片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

“30年借り上げ”“空室でも家賃保証”を謳い文句に、サブリース会社は多くの地主や投資家に対し、アパート・マンション建築の営業攻勢をかけます。

30年もの間、安定した家賃収入が得られるのであれば、老後の不安も解消され悠々自適です。そのため、この営業文句を信じた地主や投資家がアパート・マンションを建築した後、サブリース会社からの契約途中での家賃減額に応じた結果、収支が大きく悪化する問題が発生しています。

この問題はもはや珍しいことではなく、社会問題として取り上げられることも少なくありません。もしサブリース会社から、このような突然の家賃減額の求めに直面した場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。本記事では、サブリース会社からの家賃減額請求の正当性と対応方法を説明します。

サブリース会社による家賃減額請求の根拠はあるのか

サブリースは是か非か。サブリース会社に対する家賃減額請求への対処法
(画像=STOCKSTUDIO/stock.adobe.com)

そもそもサブリース会社から、アパート・マンションの所有者(以下「所有者」)に対する家賃値下げの請求は正当なのかどうかですが、これは正当となります。最高裁判所の2004年11月8日判決において、借地借家法32条1項に基づき、サブリース会社から所有者に対する家賃の値下げ請求の正当性が認められています。

この最高裁判例は、所有者とサブリース会社との間で締結した契約書に、契約期間中に家賃を値下げする旨の文言はなく、逆に2ヵ年毎に5%ずつの家賃自動増額特約とサブリース会社による家賃保証特約が付いていたにも関わらず、サブリース会社の家賃値下げ請求を認めています。

なお、もし仮に契約書の中に「家賃を値下げしない」旨の文言があったとしても、サブリース会社の家賃値下げ請求は認められます。借地借家法においては賃借人、ここではサブリース会社にとって不利となる契約は無効とされるためです。

借地借家法を根拠とした最高裁判例から、契約書に「家賃を値下げする」の文言記載がなく、逆に「家賃を増額する」の記載があったとしても、サブリース会社による家賃値下げ請求は認められるのです。そのため、この最高裁判例を熟知しているサブリース会社は所有者に対し家賃減額を強気に請求してくるのです。

“借地借家法”賃借人の立場が強い理由は第二次世界大戦

最高裁判例から、所有者とサブリース会社との間の契約には借地借家法が適用されます。なお、この借地借家法は1992年に施行されたものですが、賃貸人の立場が弱く賃借人の立場が強い法律です。この立場の強弱があるのは、20世紀の第二次世界大戦が原因となります。

現行の借地借家法は、1909年施行の建物保護法、1921年施行の借地法と借家法、この3つの賃借人保護を目的とした法律がまとめられたものです。

第二次世界大戦中の1941年、借地法と借家法の一部改正が行われ、賃貸人に正当事由がなければ、賃貸借契約の更新拒絶や解約ができないよう定められました。当時、東京下町の居住形態の90%が借地借家住まいであったことから、借家住まいの兵士が戦地へ出征したものの、復員したときに住まいがなくなるという状況を防ぐために改正されました。

この借地法・借家法が持つ賃借人保護の性格の強さは、1992年施行の借地借家法へも引き継がれました。戦時中、立場が不安定な賃借人を護るために改正された内容が、現在にも強く影響を及ぼしているのです。

一般的に、専門的知識の少ない所有者が弱者、プロとして経験知識ともに豊富なサブリース会社が強者と思われますが、賃借地借家法によってこれが真逆となるのです。

突然の家賃減額の請求があったときは

サブリース会社から所有者への家賃値下げ請求は、大抵の場合、前触れなく行われます。では突然の値下げ請求を受けたときどのように対応すれば良いのでしょうか。

もし所有者が、今後のサブリース会社との関係を考慮する場合、サブリース会社から提示された金額が周辺の家賃相場と同程度かそれ以上で、かつ収支に見合うものであれば、値下げに応じることを検討しても良いかもしれません。

ただ家賃の値下げに応じたくなければ、値下げ請求を断って良いでしょう。所有者とサブリース会社との間の契約は借地借家法が適用されますため、賃借人であるサブリース会社の一方的な主張のみで家賃の値下げはできません。家賃の値下げは、賃貸人と賃借人との間で合意があって初めて成立となります。

契約書に「家賃の改定ができる」の文言があったとしても、改定するためには、“いつから”“いくらの金額”との当事者間の合意が必要となります。もしサブリース会社が、合意がないにもかかわらず値下げした額の家賃を支払ってきたとしても、所有者はサブリース会社に対しその差額分を請求できます(借地借家法第32条3項)。

そのためサブリース会社としてはどうしても家賃値下げをしたい場合、契約を中途解約するか、減額を正当とする法的手続きをとるかのどちらかしかありません。

家賃の減額に応じるとどうなるか

所有者が、多少の収支悪化に目を瞑って家賃を値下げした場合、どうなるのでしょうか。
もし、所有者が家賃を値下げした後、収支が悪化したために、再度家賃を値上げするにはサブリース会社との間で合意が必要となります。ただしサブリース会社としては、一旦値下げした家賃を元に戻すようなことはしないはずです。

そうすると所有者としては、法的手続きで家賃増額が決定するまでの間、サブリース会社に対し差額分を請求することはできず、値下げした分の家賃しか受け取ることができません(借地借家法第32条2項)。そして、法的手続きにおいて、家賃増額の正当性が認められなければ値下げした家賃のままとなります。

こうなると所有者としては、サブリース会社との契約を解約したいところですが、果たして解約は可能なのでしょうか。

所有者の収支悪化を理由に契約の中途解約はできるのか

普通賃貸借契約では、賃借人が解約する際、正当事由は必要とされませんが(民法第617条1項)、賃貸人は正当事由がなければ解約することができません(借地借家法第28条)。賃借人であるサブリース会社が、賃貸人である所有者からの解約の申し入れに応じれば合意解約となりますが、サブリース会社が解約に応じなければ契約はそのままです。

もし所有者がサブリース会社に対し、家賃値下げによる収支悪化を理由としてサブリース会社へ解約を申し入れたとしても、これは正当事由に該当しません。サブリース会社との間で解約の合意ができるまで、契約は続きます。

そのため、サブリース会社からの家賃値下げの請求があったときは、安易に値下げに応じることなく慎重に判断しなければなりません。

家賃の減額を断り続けるとどうなるか

所有者が、サブリース会社からの家賃減額の求めを断り続けた場合どうなるのでしょうか。その場合、サブリース会社からの申し入れにより中途解約となることもあります。

「一括保証」「30年間借上げ」等を謳い文句にするサブリース会社の多くは、アパート・マンションを建築したところで目的を達成しています。アパート・マンションの建築時、所有者がサブリース会社に対し支払う様々な金額の中に、サブリース会社が売上として計上する多くの金額が含まれているからです。

そのためサブリース会社としては、借上げ家賃を延々と支払い続けるよりも、所有者との契約を解約した方が望ましいこともあります。そして、もし所有者が家賃の減額請求に激高し、解約を申し入れてきた場合、これ幸いと解約に応じるのです。

サブリース会社から解約されたらどうすればいいのか

家賃減額の求めを断り続けた結果、サブリース会社から契約途中で解約された後、所有者はどのようにすれば良いのでしょうか。その対応方法として次の4点が挙げられます。

①物件を売却する

一つ目の「物件の売却」ですが、売却時に得られる想定金額が、購入時に支払った費用やローン残債、これまでに得た家賃収入等と照らし合わせて利益が見込めるのであれば検討してみても良いでしょう。ただ利益がなくマイナスとなるのであれば、売却時期を見合わせた方が良いかもしれません。

②所有者自身で物件管理する

二つ目の「所有者自身で物件管理」は、所有者に不動産賃貸経営の知識や経験が備わっており、実行する時間があれば良いかもしれません。ただ、そうでないならば止めておくのが望ましいです。

賃貸経営には専門性が求められ、多くの労力を割く必要があるため、安定的な利益を出すのは簡単ではありません。所有者に一定程度の知識や時間がなければ、専門の不動産会社へ一任することをお勧めします。

③不動産会社へ管理を委託する

三つ目の「不動産会社へ管理委託」はどうでしょうか。
2018年時点で、不動産会社の数は約33万件を超えています。所有者の希望に沿った不動産会社が見つかれば、物件管理を委託しても良いでしょう。

ただし、不動産会社へ物件周辺の家賃相場の調査を依頼した結果、その時点の相場が物件購入時よりも大きく下がっている場合は再度の検討が必要です。

あくまで管理を委託した不動産会社次第ですが、市場価格よりも高い金額で賃貸できる可能性は低いため、これまでの借上げ家賃よりもかなり低い金額で賃貸することになります。また賃貸されていない状態、いわゆる空室期間は家賃収入がありませんため収支悪化となる可能性もあります。不動産会社への管理委託はこの点を留意する必要があります。

④別のサブリース会社と契約する

最後の「別のサブリース会社と契約」ですが、“サブリースはもう懲り懲りだ”と思っているのであれば見直すべきです。実はサブリース会社も、アパート・マンションの建築費だけで収益を上げている会社だけではないからです。

サブリース会社にも色々ある

サブリース会社の中には、周辺の家賃相場と同程度、もしくは少し高めの家賃設定で借上げを行う会社もあります。これらサブリース会社がこのような条件で物件を借上げるのは、次のようなメリットがあるためです。

借上げ物件を賃貸することによるメリット
・独自ノウハウにより借上げ家賃以上の金額で賃貸できるため、差額分の安定的な売上が見込める
・賃貸借契約締結毎の仲介手数料やその他諸費用の売上が見込める
・保険会社や保証会社、ライフライン会社からの紹介手数料による売上が見込める
・賃貸借契約更新時の更新料による売上が見込める

所有者との間で長期にわたる関係を構築することによるメリット
・追加の投資物件購入を促進し売上が見込める
・借上げ物件の売却に携わり売上が見込める
・相続発生に伴う相続対策に関連する売上が見込める
・管理戸数を増加させることにより信頼と実績が見込める
・管理戸数を増加させることにより多くの所有者からの手数料売上が見込める

これらはあくまで主な例で各サブリース会社によって異なりますが、周辺相場よりも高く借上げたとしても十分なメリットがあるため、サブリースを主業とする会社が存在するのです。

不動産の賃貸経営手法は様々。“サブリース”と一括りにして考えない

所有している物件のサブリース会社から家賃減額の請求を受けたときは、その減額金額や収支状況、サブリース会社との関係等を考慮して冷静に判断を下すべきです。サブリース会社から家賃減額拒否を理由に解約されたとしても、新しい賃貸経営の道を見つけていけば良いでしょう。

不動産会社へ管理を委託するのか、別の会社とサブリース契約を結ぶのか、はたまた物件を売却してしまうのか、どのような手法を選択するかは所有者それぞれです。

サブリースでの苦い経験や良くない評判を耳にしたからといって、「サブリースは悪」と極端に考えるのではなく、サブリース会社にも色々な形態があることを認識し、その時々で適切と思われる賃貸経営の手法を取っていくことが望ましいのではないでしょうか。