ラップ口座は投資家が金融機関にまとまった資金を預け、投資一任契約に基づいて資産管理及び運用に関する包括的なサービスを受けることができる専用口座のことをいいます。

そして「包括的なサービス」には、ポートフォリオの資産配分の構築および調整のアドバイスのほか、株式や投資信託などの売買の判断および注文の執行などが含まれます。手数料の体系については、一般的に運用資産残高に対して一定の報酬料率がかかる「固定報酬型」と、運用成績に応じて手数料が変動する「成功報酬型」に分けられます。

ラップ口座の残高は過去最高水準に

一般社団法人日本投資顧問業協会が2021年9月に公表した「統計資料」によると、ラップ口座の残高は2021年6月末時点で11 兆 9,28 億円と過去最高水準に達し、2021 年 3 月末と比べ7,202 億円の増加となっています。また、契約件数も122万3,288口座と過去最高を更新しています。

ラップ口座の残高推移

ラップ口座の残高の推移を見てみると、2014年から2015年にかけて急増しています。この主な要因は、当時の阿部内閣の経済政策によりデフレ脱却期待が高まり、インフレに備えた資産運用の需要が高まったことなどが挙げられます。

2016年に入ってからは、ラップ口座への資金流入のペースは落ち着きを取り戻し、2017年以降は2019年までは安定して増加していました。その原因としては、金融庁が金融機関に対し、「受託者責任(フィデュ―シャリー・デューティ)」に基づく顧客本位の業務印影を求めたことや、それに伴い金融機関が金融商品の売買によって販売手数料を稼ぐ「コミッション型」というそれまでのビジネスモデルからの脱却を図り、長期運用と分散投資を主体とする資産管理型営業にシフトしたことなどが挙げられます。

しかし、2020年に入ってからの新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年の残高については8年ぶりの減少となっています。これについては、施株式相場の急落による時価の下落や、解約の増加などが影響していると考えられます。

しかし、主要国政府および中央銀行の大規模な財政および金融政策の発動に伴う株式相場の回復(特に海外)を受け、2021年は再び増加に転じています。

アメリカにおけるラップ口座の実態 

アメリカでは、株式および投資信託が家計の金融資産の約51%を占め、日本の構成比(約14%)を大きく上回っています。

これは、アメリカにおける金融制度や社会保障制度の整備が早かったことに加え、アメリカのベビーブーム(1946~1064)時期に生まれた世代が1970年~1980年代の株式市場が低迷した時期に、老後における生活資金の充実を図るという長期的な視野で金融資産を構築したことが大きく影響しているとみられています。

アメリカの株式相場は1970年代に、インフレの進行と景気後退によって、長期の低迷状態に陥りました。この時期に、確定拠出年金(401k)や個人年金積立制度である個人退職勘定(IRA)などが整備され、大手企業が相次いでこれを採用したことで、ベビーブームに生まれた世代による投資信託を通じた積立投資が拡大し、その後の株式相場の長期的な上昇を支えることとなりました。

ファンドラップを用いた運用 

日本国内のラップ口座には、主として富裕層向けに投資信託以外にも債券や株式などを運用の対象とするSMAや、比較的少ない資金で始めることができるファンドラップ、さらには相続人に資産を引き継げるラップ信託などがあります。

SMA

SMAは富裕層向けであることからも、最低運用資金が数千万円から数億円に設定されているケースが多く見られます。ファンドラップと異なり、運用する商品を金融機関が全て選んでくれるという特徴があります。

SMAのメリットは投資初心者でもポートフォリオを実践でき、ファンドラップよりもきめ細かい提案を受けることができる点にありますが、手数料が高く、取り扱っている金融機関が少ない点に注意が必要です。

ファンドラップ

一方でファンドラップの場合は数百万円から利用できることが特徴で、金融機関によっては10万円単位から利用できるケースもあります。運用を全て任せることができるほか、自分が想定するリスク許容度に応じて運用してもらえることから、自分が持つイメージに近い運用を行うことが可能です。

ただし、ファンドラップを利用する際には、投資一任契約を結ぶ際の手数料のほか、投資対象である投資信託の信託報酬などの手数料がかかることを覚えておきましょう。

ラップ信託

ラップ信託の特徴は、「資産に宛名をつける」ことや「運用報告が本人そして引継者の双方に送られる」ことから、相続における手続きを簡単に済ませる目的で利用されることが多いといえます。財産を引き継ぐ人の範囲は6親等内の血族もしくは3親等内の姻族と幅広く、相続後も運用を継続できることからも、保険商品などで残すよりも使いやすいといえるでしょう。

これらのラップ口座は、個人投資家が自らのリスク許容度に合ったポートフォリオを構築し、分散投資を実施することができるほか、長期の資産形成に適したサービスといえるのではないでしょうか。

コア・サテライト戦略

ファンドラップを利用してポートフォリオを構築する際の考え方として、「コア・サテライト戦略」が浸透しつつあります。コア・サテライト戦略とは、安定的に運用するコア(中核)の部分と、より積極的に運用するサテライト(衛星)の部分に分ける運用の考え方です。

中心的な資産であるコアの部分ではファンドラップを利用し、サテライトにあたる部分においてはリスクおよびリターンが相対的に高い株式や債券、不動産投資信託、高金利の外貨などが投資対象となります。

この戦略は「安定的な利回りを確保しつつ、リターンの上積みをも狙う」運用手法として、今後もさらに浸透すると考えられます。

ファンドラップ利用の際の注意点 

ファンドラップの課題として、利用コストの高さが指摘されています。これは、顧客ごとの口座管理や情報開示などといった事務的負担およびシステム負担が大きいことが理由となっています。

主な費用としては、取り扱う金融機関に支払う口座管理手数料(ポートフォリオの構築やリバランス、運用のアドバイス等にかかる費用)と、運用会社に支払う信託報酬手数料があります。

最近では手数料が低い商品も出てきているものの、年間の費用が最大3%近くになるケースもあることから、ファンドラップを利用する際には、このようなコストが期待するリターンに見合うかどうかを慎重に検討する必要があります。

ファンドラップの今後 

上で述べたとおり、アメリカでは1970年代以降の金融制度や社会保障制度の整備を受けた個人投資家の投資信託の積立投資などの拡大が、その後の株式相場の長期的な上昇に繋がっています。

一方、日本では、2020年代に入り金融庁が「貯蓄から投資へ」、さらには「貯蓄から資産形成へ」をスローガンに掲げ、少額投資非課税制度であるNISAの創設や、企業統治(コーポレートガバナンス)の強化、企業の株主還元や資本効率経営の強化などが図られており、個人投資家が投資信託などによる長期的な資産形成を図る土壌がようやく整備されつつある状況です。

20代そして30代の投資信託保有率が増加傾向にあることも、その土壌が整備されたからこその結果であるといえるでしょう。また、資産形成の必要性を感じている世代は40代が一番多く、ESG投資に関する関心が増えてきていることからも、今後の投資人口は増えていくものと予想されます。

その際には、どのような投資方法があるのか、その内容をしっかりと理解したうえで、自分に合った投資方法を選ぶことが大切だといえるでしょう。