片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

2021年10月8日、国土交通省から「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」、いわゆる事故物件のガイドライン(以下「ガイドライン」)が発表されました。

これまで事故物件の告知期間や対象となる孤独死の案件については、ケースバイケースとなり明確な基準はありませんでした。

そのため、不動産投資家や宅地建物取引業者においては、所有している不動産が事故物件となってしまった後、何年もの間、事故物件であることを告知しなければならないと信じ、その結果、空室が長期に渡り家賃収入を得ることができなかったケースや、長期空室を防ぐために家賃を大幅に下げたケースもあったようです。

しかし、今回のガイドラインにより告知義務の期間や対象が明確となりました。これは、曖昧さに悩まされてきた不動産投資家や宅地建物取引業者にとって、朗報といえるものです。

本記事では、国土交通省が策定したガイドラインの主な内容と賃貸借契約において気を付けるべき点を解説します。

賃貸住宅の孤独死の現状

事故物件のガイドラインがついに策定!さらなる損害を避けるには
(画像=NOBU/stock.adobe.com)

一般社団法人 日本少額短期保険協会が発表した「第6回孤独死現状レポート」によると、賃貸住宅において発生する借主の孤独死の平均年齢は61歳となっています。

孤独死のうち、65歳未満の割合は52%と半数以上を占めていることからも、高齢者と定義される65歳以上でなくても孤独死は十分起こりえるということが分かります。

また同レポートによると、孤独死が発生してから発見されるまでの平均日数は17日となっており、約2週間程度は遺体が室内に残されたままの状態になっています。

遺体を放置しておくと次第に腐敗し、独特の強烈な臭気を発します。
遺体の腐敗臭の発生時期は室内の状態によって異なりますが、冬場や冷房で低温状態の室内なら一週間程度、夏場や暖房で高温状態の室内なら数日程度です。腐敗臭は通常のハウスクリーニングでは除去することができないため、特殊清掃が必要となります。

今回のガイドラインでは、この特殊清掃を行ったかどうかで今後の対応が大きく変わることになりました。

告知義務のある孤独死

ガイドラインは、居住用不動産や住宅として売買・賃貸される不動産が対象となり、オフィスなど事業用不動産は対象外となります。

また、A「自然死」と、B「日常生活の中で生じた不慮の事故による死」については原則、告知義務がないとしていますが、それ以外の死(他殺や自死、日常生活の中では生じえない事故死など)は告知義務の対象としています。

しかしながら、上記AB二つの死であっても、「特殊清掃などが行われることとなった」孤独死の発覚時期から「概ね3年間」は、原則として次の4点の告知義務があります。

①発覚時期
②場所
③死因(不明の場合はその旨を告知)
④特殊清掃などが行われたこと

告知することによる損害は何か

告知義務の対象となる孤独死が発生した場合、新規借主の募集広告には告知事項がある旨を掲載しておくことが望ましいでしょう。借主が何も知らずに入居の申込みを行い、いざ賃貸借契約締結の段階になったとき、突如その場で告知事項を告げられた場合、契約が破断となる可能性が高いためです。

ただ、募集広告に告知事項がある旨を掲載することにより、新たな借主からの反響が極端に減少し、空室期間が長期化することも考えられます。

そのような事態に陥ったときの主な対応策は、募集家賃を周辺相場よりも低く設定して賃貸するか、もしくは家賃を相場と同程度で据え置き、長期の空室状態に耐えるかのどちらかとなります。

このように所有不動産が告知義務の対象となると、通常なら得られるはずであった家賃収入を得られなくなる可能性があります。

3年経てば告知しなくても良いのか

3年が経過すれば、賃貸借契約を締結時に借主へ告知する必要はないのでしょうか。

ガイドラインでは、「事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案」については、3年間経過したとしても告知義務があるとしています。

この事案として想定されるものは、新聞やテレビで話題となった殺人事件や事故死などですが、具体的にどのようなものを指すのか記載がないため、その内容によって個別の判断が求められます。

ガイドラインに則って対応すれば問題はないのか

概ね3年間、借主へ告知義務のある案件をまとめると以下の通りとなります。

  1. 自然死だが特殊清掃などを行った案件
  2. 日常生活の中で生じた不慮の事故による死だが特殊清掃などを行った案件
  3. 他殺や自死、日常生活の中では生じえない事故死など、自然死や不慮の事故死以外の案件

では上記の案件のうち、世間で話題とならなかった案件であれば、概ね3年経過すると、賃貸借契約の締結時に借主へ告知しなくても良いのでしょうか。

ガイドラインでは、「原則として、借主に対してこれを告げなくてもよい」としていますが、気になる記載があります。それは、「本ガイドラインに基づく対応を行った場合であっても」「民事上の責任を回避できるものではない」の箇所です。

ここから読み取れるのは、次のような例です。

①住居用不動産の室内において自殺が発生した
②上記①の発生日から、概ね3年が経過した
③貸主と宅地建物取引業者は、新たな借主へ、上記①の内容を告知せずに住居用賃貸借契約を締結し、不動産を引き渡した。
④その後しばらくして、借主が上記①の内容を知った。
⑤借主は、“上記①のことを知っていたら借りなかった。損害賠償請求する。”と主張した。

このような場合、ガイドラインでは民事上の責任は避けられないとしており、「依頼内容、締結される契約の内容などによって個別に判断されるべきもの」としています。つまり、ガイドラインに則って借主へ告知しなかったにもかかわらず、借主へ損害賠償金を支払うことになる可能性もあるのです。

ガイドラインの具体的な対象者は誰か

ガイドラインでは明確な罰則規定は設けられていませんが、宅地建物取引業者がガイドラインに基づく対応を行わなかった場合、宅地建物取引業法に抵触する可能性を示唆しており、ガイドラインの遵守が求められています。

なお、ガイドラインを見ると気付く点があります。まず、「売主である宅地建物取引業者」、「媒介又は代理を行う宅地建物取引業者」という記載はありますが、“貸主である宅地建物取引業者”の記載はありません。

宅地建物取引業者が自ら貸主となった場合、ガイドラインの適用外となるのか疑問に感じてしまいますが、ガイドラインの趣旨から、“貸主である宅地建物取引業者”にも適用されるのは明らかでしょう。

では、宅地建物取引業者でない売主や貸主はどうでしょうか。
この点についてガイドラインに明確な記載はありませんが、「売主・貸主による告知が適切に行われることが重要である」とし、不動産の売主・貸主の責任の重要性を述べています。

今回のガイドラインが宅地建物取引業者に向けて策定されたのは、「実際の取引においては、(中略)買主・借主は、契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項について、宅地建物取引業者を通じて告げられることが多数を占める」とあるように、実務上は不動産の所有者である売主・貸主が自ら契約締結手続きを行わず、間に宅地建物取引業者を挟んで行っていることによります。

またガイドラインの結びの箇所で、「あくまで、現時点で妥当と考えられる一般的な基準」、「新たな裁判例や取引実務の変化を踏まえるとともに、社会情勢や人々の意識の変化に応じて、適時に見直しを行う」と明記しています。

そのため、今後は宅地建物取引業者でない不動産の売主・貸主、つまり不動産投資家に対してもガイドラインが適用されていくことが予想されます。

不動産投資家が自身の損害を避けるためにすべきこと

不動産投資家は、保有している不動産がガイドラインの告知義務の対象である場合、媒介を依頼している宅地建物取引業者が借主へガイドラインに則った告知を行っているかどうか確認しなければなりません。

もし宅地建物取引業者が、借主へ告知せずに賃貸借契約を締結した場合、宅地建物取引業者だけではなく、貸主である投資家も借主から損害賠償請求を受け、思わぬ損害を被る可能性があるためです。

そして、今後ガイドラインが随時見直しされる可能性があることを認識し、逐一その内容を把捉して、自身と宅地建物取引業者がガイドラインを遵守するよう注意を払っていくべきでしょう。

所有不動産が事故物件になると、原状回復工事費用や空室期間分の未収家賃など多大な損害が発生します。それ以上の損害を避けたいのであれば、ガイドラインの把握と遵守、宅地建物取引業者の確認は必ず行うようにしましょう。