新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

借主が住宅を退去する際、原状回復費用の負担をめぐってトラブルになるケースが見られます。独立行政法人国民生活センターの調査によると、賃貸住宅の敷金および原状回復のトラブル件数については減少傾向にあるものの、2020年には12,048件の相談が寄せられていることが分かります。

内容の多くは借主からの「原状回復費用を多く請求され、敷金が返ってこない」というものですが、そのようなトラブルを防ぐために国としてもガイドラインを策定しています。今回はそのガイドラインの内容を紹介するとともに、当事者としてもどのような心構えでいる必要があるのかについて解説します。

原状回復費用の負担をめぐるトラブルとガイドライン

賃貸住宅退去時の原状回復におけるポイント
(画像=maru54/stock.adobe.com)

賃貸住宅を退去する際に借主が負担する原状回復費用については、借主の不注意などによって付いた傷や汚れ、さらには破損部分の補修費用などが原則とされています。しかし、借主が「自分が付けた傷ではない」と主張し、トラブルになるケースが多発しています。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、建物の損耗などについて借主の通常の使用によって生ずる損耗とそれ以外に分け、通常の使用における損耗の補修などの費用については貸主が、それ以外は借主が負担することとし、以下のように区分しています。

(損耗の区分と負担区分)

自然損耗(経年劣化)貸主負担畳、クロス、床材などの自然変色、設備機器の通常使用による故障など
通常損耗貸主負担電気製品による後部壁面の電気焼け、家具の設置跡など
借主の不注意などによって生じた損耗借主負担喫煙による汚損、子どもの落書き、ペットによる傷など

すなわち、借主が通常ではない使い方をしたことによる損耗などを補修および修繕する費用については借主負担とし、日焼けによる変色などの経年変化や通常の使用による損耗を補修する費用については、次の入居者を確保するために行う設備の交換もしくは化粧直しなどのリフォームにあたるものとの考えから、貸主が負担するとしています。

また、このガイドラインにおいて、原状回復を以下のように定義しています。

「原状回復とは、賃借人の居住や使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意や過失もしくは善管注意義務違反、そのほか通常の使用を超えるような使用による損耗および毀損を復旧すること」

損耗と毀損の区分について 

借主が退去する際、それが損耗なのか、グレードアップにあたるものか、もしくは善管注意義務違反によるものなのかについての判断が求められるケースもあります。その際の考え方についても、ガイドラインにて詳しくまとめられています。

通常の損耗や経年劣化によるものであれば、修繕等の費用は貸主が負担することとなります。ただし、修繕の際に新品同様の状態にグレードアップするような場合は、その費用は貸主負担とされています。

逆に借主の使い方次第で発生の有無が変わると判断されるものについては、借主の故意や過失もしくは善管注意義務違反などによる損耗を含むと考えられることから、借主に原状回復義務が発生し、費用負担が発生することとなります。

さらに、借主が通常の生活や使い方をしていたとしても当然に発生すると予想される損耗であっても、その後の借主の手入れの不行き届きなど、管理の悪さによってその損耗が拡大したと判断される場合は、その損耗の拡大について、借主の善管注意義務違反とみなされ、借主には原状回復義務が生じるとともに、費用負担も発生すると考えられています。

具体的な事例

では、通常の損耗や経年劣化、そしてグレードアップ、借主の故意や過失もしくは善管注意義務違反などによる損耗はどのような考え方で区分けするのでしょうか。ガイドラインによると、以下のように区分けすることとなっています。

  1. フローリングのワックスがけ:グレードアップに該当
    ワックスがけについては、通常生活するにあたり必ず実施するとまでは言い切れず、物件の維持管理の意味合いが強いことから、貸主が負担する。

  2. 家具の設置による床やカーペットの凹み、設置跡:通常損耗に該当
    家具を設置したことによる凹みやそれによる跡については、通常損耗と考えるのが妥当であることから、貸主が負担する。

  3. カーペットに飲み物などをこぼしたことによるシミやカビ:善管注意義務違反に該当
    通常の生活において、飲み物をこぼすことはあり得ることだが、その後の手入れ不足によって発生したシミやカビの除去においては、借主の善管注意義務違反に該当し、借主がその除去費用を負担する。

  4. 引っ越し作業において生じたひっかき傷:善管注意義務違反に該当
    このようなケースは明らかに借主の善管注意義務違反もしくは過失にあたると考えられることから、借主が修繕費用を負担することとなる。

その他、専門業者による部屋全体のハウスクリーニング代についてはグレードアップに該当することや、換気扇の油汚れについては借主の善管注意義務違反に該当、さらに鍵の紛失による取替えについては借主の善管注意義務違反もしくは過失に該当するなど細かく記されていますので、どれに該当するのか判断に迷った際にはガイドラインを参考にするとよいでしょう。

貸主および借主双方での確認の必要性 

また、ガイドラインでは、トラブル防止のため、「入居時の部屋の状況」および「退居時の部屋の状況」を貸主および借主双方で比較確認することが必要であるという考え方を示しています。このような立ち会い確認の結果、借主の負担となる原状回復工事の有無や、工事がある場合には補修などの内容を決めていくことになります。

入居時の確認が特に大切

入居時の傷の有無などが基準になることから、リフォームの有無、天井・床・壁・建具・設備機器の傷や汚れなどの有無のほか、設備の整備状況などを確認し、その内容を確認リストとして書面に残しておきましょう。

なお、借主に原状回復義務がある場合、ガイドラインにおいては「借主の工事費用の負担については、内容、設備の経過年数を考慮して、年数が多いほど借主の負担割合を少なくする」という考えを示しています。そのため、中古の賃貸住宅などでは、内装や設備機器の交換年月についても必ず記録しておくことが大切です。

立ち会い確認をしなかった際の対処法

入居時にはなかった傷であるにもかかわらず、借主が付けた傷ではないと主張され、トラブルになることも多いことから、立ち会い確認をしなかった場合であっても、貸主側で入居時の部屋の状況確認を丁寧に行い、日付入りで写真に撮るなどした上で、きちんと記録しておきましょう。

なお、借主が付けた傷ではないと主張された場合、その負担義務を立証する責任は貸主側にあります。不利な立場に追い込まれてしまわないためにも、事前の対策は非常に重要です。