片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

日本の民間の医療保険の世帯加入率は約8割

民間の医療保険は加入不要?!公的保障と日本社会
(画像=Mizkit/stock.adobe.com)

2021年9月に発表された生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」によると、日本の民間の生命保険の世帯加入率は80.3%となっています。

そのうち、93.6%の世帯が、医療保険・医療特約の保障が付いた保険に加入しています(かんぽ生命を除く)。加入の目的は、「医療費・治療費のため」が59%と最多で、年間に支払った保険料は35.9万円、月平均の支払額は2.9万円となっています。

こういった民間の医療保険加入の現状に対して、“日本の公的保障は充実しており、民間の医療保険への加入は家計を圧迫するだけで、加入は不要”とする意見もあります。
民間の医療保険への加入不要論の主な内容は以下のようなものです。

  1. 入院が必要な病気に罹患したとしても、その治療費用は高額療養費制度を利用することで大きく抑えられる。
  2. 保険会社へ支払う保険料相当額を貯蓄していれば、その貯蓄分で治療費用は事足りる。

  3. 病気を原因として仕事を休んだ期間、もし給与が支払われなかったとしても傷病手当金を利用すれば補填される。

  4. 失業することになったとしても、傷病手当金と雇用保険の基本手当を利用すれば収入ゼロという状態を防ぐことができる。

日本の公的保障はどこまで保障されているのでしょうか、そして民間の医療保険への加入は不要なのでしょうか。本記事ではこの議論の正否について解説していきます。

がんの治療費用は予想以上に高額

日本人の死因で最も多いのはがんです。その中でもがんの部位別罹患数1位である大腸がんに罹患した場合の治療費用を例として見ていきます(以下の治療費用は平均額)。

例A 大腸がん
内視鏡手術を受ける。外来2日、入院6日。健康保険適用により自己負担割合3割。

①:外来費 健康保険対象医療費8.9万円のうち、自己負担割合3割=2.7万円
②:入院費 健康保険対象医療費37.0万円のうち、自己負担割合3割=11.1万円
③:①+②=13.8万円
④:①と②の他、健康保険対象外の費用=2.6万円
⑤:総額16.4万円(③+④)

例B 大腸がん
腹腔鏡手術を受ける。外来6日、入院19日。健康保険適用により自己負担割合3割。

①:外来費 健康保険対象医療費16.8万円のうち、自己負担割合3割=5.1万円
②:入院費 健康保険対象医療費168.3万円のうち、自己負担割合3割=50.5万円
③:①+②=55.6万円
④:①と②の他、健康保険対象外の費用=9.1万円
⑤:総額64.7万円(③+④)

例C 大腸がん
開腹手術を受ける。外来5日、入院22日。健康保険適用により自己負担割合3割。

①:外来費 健康保険対象医療費18.4万円のうち、自己負担割合3割=5.5万円
②:入院費 健康保険対象医療費162.3万円のうち、自己負担割合3割=48.7万円
③:①+②=54.2万円
④:①と②の他、健康保険対象外の費用=10.6万円
⑤:総額64.8万円(③+④)

例Bと例Cを見ますと、1ヵ月近くもの間、休職して治療に費やすだけではなく、その治療費用も高額となるのが分かります。このような例を目の当たりにしますと、民間の医療保険への加入も検討せざるを得ないでしょう。

高額療養費制度の利用で医療費が払い戻される

ここで、民間の医療保険への加入不要論で出てくるのが、公的保障のうちの一つである高額療養費制度の利用です。これは健康保険に加入していれば利用できるもので、対象者の年齢と月収により異なりますが、支払った医療費のうち一定の医療費が対象者へ払い戻されます。

例えば、先ほどの例Aでは、③の13.8万円のうち2.1万円が払い戻されるため、自己負担の総額は14.2万円となります。そして、例Bでは③の55.6万円うち38.3万円が、また例Cでは③の54.2万円のうち37万円が、それぞれ払い戻されます。

そのため、例Bの自己負担総額は、高額療養費制度を利用する前の64.7万円から26.4万円へ、例Cの自己負担総額は64.8万円から26.4万円へ圧縮されます。冒頭の年間払込保険料35.9万円と比較すると、払込保険料相当額を貯蓄に充てた方が良いとする意見に納得できるのではないでしょうか。

また治療期間中、仕事を休んだために、もし雇用主から給与が支払われなかった場合は、要件を満たせば公的保障の一つである傷病手当金の対象となります。傷病手当金は、給与額の約3分の2の額が支給されるため、休職中の補填にもなります。

公的保障の思わぬ落とし穴とは

ここまで見ると、“民間の医療保険への加入は不要である。公的な保障だけで十分である”とする主張の方が正しく思えます。しかしながら、この主張には見落とされている点が二つあります。

大きな病とは生涯付き合うこともある

まず一つめが、罹患した当初の通院費用と入院費用のみが切り取られていることです。

上記ABCの3つの例では、罹患当初の金額と、公的保障と払込保険料相当額の貯蓄を組み合わせた金額のみが比較されています。確かに、この金額だけを見ると、公的保障と貯蓄だけで十分であり、民間の医療保険への加入は不要に思えます。

しかし、国立研究開発法人国立がん研究センターによると、以前までは死につながっていたがんも、医療の進歩により生存率が改善しています。

そのため、罹患したがんが、入院して手術したことにより完治すれば良いのですが、治療が長期化することもあります。2016年、同センターは、「がんは不治の病ではなく、長く付き合う病気となった。全国で32万5,000人ががん治療をしながら働いている。」と発表しています。

もしがんが長期化した場合、どうなるのでしょうか。外来による治療を行わなければならないため、上記ABCの例に加えて、引き続き治療費が発生するのです。

また、この外来治療の間、仕事に影響を及ぼすことも考えられます。同センターは、「がんを理由に3割以上の人が依願退職または解雇で仕事を辞めている。また、90%の企業が病気になった社員の適正配置や雇用管理等について、対応に苦慮している。」とも述べています。

民間の医療保険への加入不要論では、“失業したときのための公的保障の一つに、雇用保険の基本手当があり安心”としています。基本手当は、要件を満たせばこれまで支払われていた給与の約50~80%が、失業期間中、毎月支払われます(支給は原則最長1年間)。そのため失業期間中であっても、最低限度の生活が営めるよう保障されているのです。

ただし、基本手当の受給によって収入が0円ではないにしても、月の収入が約20~50%も減るということであり、しかもその後これまでと同程度の水準の給与が支払われる会社へ就職できる保証はありません。さらに、養育中の家族がいる場合、収入減による家計への打撃は大きいでしょう。

そして、例え離職せずに仕事へ復帰したとしても、病の影響から、罹患前と比べて仕事のパフォーマンスが下がり、それに合わせて収入の減少もあるかもしれません。
公的保障では、ここまでカバーすることはできないのが現状なのです。

日本の人口動態から医療費の自己負担割合は増加する

そして二つめが、少子高齢化社会に伴う自己負担割合の増加です。
まず、日本の過去50年の国民所得額に対する社会保障の給付費総額の割合を見ると、社会保障の給付費の総額とその割合は増加を続けていることが分かります。

1970年 国民所得額:61.0兆円 給付費総額:3.5兆円 割合:5.8%
1980年 国民所得額:203.9兆円 給付費総額:24.9兆円 割合:12.2%
1990年 国民所得額:346.9兆円 給付費総額:47.4兆円 割合:13.7%
2000年 国民所得額:390.2兆円 給付費総額:78.4兆円 割合:20.1%
2010年 国民所得額:364.7兆円 給付費総額:105.4兆円 割合:28.9%
2020年 国民所得額:377.0兆円 給付費総額:126.8兆円 割合:33.6%

そして、2022年には、“団塊の世代”とよばれる1947年から1949年までの間に生まれた第一次ベビーブーム世代が後期高齢者である75歳となり、2025年には世代全員が後期高齢者となります。そのため、2025年には後期高齢者が、2018年と比較して約382万人も増加することが見込まれています。

後期高齢者が増加することの問題点の一つに、国の社会保障費の負担が増大することにあります。後期高齢者に対し国が保障する一人あたりの医療費は約32.8万円となり、これは前期高齢者(65~74歳)の約4倍となるのです。

また、同じく国が後期高齢者に対し保障する介護費は一人あたり12.8万円となり、こちらは前期高齢者の約10倍もの額となります。

2021年4月、財務省は、日本の社会保障の「国民負担率は低い」としており、「高齢化に伴う社会保障の給付の増加と国民の負担の関係について、引き続き、国民全体で議論していく必要があります。」と明言しています。

ここから読み取れるのは、医療費の自己負担割合の引き上げです。それを証するように、2021年6月4日、一定以上の収入がある後期高齢者の医療費窓口負担を、これまでの1割から2割へ引き上げる医療制度改革関連法が成立しました。

現在の日本は、平均寿命が延び続けているにも関わらず、少子化に歯止めがかかりません。今後も、日本の人口動態に合わせて、この医療費の自己負担割合引き上げの流れは続くことが予想されます。

そのため、現在は高額療養費制度を活用することにより、医療費の自己負担割合軽減の恩恵を受けられていますが、将来的に払込保険料相当額の貯蓄だけで賄うことは厳しくなるのではないでしょうか。

民間の医療保険へ“加入必須”“加入不要”の安易な議論に左右されない

以上のことから、日本の公的保障のみでは不安を覚えるかもしれません。では、民間の医療保険へ必ず加入した方が良いのでしょうか。

その回答としては、“万が一のため、民間の医療保険へ加入するべきである”、“いや民間の医療保険への加入は不要”、といった両極端な考えではなく、その時々の自身の状態と将来計画に沿って考えるべきでしょう。

まず、自身の年齢や家族構成、収入、貯蓄額によって大きく変わります。

世帯の中に、幼い子どもがいるのであれば、子どもが成人して独り立ちするまでの間は、高額な治療費が発生したときや、治療が長期化した場合に備えた民間の医療保険への加入を検討しても良いでしょう。そして、養育していた子どもが成長し世帯から離れた後は、加入している医療保険の内容を見直して良いかもしれません。

また、自身が、単身世帯で資産にも余裕があり、高齢者へ近づいているのであれば、公的保障と貯蓄のみで賄えるかもしれません。

現在の日本の公的保障は確かに充実しており、大きな病気や怪我をしたときのための拠り所となっています。ただし、個人によっては不十分となる可能性もあり、かつ今後の日本の人口動態から一層の自助努力を求められることが予想されます。

そのためにも、自身のライフプランに基づき、公的保障の各制度とその内容、また民間の各医療保険の内容をその度に比較検討していけば、より安心した生活を送ることができるのではないでしょうか。