新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

2020年より始まった新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、勤労形態においてテレワークを導入する企業が増えてきています。働く場所が自宅などである場合、ケガなどを負った際の労働者災害補償保険(以下、労災保険)は適用されるのかについて、気になるところではないでしょうか。

2020年9月1日には、改正労働者災害補償保険法が施行されたことも踏まえて、今一度労災保険の基本的な内容を解説するとともに、労災補償の変更点についても紹介します。

労災保険の概要 

テレワークの増加で理解しておきたい労働者災害補償保険(労災保険)
(画像=phpetrunina14/stock.adobe.com)

労災保険とは、労働者の業務上または通勤における負傷や病気、障害、死亡などに対し、必要な保険給付を行うことを目的とした制度です。アルバイトもしくはパートなどといった雇用形態には関係なく、会社などに雇用されている全ての労働者が対象となります。

労災保険への加入は事業主の義務です。労働者を1人でも雇う場合は、事業主は労災保険への加入手続きが必要で、保険料は全額事業主が負担します。

労災保険の給付の種類

労災保険の給付には、まず、業務上もしくは通勤上に起きた災害に基づくケガや病気に対する給付として「療養補償給付」、「休業補償給付」、「傷病補償年金」のほか「介護保障給付」の4つがあります。

そして、その後亡くなった場合には「遺族補償給付」が支払われるほか、「葬祭給付」が用意されています。さらに、業務上や通勤上の災害だけでなく、定期健康診断などで見つかった異常に対する「二次健康診断給付」があります。

療養補償給付は、業務または通勤が原因の負傷もしくは病気の療養を必要とする場合に支給されるもので、給付はケガや病気が治るまで行われます。

ただ「治るまで」とは、ケガや病気になる前の状態に完全に回復するという意味だけでなく、ケガや病気の症状が安定し、医学的そして一般的に認められる治療を行っても回復が期待できない状態も含まれます。このような状態を労災保険では「症状固定」といいます。

ケガや病気が症状固定と認められた時に、痛みや知覚異常、麻痺といった神経症状や、器質的障害、機能障害などの障害が残ることもあります。そして、これらの障害が障害等級に当てはまる場合は年金もしくは一時金が支払われます。これが障害補償給付の中の「障害補償年金」および「障害補償一時金」といわれるものです。

また、ケガや病気のために働くことができず、給与の支払いを受けていない場合は、その第4日目を起算日として休業補償給付が支給されます。この給付を受けるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。

  1. 業務上の理由もしくは通勤によるケガや病気のための療養であること
  2. 1の理由のために働くことができないこと
  3. 給与の支払いを受けていなこと

複数の会社で働く場合は? 

働き方改革が進むなか、副業や兼業を行う人も増えています。なかには複数の企業に在籍する形となっている人もいるでしょう。このような複数の会社で働く場合の労災認定や保険給付に対する課題を解消する目的で、2020年9月に改正労働者災害補償保険法が施行された点は非常に興味深いといえます。

この改正労働者災害補償保険法における主な改正点は、「賃金額の合算」および「負荷(労働時間やストレス)の総合的評価」の2点です。その内容について詳しく解説します。

賃金額の合算

労災保険給付のうち、休業補償給付については、給付基礎日額を基に保険給付額が決定されます。これまでは、労災が起きた会社の賃金額のみを基準に給付基礎日額を算定していましたが、今回の改正により、勤務している全ての会社の賃金額を合計した額を基礎として、給付基礎日額が算定されることとなりました。

(例)
AとBの2つの会社に勤務。
賃金額(月額):A社25万円、B社10万円
B社にて労働災害が発生。

従来の給付基礎日額の算定方法:B社の賃金額である10万円を基準に算定
改正後の給付基礎日額の算定方法:A社およびB社の賃金額合計35万円を基準に算定

負荷(労働時間やストレス)の総合的評価

また、この改正により、1つの会社における業務上の労働時間やストレスのみでは労災認定されない場合において、勤務している全ての会社での業務上の労働時間やストレスを総合的に評価し、労災認定の判断が行われるようになりました。

テレワークにおける労災補償 

厚生労働省の資料によると、テレワークにおいても業務上の労働災害については保険給付の対象となる旨が記載されており、例として「自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くために作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案」を挙げています。

ただ、所定労働時間内であったとしても、私的行為などといった業務以外のことが原因である場合は、業務上の災害とは認められません。例えば「自宅で料理中に指を切った」などといったケースは対象外です。

また、テレワークに限らず、新型コロナウイルスに感染した場合の取り扱いについては、医療従事者などではない労働者であっても、感染経路が判明し、感染が業務によるものと判断されれば給付の対象となります。感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査して判断されることになっています。

労災保険の給付を受けるための手続き 

労災保険の給付を受けるためには、まず請求手続きを行う必要があります。労災保険の中でも一番多く利用される「療養補償給付」の請求手続きについては、以下の通りです。

療養補償給付には、「療養の給付」と「療養費の全額給付」の2つがあります。給付請求の手続きは原則として本人やその家族が行うこととされていますが、本人や家族の負担を軽減するため、事業主が代理で行うこともあります。

療養の給付

労災病院や労災保険の指定医療機関などでの治療や、薬の処方については無料で受けることができ、これを「療養の給付」といいます。

この療養の給付を受けるためには、指定医療機関などを経由して所轄の労働基準監督署に請求書を提出します。そして、この請求書の所定事項については、事業主の証明を受ける必要があります。

療養費の全額給付

近くに指定医療機関などがないといった理由により、指定医療機関以外で治療を受けた場合、その治療費を自分で払う必要がありますが、請求することで、その費用が給付されます。これが療養費の全額給付です。

この給付を受ける場合、請求書を直接所轄の労働基準監督署に提出します。この請求は療養費を払った日の翌日から2年を経過すると時効となってしまいますので、必ず2年以内に請求するようにしましょう。

今後の改正の動きにも注目 

厚生労働省の資料によると、新型コロナウイルス感染症に係る労災請求件数は2020年3月時点では1件だったものが、2021年1月より急激に増えており、2021年10月時点で2029件、累計では2万702件に達しています。

なお、決定件数については2021年10月時点の累計で、1万6,424件です。感染症の拡大状況によっては、今後も増えていくことが予想されます。

労災保険の歴史は古く、労働者災害補償保険法が成立したのは1947(昭和22)年です。その後、時代の変化に対応するため、その都度改正が行われています。二次健康診断等給付が創設された2001年の改正からも20年が経過しており、働き方や職場環境の変化によって現在も見直しが迫られています。

労働政策審議会の最新の報告書では、「政令改正」や「特別加入制度の見直し」が議論されていることからも、今後の動きに注目しておく必要があるといえます。