新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

高齢化が進む中、遺産分割問題で揉めるケースが増えています。相続が争族にならないためにも、遺言制度は非常に有効です。ただし、制度の内容をしっかりと理解し、法律的に効力のある形で残しておくことが大切です。今回は遺言の種類やその執行とともに、遺言についてのトラブル事例についても紹介します。

遺言の機能

しっかりと理解しておきたい遺言制度
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

遺言には相続上の争いを未然に防ぐとともに、必要に応じて法定相続分を修正し、各相続人やそれ以外の人の実情に応じた財産の分与を実現させる機能があります。

遺言を行うにあたっては、満15歳以上でなければならず、遺言の内容を理解してその結果を認識できる能力を有していることが必要となります。また、この能力は遺言をする時点で有していなければなりません。

さらに、成年被後見人が遺言をする際には、物事を理解する能力が回復しており、医師2人以上の立会いも必要とされています。ただし、被保佐人や被補助人が遺言をする場合には、保佐人や補助人の同意を得る必要はありません。

このように、遺言者が遺言をする際には、遺言能力があるうちに、遺言の機能を十分に理解したうえで準備することが大切だといえます。

遺言の方式

遺言は、遺言者が死後のために残す最終の意思表示です。その真の意味を確保し、他の人が偽造や変造を行うことを防ぎ、遺言者の最終の意思の実現を図るためにも、法律に定められた方式に従って作成する必要があります。

ちなみに法律に定められている遺言の方式には、「普通方式」と「特別方式」の2種類が存在します。普通方式には、よく知られている「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」があり、特別方式には「危急時遺言」と「隔絶地遺言」があります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言を行う人が「遺言書の全文」そして「日付および氏名」を自書し、これに押印することで成立します。この自筆遺言証書は普通方式の遺言の中で、最も制約が少なく、簡単な方式の遺言です。また証人の立会いも不要なことから、その内容を他人に知られず、秘密にしておけるというメリットがあります。

ただし、作成にあたっては原則として自筆で行う必要があるため、遺言者が文字を書くことができない状態にある場合は利用できないことや、作成方法に不備があった際には無効とされるなどといったデメリットがあります。

また、保管中や死後における偽造や変造のリスクが高い点もデメリットといえるでしょう。この点については、2020年より法務局において自筆証書遺言を保管できる制度が新設されたことから、不安な際には利用することをおすすめします。

通常、遺言書の保管者や遺言者の死後に遺言書を見つけた相続人は、勝手に開封することは許されず、家庭裁判所に提出して検認の手続きを取る必要があります。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証役場の公証人が作成する公正証書によって行う遺言のことです。遺言者が公証人と証人の前で遺言の内容を口頭で述べ、その内容に基づいて公証人が作成するという方法で作成されます。

公正証書遺言は、遺言書の原本が公証役場にて保管されるため、盗難や偽造の心配がありませんし、家庭裁判所の検認も不要となるので、死後の作業がスムーズに進む点がメリットといえます。ただし、証人の前で遺言内容を話すことから、その証人によって遺言の内容が他人に漏れてしまうという危険性がある点はデメリットといえるでしょう。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、署名押印した遺言書を封書に入れて封印し、それを公証人に公証してもらうことで成立します。ちなみに、この際の遺言書は自筆である必要はありません。遺言者の死後は、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所の検認が必要となります。

遺言で残せる内容とは? 

遺言は法律で定めた方式に則って作成することで有効となりますが、内容についても一定の決まりが存在します。つまり、遺言だからといってどんな内容でも記載していいというわけではありません。法律で定められている遺言の内容としては以下のものが挙げられます。

  1. 相続に関する事項:相続分の指定や遺産分割方法の指定など
  2. 相続以外に関する事項:遺贈や信託の設定など
  3. 遺言執行者に関する事項:遺言執行者の指定および報酬など
  4. その他の事項:認知、未成年後見人の指定など

遺言の執行について

遺言者の死亡により相続が開始した場合において、遺言が存在する時は、その相続については遺言の内容にしたがって行われます。遺言の存在が確認された場合、公正証書遺言以外の遺言については、遺言書の保管者や遺言を発見した相続人が家庭裁判所に申立て、検認を受ける必要があります。

この検認を受けなければ、たとえ遺言書の内容に不動産や預貯金の記載があったとしても、その変更登記や名義変更の手続きを進めることはできません。また封印のある遺言書については、検認を受けなければ開封することができない点にも注意が必要です。

遺言に遺言執行者の記載がある場合

遺言書に、「遺言執行者とは具体的にどういう人がなり得るのか」が記載されており、それによって遺言執行者が選任される場合は、遺言執行者が遺言の内容を実現するために、相続財産の管理、そのほか遺言の執行に必要な一切の行為を行うこととなります。

この場合、相続人は増速財産の処分やそのほか遺言の執行を妨げる行為をすることは禁じられており、仮に相続人が相続財産を勝手に売却した場合には、原則としてその行為は無効となります。

遺言執行者は、就任後遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付するとともに、相続財産を管理もしくは換価します。その後、遺言の内容に従って、相続財産を相続人や受遺者に分配することとなります。遺言の内容によっては、預貯金口座の名義変更なども行う必要があります。

また、遺言執行者には報酬が支払われることとなっており、遺言によってその額が決まっていない場合は、家庭裁判所が決定した報酬が支払われます。

遺言に遺言執行者の記載がない場合

遺言に遺言執行者の記載がない場合は、相続人が遺言の内容にしたがって相続手続きを行います。この場合、相続人全員の合意があれば、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことも可能です。

なお、遺言に遺言執行者の記載がない場合でも、相続人等の利害関係人の請求によって、家庭裁判所が遺言執行者を選任することもできます。

遺言の内容を変更したいと思ったら?

自筆証書遺言の内容を変更する場合には、偽造を防ぐ目的で厳格な方式が定められています。遺言者は、変更した箇所を指示し、変更した旨を記載して、その場所に署名押印しなければなりません。ちなみに公正証書遺言や秘密証書遺言の内容を変更する場合は、遺言を変更する内容を記載した別の遺言を作成することになります。

また、遺言の全部もしくは一部を撤回する場合は、その旨を内容とする新たな遺言を作成することで、その遺言の効力が発生します。もしも、前の遺言の内容と後の遺言の内容が抵触する場合は、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなします。

遺言に関するトラブル事例

遺言の内容をきちんと理解していなかったことによるトラブルも多く見られます。

自筆証書遺言が無効となるケース

自筆証書遺言は上で述べたとおり、自筆で作成する必要があります。したがって、一部でも他人が記載した場合には、その遺言の全てが無効となります。自筆証書遺言は誰にも知られずに作成できることから、相続発生後、遺言書を開封した際に、その文字が判読不明なケースもあります。そのような場合は筆跡鑑定を行うことになり、それでも判読できないといった場合においては、その箇所については無効となります。

また、日付を正確に記載していなかったことによるトラブルもあります。例えば、「〇月吉日」などと記載してあった場合、特定の日を記載しているとみなされず、遺言書全体が無効であると判断されます。

遺留分の侵害が見られるケース

遺言によって相続人への相続分を自由に決めることができますが、あくまでも遺留分を侵害しない範囲で決めることが大切です。遺言によって遺留分を侵害された法定相続人は、その遺留分における侵害額請求権を行使し、その部分に相当する金銭の支払いを請求することができます。ちなみに、兄弟姉妹に対しては、遺留分は認められない点も覚えておきましょう。

自分の遺志をきちんと伝えることが大切

最近の終活ブームにより、エンディングノートを作成している方も増えているようです。しかし、エンディングノートには法的効力はなく、相続に関する内容を記載していたとしてもそれは無効となる点に注意が必要です。自分の亡き後、財産を残された人にどのように活用してほしいかという気持ちを残すためにも遺言は重要な役割を占めるといえます。

せっかく作成した遺言の内容が無効になることのないように、作成方法についてしっかりと理解しておくとともに、保管について不安な場合は法務局での保管制度を利用するなども考えるようにしてください。