新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

資産形成を行うにあたり、投資の基礎知識、そして資産形成の考え方を理解しておくことは重要なポイントです。今回は、資産運用にあたって必要な基礎知識を確認するとともに、資産運用を行ううえで最も大切な資産配分の考え方について解説します。

投資における基礎知識 

今こそ理解しておきたい。資産形成のコツとは?
(画像=NicoElNino/stock.adobe.com)

資産形成において重要なポイントは「複利」を味方につけること、そしてリターンとリスクの意味を正しく把握することです。

リターンの計算における単利と複利の違い

リターンとは、一般的に報酬や見返りといった意味で使われることが多いですが、投資の世界でのリターンとは、投資した金額に対し、一定期間内に得ることができる損益額の割合、つまり「投資収益率」のことを指します。

したがって、投資によって損した場合には、マイナスのリターンといわれることもあります。「投資収益率」の計算式は以下の通りです。

投資収益率=収益額/初期投資金額

金融商品には単利のものと複利のものがあり、それぞれ計算方法が異なります。
単利とは、投資によって得らえた収益を受け取り、次の投資資金に加算しない考え方です。それに対し、投資によって得た利益を次の投資資金に加算して計算する考え方が複利です。投資を行う際、得た利益を再投資する、つまり複利を味方につけることが最大のポイントです。

ちなみに100万円を年利2%(単利)の金融商品で運用したとしましょう。その際の収益は以下の通りとなります。

1年目:100万円×2%=2万円
2年目:100万円×2%=2万円

このように年間一定の額で収益を得られるのが単利の特徴です。

では、複利の場合はどうでしょうか。同様に100万円を年利2%(複利)の金融商品で運用した場合の収益は以下の通りです。

1年目:100万円×2%=2万円
2年目:102万円×2%=2万400円

年間で得た利益を翌年の元本部分に加算することで、2年目以降の収益は単利の場合よりも大きくなります。

リスクにおける期待リターン

期待リターンの「期待」とは、「希望する」または「要求する」といった意味ではなく、確率論でいう期待値という意味です。つまり、将来起こりうると考えられるリターンの平均値のことです。

また、資産運用におけるリスクとは、私たちが日常使う場合の「危険」や「損をする可能性」とは異なり、「将来のリターンの不確実性」を指します。ただ、これはかなりあいまいなことから、それを数値で表すために「標準偏差」が用いられます。標準偏差を求めるには、次の流れで計算する必要があります。

  1. 一定の年数を設定する。
  2. 騰落率の平均値を求める。
  3. 年ごとのリターンから平均値との差(偏差)を求める。
  4. 上の3で求めた偏差を2乗して一定期間の年ごとの偏差を合計し、それを年数で割って平方根を出す。

この計算によって求められた値がリターンとのブレを示す標準偏差となり、標準偏差の値が大きいほどリスクが大きく、小さければリスクは小さいということになります。

資産運用の考え方

資産運用の3大原則に「長期」「積立」「分散」があります。この中の分散をどう行うかで運用の結果が変わってくるといっても過言ではありません。

分散投資の必要性

「一つのかごに全ての卵を入れてはいけない」という言葉があるとおり、特定の資産に集中投資すると、結果として過大なリスクを負うことになり、不測の事態が起きた時には大きな損失を被ることになります。

株式投資などにおいては、しばしば特定の銘柄において短期的な価格の急落が話題となり、目を奪われることもありますが、中長期的な資産形成においては、分散投資によって保有資産のリスクを低減し、自身のリスク許容度に応じた適切な運用を行うことが重要です。

分散投資とは、値動きの異なる複数の資産や銘柄を組み合わせて投資することで、資産運用において最も重要な考え方です。お互いの値動きが異なる資産に幅広く分散投資することによって、資産全体の値動きを平準化し、リスクを低減する効果を得ることができます。

ポートフォリオの構築

ポートフォリオにはさまざまな意味がありますが、個人の資産運用におけるポートフォリオとは「運用資産の組み合わせ(資産配分)」のことです。そして、このポートフォリオを構築するための方法として、効用関数の考え方が挙げられます。

効用とは、人々の満足度合いを測るもので、その値が大きいほどその人の満足度が高いことになります。ポートフォリオの性質の中で、投資を行うにあたり考えなければいけないのはリスクとリターンで、これらを1つの評価式に入れて一律の基準で満足度を評価するというのが効用関数の考え方です。

リスク回避を考えるにあたり、投資可能なポートフォリオの中で同じ期待リターンになるのであればできる限りリスクの少ない方を選択し、同じリスクのポートフォリオであれば、できる限り大きな期待リターンを選択します。

このように期待リターンとリスクの視点から、無駄のない効率的な運用資産の組み合わせを「効率的ポートフォリオ」といいます。

資産配分の決め方 

資産運用を行う際には、自身の期待リターンとリスクに対する好みを反映した効用関数から、最も効用が高くなるようなポートフォリオを選択する必要があります。

資産運用のプロセス

資産運用におけるプロセスの一般的な考えに、「計画」そして「実行」、さらに「見直し」の3つの段階があります。

まず、計画段階では、自身の現状を適切に把握したうえで、人生や家計の将来設計に基づいた投資計画を立てます。続いて実行段階では、当初の計画に基づいて株式や債券、外国資産などの資産配分を決定します。

決定した資産配分は、金融市場の変動により、運用している資産の状況が変化することから、当初の計画から大きなズレが生じていないかどうかを定期的にチェックする必要があります。これは見直し段階になり、当初の計画から大きなズレが生じていたり、投資している金融商品が適切でないことが判明した時は、見直しを行います。

そして、現状やライフイベントに変化が生じたり、金融市場の当初の前提が大きく変化した場合には、再び計画段階に戻って計画の修正を行い、それに応じて資産配分の内容を変えるなどを実行することになります。この3つの段階を繰り返すことこそが、資産運用の基本的なプロセスとなります。

リスクの扱い方

老後を見据えた資産形成において重要なポイントは、投資期間が長期にわたることです。長期投資と豊かな老後を前提とした際、将来の必要額と運用実績の不足を埋め合わせる目的でリターンを高めに設定してしまうと、過剰なリスクを負うことになります。

資産配分を行う際に、将来必要なリターンを設定して逆算する場合、このように必要な資金をまかなうためにリターン高く設定すればするほど、リスクが高まる点に注意が必要です。リスクを見過ごした資産配分は、将来負担できないような損失をもたらす危険性があります。

リスクを高く設定し、投資期間が長くなるほど、実際の投資の結果が当初想定していた金額から大きくズレる可能性が高まることを理解する必要があります。

資産運用においてどの程度のリスクを取れるかは、その人によって異なります。したがって、あらかじめ現状や将来起こり得るライフイベントから、リスクに対する態度を決めておく必要があります。

個人の属性は、年齢、家族構成、健康状態、収入の見込みと資産や負債の状況、相続の可能性、さらにはリスクに対する好みなど多岐にわたります。これらの状況を十分に吟味したうえで、将来どの程度の損失が許容範囲なのかを想定し、そこから資産配分を逆算することで、不測の損失を被る可能性が減り、保守的な資産形成を行うことができます。

長期で積み立てながらの運用 

長期で運用を行うことにより、リスクを低減させる効果があることはよく知られていることです。短期間の運用ではどうしてもマイナスの局面が発生しますが、20年程度の長期視点で行った場合、マイナスの局面はほぼ消えるといわれています。

また、価格の変動する金融商品を購入する場合においては、一括で購入するのではなく、分散して購入する、いわゆる時間の分散が効果的です。ドルコスト平均法といわれるこの購入方法は、積み立てながらの運用にも当てはめることができ、これらが自動的に行われるつみたてNISAなどが最近人気となっています。

金融庁の調査によると、2021年3月末時点のつみたてNISAの口座開設数は約361万口座となっており、2020年12月末と比較し、約60万口座の増加となっています。買付額も約9,012億円と約1,400億円の延びを見せており、口座数を年代別にみると、30代が最も多く、次いで40代、20代と、これから資産形成を行う世代の利用が多いことがうかがえます。

資産配分の見直しにおける考え方 

資産配分を見直すにあたり、運用のモニタリングは必要不可欠です。モニタリングを行う目的は、投資方針に沿った資産配分が行われているかを確認することにあります。

モニタリングの必要性

モニタリングの内容には以下のものがあります。

  1. ポートフォリオの時価の把握
  2. 運用にかかるコストの分析
  3. 投資の基本的な方針の見直し
  4. 投資商品の評価と選択の見直し

ポートフォリオの管理は、各投資商品を適正な時価で評価し、全体の状況がどのようになっているかを監視することから始まります。

その際、当初の資産配分計画と比べてどのくらいのズレが生じているか、ポートフォリオ全体のリスク値の把握、さらには投資制限を超えた投資が行われていないかどうかを確認します。あわせて、投資にかかるコスト(手数料や税金など)の現状分析を行います。そして、以下のような場合には、資産配分を変更する必要性が生じていると考えられます。

  • 市場時価の変動に伴い、基本の資産配分とのズレが生じている場合

  • ライフイベントやリスクに関する態度の変化、投資対象の期待リターンやリスクさらには相関係数などといった基礎データの変更を見直すような金融市場の変化が生じた場合

  • 投資している商品を評価した結果、運用手法が不安定であったり、実際のパフォーマンスが事前の運用手法と比較してズレているなど、運用方針や手法そのものに不適切な点が見られた場合

このような場合には、資産配分を変更する必要がありますが、その際にはコストの負担を十分に考慮したうえで、総合的に判断することが重要です。

計画的に資産形成を行うためのポイント 

資産形成を始めるにあたり、自身のライフプランを確認し、それを実現させるためには、「いつまでに」、「どのような資金を」、「どれくらい」準備する必要があるのか、そして、それを無理なく実現するためには、どのような方法で運用すればいいかを明確にすることが大切です。

積み立てで行うなら、積立額の設定も合わせて行う必要があります。その際には、用意したい資金の優先順位を確認することも大事なポイントとなります。

例えば、最近加入者が増えている個人型確定拠出年金(iDeCo)の利用を考える人もいるでしょう。ただ、20代~40代の子育て世帯の場合であれば、「老後資金の準備も大切だけれど、まずは教育資金や住宅購入資金を用意したい」と考える方も多いのではないでしょうか。その際の選択肢にはiDeCoではなく他の運用方法を取り入れることを考える必要があります。

逆に子どものいない世帯で、教育資金を考える必要がなく、さらに住宅購入資金も用意できているのであれば、iDeCoの活用を一番に考え、さらに余剰資金があれば、つみたてNISAなどの運用をすることをおすすめします。

資産運用においてよくある疑問 

資産運用を行う上で、疑問や不安に思うことも出てくるでしょう。以下に代表的な疑問点とそれに対する回答を記しておきますので、参考にしてください。

1.投資信託でも「利益確定」や「損切り」が必要なのでしょうか?

特定の業種やテーマに沿った銘柄に重点的に投資する、いわゆる「テーマ型」の投資信託商品の場合、人気が落ちるとそれ以降の値上がりが期待できないことから、利益確定もしくは損切りが必要です。ただし、市場全体に投資するインテックス型の投資信託商品であれば、経済全体が成長するという前提が崩れない限りは長期で保有することをおすすめします。

2.投資対象が同じであれば、手数料が安い投資信託に乗り換えるべきでしょうか?

投資信託のパフォーマンスには、信託報酬の違いが直に反映されます。わずかな差であっても複利運用であることを考えれば、長期で累積すると大きな差になります。したがって、新規に購入する場合は、信託報酬が安いものを購入することをおすすめします。

すでに保有している投資信託の場合は、それが非課税口座なのか課税口座なのか、また今後の運用期間はどのくらいあるのかなどの条件によって、取るべき対応が異なります。長期運用が前提であれば乗り換えを考えるべきですが、非課税口座では売却した部分の非課税枠を再利用することができません。

非課税口座で運用していたものを課税口座で再運用すると資金効率が低下する可能性があるため、乗り換えは慎重に検討する必要があります。

3.リタイア後の運用はリスクを抑えるべきでしょうか?

リタイア後、収入の中心が公的年金となった場合、運用で損失が出た際に新たな資金を補填してカバーするといったことが難しくなります。そのため、一般的にはリタイア後はリスク資産の割合を少しずつ下げ、安定資産の割合を高める考え方が取られています。

しかし、リタイア前にライフプランを見直し、90歳もしくはそれ以上生きた場合に必要な資金や、そのうち医療費や介護費用などに充てるお金はどのくらいになるのか、さらに今後10年~15年程度使う予定のない資金はどのくらいあるのかなどを把握し、将来的な資金不足が見込めるのであれば、当面使う予定のない資金は無理のない範囲で運用を続ける方がいいでしょう。

資産運用と人生設計の密接な関係 

資産運用を行う際には、まず自身のライフスタイルやライフイベントをきちんと把握することが大切です。そのうえで、資産全体でのバランスが整った運用を行うようにしましょう。

また、長期に渡って運用を続ける際には、過剰なリスクを取ることは禁物です。投資で大きな損失を被った場合、それを運用で取り返すことは簡単なことではありません。中には運用自体から遠ざかってしまう人もいるでしょう。

一旦運用から離れてしまうと、再開するにはかなりの勇気が必要です。その間、本来なら運用できたはずの期間を無駄にしてしまうことにもなりかねません。上で述べた資産運用のプロセスをしっかりと理解し、自身の資産形成に役立てていきましょう。