新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

2022年における税制改正の要望が各省庁から提出されていますが、それに先立ち、金融所得課税の見直しが議論に上がった点は記憶に新しいのではないでしょうか。

金融所得課税の見直しとは、「現在20%の税率を一律で引き上げる案や、高所得者の負担が重くなるよう累進的に課税する案を検討する」といった内容ですが、その後、当面の見送りが発表され、2022年の税制改正には影響がないようです。

では、それ以外に2022年の税制改正においては、どのような点が変更になる可能性があるのでしょうか。

2022年の税制改正における主な要望項目 

2022年税制改正にて予想される金融商品における変更点
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

財務省が8月に発表した「令和4年度税制改正要望項目」によると、投資環境の整備が主な要望となっており、さらに生命保険料控除制度の拡充が加えられている点が注目すべきといえます。

金融商品に係る損益通算範囲の拡大 

金融商品における損益通算の範囲については、現在、上場株式等および特定公社債等が対象となっています。しかし、デリバティブ取引や預貯金についてはまだ対象外となっていることから、多様な金融商品に対して投資が行える環境整備が確立していないといわれています。

そのため、損益通算の範囲をこれまでの上場株式等および特定公社債等に加え、デリバティブ取引や預貯金まで拡大することが要望として提出されています。

デリバティブ取引とは、株式や債券、金利、通貨、金、原油などといった原資産の価格を基準にその価格が決まる金融商品の取引のことで、このような金融商品のことを金融派生商品といいます。

取引形態としては、先物取引やオプション取引、スワップ取引などがあり、当初はリスクを回避する目的で利用されていましたが、少額の投資金額で大きな利益を得る、レバレッジ効果を期待することができるため、最近ではこのような金融派生商品自体を対象とする取引も増えています。

デリバティブ取引は店頭や市場で扱われえていますが、価格や取引の透明性という観点から、まずは有価証券市場デリバティブを対象に加え、その後段階的に対象範囲を拡大する方針です。

そして、これらを損益通算の範囲に加えることにより、以下の取り組みも合わせて考えられています。

租税回避防止策

デリバティブ取引が損益通算の範囲に加わることにより、取引において「売り」と「買い」の両建てを行い、年末時点で利益のある分については売却せず、損失があった部分についてのみ売却することで、実質は損失のない取引であるにもかかわらず税務上のみ損失を計上するために、租税を回避することができるという問題が発生します。

その対応策として、有価証券市場デリバティブ取引については「時価評価課税」を一律に適用することで、租税回避を防ぐことができると考えています。

時価評価課税とは、実質の損失額だけではなく、含み益に対しても課税するというものです。通常の場合、資産の価値が上がった場合、通常の評価方法では売却しなければその価格は取得した時点の額となりますが、時価評価課税を用いることで、年末時点での評価額が適用されるため、売却しなくても利益として課税されることとなります。

特定口座の更なる活用

特定口座で有価証券市場デリバティブ取引との損益通算を可能とすることで、個人投資家においても利便性が向上することが予想されます。さらに、その特定口座にて源泉徴収を行うことが可能になれば、円滑な納税にも繋がると考えらえています。

デリバティブ取引を損益通算の対象とすることによるデメリット 

ただし、個人投資家においては、デリバティブ取引が損益通算の対象となることにより以下のようなデメリットが発生する点にも考慮が必要です。

税務手続きの煩雑さ

損益通算の対象となるデリバティブ取引を有価証券市場デリバティブ取引に限定することから、その他のデリバティブ取引と区別して税務手続きを行う必要が発生します。また、これまでは認められていたデリバティブ取引内での損益通算が認められなくなるというデメリットにも注目すべきでしょう。

また、実際に損益通算の対象となった場合、上場株式等との損益通算の対象となるデリバティブ取引については、利益を実現させていない含み益の状態であったとしても、原則確定申告が必要となるという問題があります。

時価評価課税については届け出制とするなどといった考え方もありますが、上のようなデメリットを考慮しながら、見直し後の制度の趣旨をきちんと説明することが求められるといえます。

上場株式等の相続税に係る見直し 

現在では、相続税の計算の際、上場株式等においては、相続時の時価と、相続時以前3ヶ月間(相続発生月、その前月、前々月)の各月における終値平均額のうち、最も低い価額で評価されることになっています。しかし、相続税の納税期限は相続発生後10ヶ月となっているため、その間に株価が大きく下がるケースも考えられます。

相続税は金銭による納付が原則となっているため、その資金確保の意味から株を早期に売却するなどといった、実際に発生するかもしれない利益を得られないという問題が発生します。

金銭による納付が難しい場合は物納という方法を取ることも可能ですが、上場株式等においては「延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること」といった要件が設けられていることから、なかなか利用できないといった点が指摘されています。

このような問題に対し、上場株式等における相続税評価方式の見直しおよび物納の際の手続き要件の見直しも合わせて行われる予定となっています。

上場株式等と他の資産の評価方法

上場株式等については上述のとおり、相続時の時価と、相続時以前3ヶ月間(相続発生月、その前月、前々月)の各月における終値平均額のうち、最も低い価額となっており、その額が100%適用されます。

しかし土地であれば、公示地価(時価)の80%程度、建物の場合は建築費(取得費)の50~70%など、実際の取引価格より割り引いた額で評価されているといった現状があります。このような点を踏まえ、遺産としての残し方に偏りがないように、また、選択肢の幅を広げるという意味でも、今回の見直しは大きな意味を持っているといえるでしょう。

認知症等における投資者保護 

平均寿命が延びている現在の日本において、認知症になった際の問題点がこれまで以上に重視されています。特に、資産形成の必要性を呼び掛けている中、今後、認知症になった際の資産管理についても真剣に考えておく必要があります。

そのため、金融機関と信託契約を結ぶことで認知症になった後の財産を保護するというサービスが検討されていますが、特定口座で管理されている上場株式等について信託契約の対象となり得るのかといった税法上の問題があることから、実現には至っていない状況にあります。

今後、特定口座で管理されている上場株式等について金融機関と信託契約を締結できることになれば、認知症発生後は金融機関が信託契約の定めに従い資産管理を行うことができることからも、今後の動きに期待が高まっています。

その他見直しが考えられている項目とは? 

その他では、「生命保険料控除制度の拡充」が要望に組み込まれています。

現在の生命保険料控除制度については、2011年12月までの契約については、生命保険料控除(最大5万円)、個人年金保険料控除(最大5万円)、2012年1月からの契約については、一般生命保険料控除(最大4万円)、個人年金保険料控除(最大4万円)、介護医療保険料控除(最大4万円)と、合計12万円までの控除が可能となっています。

そして、今後における多様な生活保障の準備を支援かつ促進する目的で、一般生命保険料控除(最大5万円)、個人年金保険料控除(最大5万円)、介護医療保険料控除(最大5万円)の合計15万円を最大控除適用額とする要望が提出されていることから、自分たちの保障をどのように準備していくかを考えるとともに、実現した暁には控除枠が拡がることで節税にも繋げることができるでしょう。

これらの要望は12月の発表に向けて議論されているところですが、今後の動向によって自分たちが対応すべき点などを把握していく必要があるといえます。そのためにも、現在提出されている要望の詳細について、しっかりと認識しておくことが大切です。