片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

不動産投資は物件を購入すれば終わりではありません。所有している不動産投資物件から家賃収入を得るには、家賃を支払う第三者へ物件を賃貸する必要があります。

ただし、投資家が物件を賃貸するその第三者(以下「入居者」)の内容次第で、安定した家賃収入どころか、大きな損害を被ることもあります。そのため賃貸する予定の入居者を、賃貸借契約締結前に事前審査する必要がありますが、どのようなことをチェックすれば良いのでしょうか。

本記事では、与信管理の経験が浅い、または全く経験がない不動産投資家であっても、入居者の事前審査を一定程度、自身で行うためのポイントと注意点を解説します。

空室となったときの不動産会社の動き

実は意外に簡単な入居者の事前審査の方法
(画像=AndreyPopov/stock.adobe.com)

不動産投資家は、投資物件が空室であれば家賃収入を得るために入居者を募集して賃貸しなければなりませんが、その多くは自身で募集活動を行うことなく不動産会社へ委託しています。

投資家から委託を受けた不動産会社(以下「管理会社」)は、REINS(レインズ)と呼ばれる不動産流通機構が運営しているコンピュータネットワークシステムや、各民間会社が運営する不動産情報ポータルサイトへ委託された物件情報を掲載します。

そしてその掲載された物件情報を見た不動産会社やエンドユーザーである入居者が、管理会社へ物件見学を申し込みます。ただ、その申し込みのほとんどは不動産会社(以下「仲介会社」)からとなります。

入居者の事前審査はなぜ必要なのか

賃貸借契約締結前に、なぜ入居者の事前審査を行うのでしょうか。
日本において、居住用不動産の賃貸借契約の契約期間は2年間が主流となっています。もし入居者が、契約期間の2年を経過した後も引き続き物件を借りることを望めば、賃貸借契約の期間はさらに延びます。

この長い期間、物件の貸主と入居者との間で、「信頼関係」「良好な関係」を互いに築いていけるかどうか、これを確認するために事前審査を行うのです。ではなぜ互いに「信頼関係」「良好な関係」を築くことが必要なのでしょうか。それは貸主と入居者、双方の利益のためです。

不動産投資家が入居者はモノではなく人であることを認識する重要性

不動産投資家の中には、入居者のことを“人”ではなく家賃を運ぶ単なる“モノ”であると考えているケースがありますがこれは誤りです。入居者は一個性のある人です。そして、その人である入居者の事前審査を貸主が通過させたということは、貸主が入居者を人として信頼した証となります。

そのため貸主は、入居者を信頼して賃貸借契約を締結したからには、入居者のため顧客サービスに最大限尽力しなければなりません。それが結果的に入居者からの信頼を得られることとなり、長期的な入居者の保持いわゆるテナントリテンション、安定した不動産経営へとつながるのです。

事前審査のチェックポイントと注意点

それでは、事前審査では実際に何をチェックすれば良いのでしょうか。事前審査において確認すべき項目は大きく分けて次の3つです。

  1. 借りる理由の整合性の有無
  2. 申込書の内容と提出書類の整合性の有無
  3. 入居者の現状と経歴の適切さ

この3つの確認事項についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

借りる理由の整合性の有無

まず、「この入居者は、なぜ今この住所地に住んでおり、なぜこれからその住所地に引っ越したいのか」を明らかにする必要があります。入居申込書には、入居者の転居理由を記入する箇所を必ず設け、入居者にはこの転居理由の記載を必須とします。

この記入された転居理由から、整合性があるかどうかを確認します。例えばよくある転居理由として、次のようなものが挙げられます。

A「現在は地方に在住しているが、東京の会社へ就職するため、東京の賃貸物件へ引っ越す」
B「現在、住んでいる賃貸物件が狭いため引っ越す」
C「現在の賃貸物件が勤務先から遠いため、勤務先の近くの賃貸物件に住みたい」

このような転居理由であれば、特に不審な点はないため、事前審査は通過となるでしょう。しかしこの転居理由も、少し調べると不審な点が出てくることもあるのです。

転居理由A「上京して就職するため」

上記Aの「就職するため」ですが、まず入居者から事前審査に必要な書類のコピーを提出してもらいます。入居者が個人名義で申込みの場合、提出を依頼する書類は次の2点です。

  1. 入居者の顔写真付きの身分証1点(運転免許証、パスポート、国家資格免許証、公的資格免許証、マイナンバーカード、などいずれか)※マイナンバーカードの個人番号はマスキングする
  2. 内定通知書、採用通知書 など

上記Aの転居理由の場合は、内定通知書や採用通知書が就職先の会社から発行されているはずなので、そのコピーを事前審査時に提出してもらいます。事前審査でつまずくのは、このコピーが提出されないときです。

ペーパーレス化が進んでいる現代では、就職先の人事担当者とのメールのやり取りで内定や採用が通知されることもあるため、そのメールを印刷したものを代替にして提出を求めますが、これも提出されないことがあります。

そうなると、この転居理由に疑義が生じるため本当に東京の会社へ就職するのかどうかを確認します。実は就職が決まっていない状態で、上京後に就職活動をするというのであれば、事前審査を通過させるかどうか慎重な検討が必要となるでしょう。

そして転居理由に虚偽の内容を記載したことで、今後、この入居者との間で「信頼関係」を築いていけるかどうかも問題となってきます。

転居理由B「広い部屋に住みたい」

続いて上記Bの「広い部屋に住みたい」はどうでしょうか。今はインターネットで賃貸物件の情報を検索すると、入居者が現在住んでいる賃貸物件の情報もある程度出てくるため、この情報を基に入居者が現在住んでいる部屋がどの程度の広さなのかが分かります。

入居者の現住居の広さと転居先の広さを比較して、転居先の方が広いのであれば転居理由に整合性があります。

しかし、現住居が転居先の物件と広さが同程度、むしろ現住居の方が広いのであれば転居理由に整合性がないため、入居者へヒアリングしなければなりません。そのヒアリングの結果次第では、事前審査の可否を慎重に検討します。

転居理由C「勤務先の近くに住みたい」

転居理由Cの「勤務先の近くに住みたい」も先程の転居理由Bと同じく、インターネット検索を用います。現住居から入居申込書に記載のある勤務地までの通勤時間、そして同じく転居先から勤務地までの通勤時間、これらをインターネットで検索して比較検討します。

転居理由にある通り、転居先へ引っ越すことで通勤時間が短縮されるのであれば問題はないでしょう。ただし通勤時間がそれ程変わらない、または逆に長くなる場合、これも整合性がありません。入居者に対し、より詳細な内容をヒアリングする必要があります。

その他の整合性がない転居理由

他に整合性がない転居理由として、「今住んでいる賃貸物件が契約の更新を迎える。更新を機会に気分転換のために引っ越す。」とあるものの、現住居の賃貸物件を調べると“築年数が浅い建物で最新の設備を備えており広めの部屋”であるのに対し、申込物件は“築年数がかなり経過している建物で旧式設備の狭い部屋”ということがあります。

社会通念上、「気分転換」でこのような賃貸物件へ引っ越すでしょうか。なかにはそのようなケースもあるかもしれませんが稀でしょう。これも入居者に対し、転居理由の詳細をヒアリングしなければなりません。 

入居者へのヒアリング時の注意点

転居理由に不審な点があれば、入居者に対しヒアリングをすることになります。ただこのヒアリング時の注意点が2点あります。

まず一つめは、仲介会社を通して質問のやり取りを行うため、伝言ゲームとなってしまい、こちらの意図や疑問に思っていることが入居者に対し上手く伝わらない可能性があります。そして管理会社にて審査部署と営業部署が分かれている場合、その可能性はより高まるため、質問の意図や疑問点を互いに確認しておかなければなりません。

二つめは、入居者へ質問する際は分かりやすくかつ失礼のないようにすることです。
分かりやすさを過剰に意識し過ぎると言葉に丁寧さが欠け、受ける方としてはやや失礼に感じることもあります。また丁寧さをあまりに意識し過ぎると、逆に分かりづらくなることもあるため気を付けなければなりません。

整合性がないため否決となった事例

以前、このような申込みがありました。
その入居者は、40代の男性で単身での入居希望です。転居理由には「現住居の契約更新を機会により快適なところへ引っ越したい」とあります。

転居理由の整合性の確認のため、入居者の現住居をインターネットで調べると、築浅のオートロック付マンションで広さは40㎡の1LDKタイプの賃貸物件です。ただ申込みをした物件は、築古のマンションで広さは18㎡のワンルームタイプ、どう見ても現住居と比べて「より快適」ではありません。

転居理由に整合性がなく、不審を感じながらこの入居者の内容をインターネットで念入りに調べると、入居者が無店舗型の性風俗業を運営していることが判明しました。入居者が申込みした賃貸物件は、性風俗業関係の店舗が多い地域に所在しています。

確証はありませんが、入居者がこの賃貸物件を性風俗業に利用する可能性があり、かつ性風俗業は反社会的勢力とのつながりも少なくないため、この入居申込みは否決となりました。

100%の事前審査はない。しかし適切な事前審査をすることが不動産投資の成功へつながる

最後に、入居者の事前審査は万全ではないということをお伝えしておきます。

入居申込時に内容が素晴らしい入居者であっても、契約締結後しばらくして勤務先を退職する、環境の変化により心身に不調をきたすなど、時間の経過とともに入居者の状況は変わります。入居者が不動産投資にとって望ましくない方へ変化することは珍しくありません。

また、用意周到な計画を立て騙すつもりで申込みをしてくる入居者を、事前審査の段階で見破ることは困難です。しかし、だからといって事前審査をおざなりにするのではなく、これまで述べてきたように最大限の努力をした上で事前審査を行わなければなりません。少しでもより良い事前審査となるよう向上を図るのです。

そうすれば、安定した家賃収入を得られ、不動産投資の成功に一歩近づけるのではないでしょうか。