片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

2021年に流行した言葉のうちの一つに「FIRE」が挙げられます。
FIREとは、副業として行っている投資によって日々安定収入が得られるようになれば、本業の仕事をリタイアして生活を送れるようになるというものです。

しかし、FIREに対して否定的な声もあります。

「不真面目だ」
「汗水垂らして働くべきだ」
「生きている甲斐がないのでは」
「最初は良いかもしれないが、どうせすぐに飽きる」

このような意見の基は、「人は定年まで勤め上げる。その後はこれまで一生懸命に働いてきた分、悠々自適に老後を送る。」という価値観からきています。

本記事ではなぜいまFIREが注目されているのか、そしてFIRE達成を目指す生き方の正否について解説します。

実は真面目なFIRE達成者たち

FIREで人生をどのように生きていくのか改めて問い直す
(画像=taka/stock.adobe.com)

まず“FIRE=怠け者”と思っていれば、それは大きな間違いです。

FIRE達成のためには、本業の仕事で得られる収入の内から、副業として行う投資へ回すための経済的余力が必要です。そのため、本業を決して疎かにはできず、平均かそれよりも上の収入を得るための継続的な努力が不可欠です。

また副業である投資にもある程度の力を注がなければならず、投資を安定させるためには本業の合間を縫って向き合う労力と知恵が求められます。そしてFIRE達成後も、余程の投資収入がない限りは日々の散財を減らして倹約することも大事です。

このようにFIRE達成は、到底、「不真面目」「怠け者」では成し遂げられないことなのです。

FIREには様々なタイプがある

またFIREは、一般に想起される本業の仕事を完全リタイアして、悠々自適な生活を送るというものだけではありません。

出勤日数を週に1、2回程度へ減らすものや、これまでと週の出勤日数は変わらないものの労働時間を大きく減らすサイドFIREと言われるものもあります。

そしてFIRE達成後、本業の仕事に充てていた時間を趣味や娯楽に使うのではなく、これまでには出来なかった非営利活動や地域貢献活動に使うという人生の充足感を得るためにFIRE達成を目的とするというものもあります。

このように、FIREには様々なタイプがあり、達成後の目的も多様であることを理解しておかなければなりません。

医療の向上が皮肉な結果をもたらした

なぜ今FIREがこれほどまでに注目されているのでしょうか。現在の日本の現状から見ていきます。

現在の日本社会は少子高齢化が進んでいます。2065年には、日本の人口は約8808万人、65歳以上の人口割合は約38.4%になることが予測されており、医療の進歩によって日本人の平均寿命は延び続け、これからもさらに延びるとされています。

(日本人の平均寿命の推移)
1955年 男63.60歳 女67.75歳
1990年 男75.92歳 女81.9歳
2019年 男81.41歳 女87.45歳

この日本の少子高齢化と平均寿命の延伸の結果起きたのが、定年と厚生年金の支給開始年齢の引き上げです。

これからの日本の定年は70歳が当たり前となる

日本の定年制度は、高年齢者雇用安定法にて定められており、定年は法改正により随時引き上げられてきました。

(定年の引き上げの推移)
1971年 中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法を制定
1986年 高年齢者雇用安定法に名称変更。60歳定年の努力義務化
1990年 定年後の65歳までの再雇用の努力義務化(希望者のみ)
1998年 60歳定年の義務化
2000年 65歳までの雇用確保の努力義務化
2006年 65歳までの雇用確保の段階的な義務化(対象者の限定が可能)
2013年 65歳までの雇用を段階的な義務化(2013年から2025年までの間に対象者の限定を段階的に廃止)

現在は経過措置期間となり、2025年4月から定年制を採用している全ての企業は65歳定年制が義務となります。そして、2021年4月1日、改正高年齢者雇用安定法が施行されました。

この改正により、65歳から70歳までの期間も、高年齢者の就業機会確保のため、「70歳までの定年引き上げ」「定年制の廃止」「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」などの措置を講ずる努力義務が設けられたのです。

現在の定年制度は70歳までを努力義務としていますが、今後も加速する少子高齢化と平均寿命の延伸に伴い、更なる定年の引き上げもあり得るでしょう。

厚生年金の支給が70歳になる時代も遠くない

定年の引き上げと同じく、厚生年金の支給開始年齢も法改正により引き上げられています。1944年の厚生年金保険法では、男女ともに厚生年金の支給開始年齢は55歳でした。
しかしその後、法改正が随時行われ、厚生年金の支給開始年齢は引き上げられていきます。

(厚生年金の支給開始年齢引き上げの推移)
1954年 厚生年金の支給開始年齢の改正
男 55歳から60歳へ変更(1957年から16年かけて段階的に引き上げ)
女 55歳のまま据え置き

1985年 厚生年金の支給開始年齢の改正
男 60歳から65歳へ変更(60歳から65歳までの期間は老齢厚生年金の特別支給分を支給)
女 55歳から60歳へ変更(1987年から12年かけて段階的に引き上げ)

1994年 老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢の改正
男 60歳から65歳へ変更(2001年から12年かけて段階的に引き上げ)
女 60歳から65歳へ変更(2006年から12年かけて段階的に引き上げ)

2000年 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の改正
男 60歳から65歳へ変更(2013年から12年かけて段階的に引き上げ)
女 60歳から65歳へ変更(2018年から12年かけて段階的に引き上げ)

1994年と2000年の改正の趣旨は、「60歳引退社会」から「65歳現役社会」の実現を目的とするためとされていました。

現在、国が提唱している「生涯現役社会」「人生100年時代」を聞き慣れている現役世代が、この改正の趣旨を目にすれば、厚生年金の支給開始年齢が定年制度と同じく65歳から70歳へと引き上げられることを危惧するのも無理はありません。

国は自ら「国を頼るな」と警告しているも同然

このような日本の状況から、現役世代が安穏とした年金生活を送るためには、一体いつまで働かなくてはならないのかと憂鬱な気分になるでしょう。

では、国はその対策としてどうすべきであるとしているのでしょうか。
それは老後2000万円問題を契機に広まった“投資による資産形成”と“多様で柔軟な働き方”の推奨です。

今年度から高校で「資産形成」の授業開始

2022年4月から高校の家庭科の授業に金融商品による「資産形成」が加わります。

2018年に告示された高等学校学習指導要領において、「預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする」と、初めて規定されたのです。

教育の場に投資を始めとする資産形成が盛り込まれたのは、今後は投資を身近なものとして考え、投資を推奨するという国の強いメッセージの表れでしょう。

独立起業に失敗しても失業保険が受けやすくなる

2022年1月7日、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会は、独立起業者を対象とした雇用保険の基本手当、いわゆる失業保険の受給期間の見直しを発表しました。

日本の開業率は、米・英・仏・独・日の先進5ヵ国中、最も低い約4~5%を推移しています。日本では、会社を辞めて起業するものの、事業に失敗して廃業せざるを得なくなったときのセーフティーネットがないことが課題の一つだったのです。

現在、失業保険の受給資格は離職後、1年間のため、起業に失敗してしまうと、実質、失業保険を受給できません。それが今回の労働政策審議会の案では、受給資格を得た後に離職して起業したものの、もし廃業してしまった場合の失業保険が受けやすくなりました。

これまでの受給資格は離職後1年間でしたが、今回の案では最大4年間は、所定の給付日数分で失業保険の受給資格があるとする内容を提案したのです。

この環境整備により、起業することに二の足を踏んでいた層も一歩前進できることが見込まれます。国が独立起業を推奨しているのは、日本経済活性化への期待と同時に、従来の雇用される働き方ではなく、自ら事業主となる働き方を広める狙いもあるでしょう。

国は「多様で柔軟な働き方」の確立を目指している

それを証するように今後の日本の働き方について、経済産業省は次のように明言しています。

「『兼業・副業』、『テレワーク』、『雇用関係によらない働き方(フリーランス等)』を含めた多様で柔軟な働き方を、働き手一人ひとりが自由に選択できる社会へ向けて、今後も施策を検討してまいります。」

これまで少数派であった兼業・副業だけでなく、フリーランスも推進していく方針に驚きを禁じ得ません。このように国は現在、投資による資産形成や、独立起業、兼業・副業、フリーランスなど、これまでとは違う多様な働き方を推し進めているのです。

今後の日本において、老後はもはや国をあてにできず、“自助>公助”をはっきりと打ち出したと言えるでしょう。

FIREが注目されるのは必然だった

現在の日本では、長い間、当然と思われていた「定年まで勤め上げ、そしてその後は年金で穏やかな老後を迎える」という人生設計を描くのが難しいのが現状です。

国はそれを隠すことなく、定年後の厚生年金を頼りとしない、“多様で柔軟な働き方”を名のもとにした自助を推奨しています。

また2020年から続くコロナ禍によって、“長く勤めていた会社から解雇される”“給料が大きく減少する”ということが他人事ではなく、ある日突然、誰にでも起こり得ることと強く認識されました。

このような国が自助を推奨する状況で、そして将来が見えず不安を感じる中で、FIREが注目されたのは当然の成り行きではないでしょうか。

FIRE達成を目指す生き方は一般的になる

今後の日本は、従来とは異なる多様な働き方、生き方がますます求められます。

2021年9月にサントリーの新浪剛史社長が提唱した45歳を人生の一つの区切りとして今後の働き方を考えていく「45歳定年制」が大きな反響を呼んだのも、現代の世相を表しているのではないでしょうか。

もちろんこれまでのように定年まで長く勤務して、定年後は貯蓄した資金で慎ましく暮らす生き方が否定されるわけではありません。

ただしそれは、70歳や75歳もしかすると80歳まで働くことができる体力と気力を有しつつ、高年齢者を雇用する勤め先を見つけることができ、そして定年後に十分な貯蓄額が見込める場合のみです。

このままいつ定年となるのか見えない状況で勤め続けるのか、それとも起業やフリーランスへ切り替えるのか、いま一度、今後自身がどのように生きていくのかを考えたとき、FIREが一つの選択肢として上がる可能性は決して低くないはずです。