新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

人口の減少や少子高齢化、そして都市部への人口流入による地方を中心とする過疎化などに伴い、所有者が分からないまま放置されている「保有者不明土地」の増加が問題となっています。

このような所有者不明土地は、公共事業や再開発の妨げになるなどの問題につながることから、この度、問題の解消に向けた関連法が新しく成立し法改正が行われました。

今回は新たに創立された法制度の概要や、法改正の内容について解説します。

所有者不明土地とは? 

所有者不明土地発生防止に向けた法改正の内容とは
(画像=utah51/stock.adobe.com)

所有者不明土地とは、不動産登記簿や固定資産課税台帳から所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が判明しても転居しているなどで所在が分からず連絡がつかない土地を指します。

2016年の地籍調査によると、登記簿上の所有者の所在が不明な土地は20.1%となっており、その土地面積は約410万haと九州本島の土地面積よりも広いことが分かっています。

そして、このような所有者不明土地は2040年にはさらに拡大して約720万haに達すると予想されており、現時点で何らかの対策が必須となっています。

所有者不明土地が増えた背景

このような所有者不明土地が増えた背景として、冒頭で述べた人口減少や少子高齢化、都市部への人口流入に伴う地方を中心とする過疎化などといった問題に加え、相続登記の申請が義務化されておらず、さらに申請しなくても相続人は特段不利益を被ることがないといった現状があることが指摘されています。

また、現役世代の都市部への流出が増加し、さらに各々が自分たちで土地を所有するケースが増加していることにより、地方に残された土地に対する所有意識が薄く、その土地を再利用したいというニーズが低下していることも理由の一つです。

平成30年版土地白書によると、空き地所有者のうち約5割が負担を感じたことがあると回答しており、その約4分の1が土地の所有権を手放したいと回答しています。さらに、土地の所有権を手放したいと回答した人のうち半数は、費用を支払ってでも手放したいと答えている点は見逃せません。

このような背景から、土地の所有者が亡くなっても遺産分割を行わないまま相続が繰り返され、共同で土地を保有しているといったケースが増加し、その結果、所有者を特定しようとしてもその調査に莫大な費用と時間がかかることや、仮に特定できたとしても、共同名義人全員の特定にまで至らないため、いつまで経っても土地の管理や利用のための合意が取れないという問題が発生しています。

そして、この問題は今後超高齢化社会を迎えるにあたり、さらに深刻化することが懸念されています。

相続土地国庫帰属法の制定

これらの問題の発生そして拡大を防止するために、2021月4月28日、新たに「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が制定されました。この法律が制定された目的は、所有者不明土地の発生を抑えるため、相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度を創設することにあります。 この法律が制定されたことにより、今後相続または遺贈により土地を取得した人が、その土地を手放すことを希望する場合は、承認申請を行い、法務大臣による審査結果を経て、認められた場合に限り国庫への帰属が承認されます。

ただし、建物が存在する土地や、担保権が設定されている土地、そのほか土壌汚染がある土地や境界争いがある土地などについては、承認申請の却下要件に該当することから、申請することができない点に注意が必要です。

また、申請が認められた場合でも、「通常の管理または処分をするにあたり過分の費用または労力を要する土地」に該当しないなどの一定の承認要件が設定されており、申請から承認までがスムーズに行われるためには、事前にその土地が抱えている問題を解消しておかなければなりません。

さらに、承認申請には手数料を納付する必要があり、承認された場合には、土地の種目に応じた標準的な管理費用を考慮した10年分の土地管理費相当額の負担金が徴収されます。とはいえ、利用する予定がなく、活用方法を見いだせない土地を保有する相続人にとっては、今後の維持管理や固定資産税負担を考えると有効な選択肢となるでしょう。

不動産登記法の改正 

所有者不明土地の拡大防止のため、上の法律の制定とともに、不動産登記法も以下のように改正されることになりました。

相続登記申請の義務化

今回の改正により、不動産を取得した相続人に対し、相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請が義務付けられました。正当な理由がなく申請しなかった場合は、10万円以下の過料が課されることになります。

また、相続人が申請を行いやすくするために、登記手続きの負担や費用負担の軽減を行うほか、申告漏れの防止のために、自治体と連携して相続登記に関する周知を行うなどの環境整備もあわせて導入されることとなりました。

さらに、登記名義人が死亡した際には、登記官が住民基本台帳システムなどから情報を取得し、職権的に不動産登記に死亡の事実を符号によって表示できることになっています。

この改正については、公布後3年以内の政令で定める日が施行日となります。

住所変更未登記への対応

現在は、住所変更登記は義務化されておらず、個人・法人を問わず、転居や本店の移転などにかかわる登記については、放置される傾向にあります。

そのため、所有者の登記名義人に対し、住所が変わった日から2年以内の変更登記の申請が義務付けられました。こちらも正当な利用なく申請しなかった場合には、5万円以下の過料が課されます。

また、相続登記申請の義務化と同様に、登記官に職権が与えられ、登記官は個人であれば住基ネット、法人であれば商業・法人登記システムより情報を入手し、住所の変更ができることになります。

この改正は、原則として公布後5年以内の政令で定める日に施行されることとなっています。

施行までの経過措置 

改正法については、施行日までに以下の通り経過措置が設けられています。

相続登記の申請の義務化については、施行日前に相続が発生していたケースにであっても、登記の申請義務は課されます。ただし、申請義務の履行期間については、施行前からスタートしないように配慮されており、施行日とそれぞれの要件を充足した日のいずれか遅い日から3年間となります。

住所変更登記についても、施行日前の申請義務は課されますが、履行期間については施行日とそれぞれの要件を充足した日のいずれか遅い日から2年間となっています。

今後の土地の活用促進や相続の負担軽減に期待 

これらの新法創設および法改正は、所有者不明土地の発生を予防するとともに、既存の土地利用の円滑化を目的として行われたものです。このような関連法により、特に所有者不明土地が増加傾向にある地方で、復興事業や土地の再開発などの妨げとなっている問題を解消することに繋がるとともに、休眠状態だった土地の再利用が期待できます。土地の形態によっては、有効的な活用ができるでしょう。

さらに、望まない土地相続によって、その土地の管理の手間や固定資産税を負担していた相続人にとっても、問題解消に繋がるのではないでしょうか。

今後は、少子高齢化の更なる進行により、相続にまつわるさまざまな問題が増加することが考えらえます。また、都市部への人口流出により、流動性の低い地方の土地の処分について悩みを抱える人が増えることも予想されます。

所有者不明土地の発生を防止し、さらに相続人の負担を軽減するためにも、今回の法改正および新法制度の内容はもちろん、今後の動きについてもしっかりと把握しておく必要があります。