
2020年の所得税改正は、給与所得者や個人事業主への影響が多く見られたことから、2020年分の確定申告時には、戸惑った方も多かったのではないでしょうか。そして、次は2021年分の確定申告が待っています。
2021年分の確定申告の改正点として、勤務先に提出する年末調整書類や確定申告書への押印が不要となることが決まっていますが、その他にも2021年分の確定申告や年末調整において注意したいポイントを、事例とともに解説します。
リストラで退職し、妻よりも収入が少なくなった

2021年は企業も新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた年でした。そのため、会社の経営不振により退職し、その後再就職していないといったケースも考えられます。
その際は確定申告を必ず行う必要があるとともに、共働き世帯で妻よりも収入が少なくなった場合であれば、年末調整にて以下の手続きを行う必要もあります。
確定申告における注意点
退職までの給与については年末調整されていないはずですので、確定申告を行うことで納めすぎている所得税の還付を受けることができます。したがって、必ず確定申告を行うようにしましょう。
年末調整における注意点
2021年分の「扶養控除等(異動)申告書」を提出しており、子どもを扶養の対象としている場合で、最終的に妻の収入が自分より多くなったのであれば、子どもは妻の扶養に変更しましょう。その際の手続きとしては、妻が勤務先から「扶養控除等(異動)申告書」を返却してもらい、子どもを扶養の対象にする旨を記載することで完結します。
また、失業したことにより、2021年の合計所得金額が133万円以下(給与収入が201万6,000円未満)となっていれば、妻の配偶者控除もしくは配偶者特別控除の対象となります。その際は、妻が提出する2021年分の「給与所得者の基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の配偶者控除等申告書の欄に記載することを忘れないようにしてください。
会社からテレワークによる補助や手当を受けた場合の手続きは?
テレワークによる補助や手当には、給与課税の対象となるものとならないものがあります。しかし、これらの判断は原則として勤務先が行います。もし、給与課税の対象となれば、源泉徴収されたうえで年末調整の対象となります。したがって、年末調整や確定申告において自分が行う手続きはありません。
ちなみにテレワークによる補助や手当が給与課税の対象となるかどうかについては、以下のように判断されます。
給与課税の対象となるもの | 給与課税の対象とならないもの | |
テレワークに関する手当など | 在宅勤務手当として支給され、返還の必要がないもの | 実費相当額を精算する方法により支給されるもの |
事務用品などテレワークにかかる環境整備に関する物品の支給 | 企業が支給し、返還する必要がないもの | 企業が貸与し、テレワークが終了した際に返還するもの |
通信費および電気代 | 企業が通信費および電気代として支給し、業務に使用した金額の超過分を企業に返還しなかった場合のその超過分 | 企業が通信費および電気代として支給し、業務に使用した金額を合理的に精算するなどを行った支給分 |
副業を始めた場合の確定申告はどのように行う?
2021年は自粛期間が長い年だったことから、特に飲食店勤務の方など、営業時間短縮による隙間時間を活かしてデリバリーサービスの配達員などの副業を始められた方もおられるでしょう。
このような副業を始めたことによる収入がある場合、給与所得者であれば、その収入は雑所得として確定申告する必要があります。
雑所得金額の求め方
雑所得の金額は、年間の収入金額から必要経費を差し引くことで求められます。デリバリーサービスの配達員であれば、配達用の自転車購入費用やレンタル費用、その自転車の修繕費用や配達のために欠かせないスマートフォン通信費用などが必要経費として認められます。
雑所得は総合課税の対象ですので、確定申告の際は給与所得と合算して行いますが、雑所得金額が20万円以下であれば確定申告の必要はありません。
確定申告の記載欄
確定申告書における雑所得の記載欄については、「公的年金等」、「業務」、「その他」の3つに分かれています。デリバリーサービス配達員の報酬は個人取引の所得となりますので、「業務」の扱いになります。
5年前のレーシック手術費用の医療費控除
角膜にレーザーを当てることで近視や乱視などにおける視力回復を目的としたレーシック手術費用については、保険適用外であることから医療費控除の対象ではないと思われがちですが、医療費控除の対象として認められています。ちなみに、妊婦検診や出産費用も医療費控除の対象です。
そして、医療費控除の申告をしていなかった場合であっても、5年以内であれば還付申告を行うことができます。これは確定申告とは別に行う手続きで、確定申告時期以外でも行えます。
ちなみに過去5年以内ですので、2016年に支払った医療費であれば、2021年12月31日までに申告することで2016年の所得控除として医療費控除を受けることができ、2016年の所得金額に応じて計算された金額が還付されます。
災害を受けた際の雑損控除
豪雨災害が毎年のように発生しており、2021年も被害を受けた方はおられるのではないでしょうか。災害により被害を受けた際には、所得控除(雑損控除)を受けることができ、その年で控除しきれない金額については、翌年以後3年間繰り越すことができます。
雑損控除の金額の計算方法
雑損控除の金額については、原則として以下の方法で算出されます。
(雑損控除の金額)・・・1もしくは2で算出された額のいずれか少ない方
1.差引損失額-総所得金額等×10%
2.差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
ちなみに差引損失額の計算において、災害などに関して受け取った保険金や損害賠償金などの金額は差し引くこととなっています。
しかし、この「損失額」を求めることが難しいケースもあります。その場合は、以下のように簡易的に損失額を計算できます。
○住宅の場合
「1㎡あたり地域別・構造別の工事費用」に床面積を乗じて所得価額を求め、被害割合については「被害割合表」によりその度合いに応じて5~100%の割合を乗じて損失額を計算します。
損失額=(1㎡あたりの工事費用×総床面積-減価償却費)×被害割合
(例)佐賀県の木造2階建て120㎡(築20年)で、床上浸水50㎝の被害を受けた場合の損失額
17万2,000円×120㎡-減価償却費(1,151万7,120円)×45%=410万5,296円
減価償却費:17万2,000円×120㎡×0.9×0.031×20年=1,151万7,120円
○車両の場合
車両の損失額は以下の計算方法で求めます。
損失額=(車両の取得価額-減価償却費)×被害割合
(例)4年前に300万円で通勤用として取得したが、災害により補修を加えても再使用不可の状態となった場合の損失額
(300万円-減価償却費(119万8,800円))×100%=180万1,200円
減価償却費:300万円×0.9×0.111×4年=119万8,800円
雑損控除の適用を受けるためには、確定申告書B第二表に雑損控除に関する事項を記載するとともに、災害などに関連したやむを得ない支出の金額の領収書を添付(もしくは掲示)する必要があります。
そのほか気をつけたい事項
2020年より全てのひとり親家庭の子どもに対して公平な税制を実現する観点から、寡婦および寡夫控除が改正されています。これまでは男女別また婚姻歴の有無などで取り扱いが異なっていましたが、改正後は一人で子どもを育てている人(合計所得金額500万円以下)に対して一律35万円のひとり親控除(所得控除)の適用があります。
したがって、2021年内に離婚して子どもを引き取り、ひとり親世帯となった場合であれば、既に提出している「扶養控除等(異動)申告書」に反映されていないことから、勤務先からいったん申告書を返してもらい、「ひとり親」欄にチェックを入れて再提出する必要があります。ただ、勤め先に知られたくないという場合は確定申告によって適用を受けましょう。
年の途中で家族構成が変化したなどで、本来適用されるはずの扶養控除(所得控除)について、年末調整での適用を受けていないことが後で判明した場合は、医療費控除と同様に還付申告を行うことができます。ただし、遡れるのは5年ですので、もしも控除されていないことに気づいた場合は、早めに手続きを行うようにしましょう。