新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

野村総合研究所の調査によると、2019年における日本の富裕層世帯数は約133万世帯と、前回の調査(2017年)から増加していることが分かります。この富裕層の世帯数は2008年のリーマンショック時に一時的に減少していますが、その後はずっと増加傾向にあります。

ちなみに富裕層とは世帯の純金融資産保有額が1億円以上の世帯をいい、さらに純金融資産保有額が5億円以上の世帯を超富裕層と位置付けています。

世界における富裕層の人口 

日本における富裕層の特徴とは?
(画像=takasu/stock.adobe.com)

ボストンコンサルティンググループ(BGC)が発表しているレポートによると、2018年の世界の富裕層人口については、アメリカが一番多く、約2,210万人となっており、2位が中国(約130万人)、日本は約110万人と3位に位置しています。

世界の富裕層の3分の2がアメリカに集中しているものの、富裕層の増加率は日本を含むアジアが高くなっており、今後も拡大していくと考えらえています。

日本の富裕層の推移 

では、2011年からの日本の富裕層の世帯数および純金融資産額はどのように推移してきたのでしょうか。

2011年2013年2015年2017年2019年
世帯数81万世帯100.7万世帯121.7万世帯126.7万世帯132.7万世帯
純金融資産額188兆円241兆円272兆円299兆円333兆円

(野村総合研究所のレポートを参考に筆者作成)

2011年から2019年までの7年間で、世帯数は1.6倍(約51万世帯増)となり、純金融資産額については1.7倍、145兆円の増加となっていることが分かります。

日本の富裕層が増加した背景

このように富裕層および超富裕層が増加した背景には、富裕層世帯および超富裕層世帯が保有する金融資産において、株式や投資信託の占める割合が高いことが1番に挙げられます。

具体的には2008年から2009年にかけてのリーマンショックによる株価下落、2011年3月の東日本大震災といった未曽有の災害や金融危機を乗り越え、当時の安倍政権が進める経済政策(アベノミクス)によって株価が上昇したことが主な要因であるといえます。

日本全体の金融資産構成を見ても、金融資産保有世帯および有価証券保有世帯両方において、「現金や預貯金から、長期投資やリスク性のある資産に振り向けた」とする世帯が増加傾向にあることも、富裕層増加の要因の1つとなっているといえるでしょう。

これは、逆に言えば富裕層の資産については、経済環境や株価の動向、地価動向などに左右されやすいという一面を持っているともいえます。したがって、今後の経済環境の変化によっては、富裕層増加のペースが鈍化する可能性もあるといえます。

富裕層のタイプは2つに分かれる 

純金融資産額が多い富裕層ですが、「年収が多く、キャッシュを持ち、投資に積極的なタイプ」と、「不動産を多く所有しており、その不動産収入によって資産を構築しているタイプ」の2つに分けることができます。

年収の多い富裕層の職業とは?

厚生労働省が発表している令和2年賃金構造基本統計調査によると、平均年収が一番高い職業は「パイロット」、2番目が「医師」、3番目が「大学教授」となっています。そして、それぞれの平均年齢および平均年収は以下のとおりです。

平均年齢平均年収
パイロット43.8歳1,725万円
医師45.5歳1,440万円
大学教授57.6歳1,073万円

(厚生労働所の資料を基に筆者作成)

特に医師の場合は勤務医か開業医かで異なります。勤務医であれば上述の1,440万円が平均年収となりますが、開業医で院長クラスになると、約3,000万円と一気に跳ね上がります。

そして、労働者数で比較すると、医師が一番多く約12万人であるのに対し、パイロットは約3千人、大学教授は7万人と、圧倒的に医師の割合が多く占めていることが分かります。

士業の年収は個人差がある

また、上に挙げた職業以外にも「弁護士」や「公認会計士・税理士」などといった士業に携わる人の年収も高いと言われています。ただし、平均で見ると、「公認会計士・税理士」の年収は約950万円と1,000万円には届かない状態です。

弁護士の収入については、弁護士白書で見ることができます。2018年のデータを見ると、収入の平均値は2,143万円、所得の平均は959万円であるのに対し、中央値で見ると、収入は1,200万円、所得は650万円と、高収入の弁護士だけではなく、中には収入の高くない弁護士も存在していることが分かります。

士業は独立開業している方や、企業の顧問として働いている方など、働き方によって収入にかなりの差が生じる傾向にあるといえるでしょう。

富裕層の特徴 

富裕層には冒頭でも述べたように、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の富裕層と、5億円以上の超富裕層が存在します。そして超富裕層の特徴は、自分で財産を築いた人が多い点にあります。

また、富裕層全体に共通する特徴としては、「仕事で忙しい」点も挙げられます。富裕層の多くがシニア層でありながら、生涯現役で働くという人も少なくありません。

さらに、富裕層の方が保有している資産は「換金しにくい」という特徴もあります。特に中小企業の経営者の場合、経営者自身の資産の大半を会社に投資しており、自社株が資産のほとんどを占めるという方もたくさんいます。また、不動産収入で財を成している方も、その資産の特性からわかるとおり換金性は低いといえます。

富裕層の3大ニーズとは?

富裕層の方には、その特徴に密接したニーズが存在します。1つ目のニーズは「資産をどのようにして守っていくか」ということです。資産を増やすという考えではなく、いかに資産を減らさずに保つことができるかを重視しています。

これは、富裕層の多くが歴史や信用のある欧米のプライベートバンクを利用する傾向にあることを裏付けているといえるでしょう。

2つ目のニーズとして挙げられるのが、「教育」です。次世代が不自由なく暮らすことができるように考えることはもちろん、資産を上手に継承できるようにするため、その教育にお金をかける傾向にあります。

例えば開業医であれば、自身のクリニックを子どもに継いでもらいたいという気持ちから、子どもを医学部に進学させたいという思いが強く、予備校や塾、さらには進学校へ通うための費用については、早い段階で考えているといえるでしょう。

また、一流の学校へ進学させたいという富裕層の方も多く、最近ではさらに上を目指して、海外の名門校やインターナショナルスクールへの入学を希望する富裕層が増加傾向にあります。

今後のグローバル化を予測し、海外の教育も視野に入れ、海外を自由に行き来できる子どもに育てたいという気持ちや、将来のビジネスに役立つような学生生活を送らせたいという考えを持つ富裕層は多いのではないでしょうか。

3つ目のニーズとして挙げられるのは、「セキュリティー」です。自宅にセキュリティーシステムを設置するのは常識で、マンションの場合はコンシェルジュが常駐している物件を選ぶといったように、自分だけではなく家族に対する犯罪を防ぐという意識が強くなる傾向があります。

また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、最近では健康や体力の増進に関心を持つ富裕層も増えています。プライベートで利用できるジムの利用や、アンチエイジング効果のあるサプリメントなどの需要がより高まっているといえるでしょう。

富裕層が考えなければならない問題点 

富裕層だからこその懸念事項は、もちろん存在します。したがって、それをどのように解決していくかを考えることが重要となります。

身近な問題として挙げられるのは「増税対策」でしょう。特に平成30(2018)年の税制改正によって、高所得者の基礎控除や給与所得控除が見直されたことによる税負担は大きいのではないでしょうか。

さらに富裕層を悩ませているのが「相続問題および事業承継」です。次世代が適切に遺産を管理してくれるか、さらに経営者であれば、今の経営を持続してくれるかどうかといった懸念は、富裕層に限らず抱えている問題です。特に残す遺産の額が多い富裕層は、相続税対策も合わせて考えていかなければなりません。

富裕層が考える相続対策

一般的に相続対策と聞くと、遺産をどのように分けるかという「遺産分割対策」を思い浮かべるのではないでしょうか。そして、富裕層であれば、さらにそれに加えて「納税対策」および「節税対策」を考えなければなりません。

相続税の納付は現金による納付が原則であることから、預貯金で確保することが望ましいのですが、人間誰しもが、いつ亡くなるかについて予期できる人はいません。したがって、納税資金を準備する前に非相続人が死亡することになれば、相続人の預貯金から納税資金を確保する必要があります。

もし、現金が確保できなければ、資産の売却によって確保する必要が生じることから、できればそのような事態は避けたいものです。

また、節税対策には「いかに生前に資産を贈与移転しておくか」という点と、「いかに相続財産の評価を下げておくか」という2つのポイントがあります。

富裕層の相続対策として注目される生命保険の活用 

相続対策における節税対策の一つに、「現金を贈与し、贈与された現金で保険料を支払い、万が一の場合には保険料を受け取る」という生命保険の活用方法があります。

相続対策に用いられる生命保険の契約パターン

相続対策で用いられる生命保険の契約形態には、以下の3パターンがあります。そしてどのパターンを利用するかについては、その時の状況や、「遺産分割」、「納税」、「節税」のいずれを最重視するかによって異なります。

契約者被保険者保険金受取人課税関係
パターン1相続人被相続人相続人所得税・住民税
パターン2被相続人被相続人相続人相続税
パターン3被相続人相続人被相続人相続税

いずれのパターンも、遺産分割対策や納税、節税対策を狙った方法ですが、節税方法がそれぞれ異なります。

パターン1を用いた相続対策

例えば、契約者を相続人、被保険者を被相続人、保険金受取人を相続人とする場合、生命保険金は一時所得となり、相続人に対して所得税および住民税が課税されることになります。この一時所得の場合、特別控除である50万円を利用できるほか、総所得金額の算出時には一時所得金額を2分の1にすることができるため、節税に繋がります。

ただし、一時払い養老保険、一時払い損害保険などの差益(保険や共済の期間が5年以下のもの、または保険や共済の期間が5年を超えていてもその期間の初日から5年以内に解約したものに限る)については、20%(これに復興特別所得税が加わります)の源泉分離課税が適用される点に注意が必要です。

また、保険料を被相続人が贈与すれば、財産移転を行いながら節税対策にも繋げることができ、しかも納税資金も確保できることになります。

パターン2を用いた相続対策

一方、契約者、被保険者が被相続人で、保険金受取人が相続人の場合は、保険金は相続税の対象となります。

しかし、生命保険金は他の財産と区別され、みなし相続財産として「500万円×法定相続人の数」までが非課税対象となることから、節税対策に繋がります。また、誰に渡すかといった観点からみれば、遺産分割対策にもなり、納税資金として納税対策を兼ねることもできます。

パターン3を用いた相続対策

契約者を被相続人、被保険者を相続人、保険金受取人を被相続人とするパターンにおいては、保険金は相続税の課税対象となりますが、被相続人が死亡した時点で相続人が生きていれば生命保険金は支払われません。

つまり、生命保険契約は被保険者である相続人が死亡するまで継続することから、新たに保険契約者および保険金受取人を決める必要があります。そして、新たな契約者が保険契約を引き継ぐ権利を相続することになります。

この場合には、それまで被相続人が支払ってきた保険料部分が節税対策へと結びついているほか、その後の契約者を誰にするかで、次の世代の納税対策や遺産分割対策に繋げることができます。

このような生命保険を使った相続対策は富裕層のみならず、誰にでも有効ですが、特に資産の多い富裕層の方は考えておきたいところでしょう。

不動産収入を考えるうえでの注意点 

先祖代々からの土地を所有し、それを活用して収入を得ている富裕層の方においては、その活用方法における注意点をしっかりと把握しておく必要があります。特に、土地を守るという意識が高いことからも、不動産活用方法については、周辺環境の変化に柔軟に対応できるようにしておくことが大切です。

アパート経営

先祖代々の土地を利用し、アパート経営を行う際には、その建設にあたり、入居者層を想定する必要があります。例えば、単身者層を想定するのであれば、利便性が重視されることから、駅からの距離や徒歩圏内にコンビニエンスストアがある場所でなければ、満室経営は難しいでしょう。

都心や中心部に土地があるのであれば、店舗を兼用したアパートを考えてもいいですし、郊外に土地があるのであればファミリー向けに間取りを多く取ったアパートを建てるなど、その土地の環境に合わせた入居者層を考えることが大切です。

駐車場経営

駐車場経営を考えるのであれば、立地によって月極駐車場にするのか、時間貸しの駐車場にするのかを考える必要があります。場所が商業施設や駅に近いのであれば、収益性の面からも時間貸しの駐車場を考える方がいいですし、住宅街の中に土地があるのであれば月極駐車場の方が無難でしょう。

ただ、駐車場経営においては、今後近隣に安い駐車場ができると、利用者がそちらに流れてしまうリスクがある点は押さえておきましょう。

富裕層における今後 

日本では富裕層が増えている傾向にありますが、逆に金融資産が3,000万円未満の世帯も増加傾向にあります。そして金融資産が3,000万円未満の世帯が増加傾向にあるにもかかわらず、純金融資産額は減少傾向にあります。これは、日本における世帯保有資産の2極化が進んでいることを表しているといえるでしょう。

2020年の平均年収が1,000万円を超える企業は49社となっており、その内の3社が2,000万円以上となっています。新型コロナウイルス感染症拡大で多くの企業の平均年収が下がった中、このように高年収を維持できている企業も多く、経営者や弁護士など会社員以外でも高収入を維持できていることからも、今後の富裕層の世帯数そして純金融資産額はさらに増えていくことが予想されます。

そのような中で、自身の資産保全や次世代への承継といった問題に対して、これからの金融政策や税制改正の内容を重視しながら、柔軟な対応を行う能力が求められるといえそうです。