片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

昭和の頃、“土地の上に家屋を建てて住むことを目的に、家屋の所有者と土地の地主が土地の賃貸借契約を締結する”という内容の借地契約が一般的にありました。

現在、地主(土地の貸主)と土地の借主はともに高齢化が進んでおり、地主の子が親の死亡に伴い、突然、借地契約を結んでいる土地を相続するケースもあるかもしれません。

今まで親が地主として管理していた土地を相続により引き継いだものの、思わぬ事態に巻き込まれることもあるでしょう。「相続=争続」と呼ばれる遺族間の争いや、予想外の負債の発覚、土地の借主とのトラブルなどです。

借主とのトラブルの多くは、相続した土地を第三者や借主へ売却する、借主から借地権を買い取る、借主との交渉により立ち退きを求める、などの方法によって解決できます。

ただし土地の借主の高齢化も進んでいるため、借主もすでに死亡していることがあります。家族の絆が希薄になりつつある現代では、土地の借主が死亡した後も土地の上の家屋は撤去されずそのままの状態になるケースも少なくありません。

本記事では高齢化が進む土地の借主とのトラブル解決法を、実例を基にして解説します。

※本記事の登場人物
A=土地の新所有者、土地の新貸主
B=土地の旧所有者、土地の旧貸主
C=土地の借主、土地の上の家屋の所有者
D=Cの長男、土地の上の家屋の居住者
E=Cの長女
F=Cの次男

昭和の頃、一般的だった居住用建物のための借地契約

売却できない底地と借地人の借地権。地主が取るべき手段とは
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

以前、このような事例がありました。

  1. Aは、住宅街にある土地を、土地の所有者であったBから購入する
  2. 土地の所有権は、BからAへ移転する(土地の上には木造の家屋が建っている)
  3. 家屋の所有者Cは、土地の旧所有者Bとは別人である(BとCとの間で締結した土地の賃貸借契約書がある)
  4. 土地の賃貸借契約の締結日は1970年で契約期間は20年、CがBへ支払う毎月の地代は3,000円

この4の賃貸借契約は、土地の所有者が家屋の所有者へ土地を貸し、家屋の所有者が土地の所有者へ対価として地代を支払うという借地契約です。

土地の借主は、もし土地の所有者が第三者へ移転した場合、その第三者へ土地の賃借権の対抗ができません。しかし、借主が土地の上に建てた家屋の所有者名義を借主自身の名義で登記しておくと、第三者にも土地の賃借権を対抗できます(借地借家法第10条1)。

そのため、この家屋の所有者兼土地の借主であるCも、家屋の登記上の所有者をCとしていました。

土地の所有権移転に伴い、借地の貸主の地位は承継される

Aは土地の新所有者となったため、このB・C間で締結された借地契約の貸主の地位をBから承継します。

この借地契約の契約期間はそれぞれ20年毎に更新されており、この時点での契約期間は2030年までとなっていました。またCは家屋に居住しておらず、Cの子と名乗る人物Dが家屋に居住していました。

AはDへ、土地の売買による所有権移転に伴い、借地契約の貸主の地位をAが承継したため、今後の地代はAへ支払うよう告げます。その後、DはAへ、特に異議を述べることなく毎月の地代を支払い続けました。

土地の借主=家屋の所有者の死亡が判明、家屋の居住者は行方不明

Aが貸主の地位を承継して数年後、DはAへの地代の不払いを続け、家屋への出入りの様子も確認できず、行方不明となってしまいました。

家屋は土地の上に残され荒れ果てています。窓から室内を伺うと家財一式もそのまま残されている様子があります。

借地契約の借主の名義はCのため、地代の支払義務はCにあります。

Aが、Cの現在の所在を確認するためCの住民票を取得すると、CはAが土地を購入するより前に死亡していることが判明しました。Dの住民票も取得しましたが、Dの転居先は相変わらず不明のままです(住民票基本台帳法第12条の3)。

Aは土地の売却を検討するものの、“土地の上の家屋はそのまま”、“家屋はあばら家同然”、“家屋の所有者は死亡”、“家屋の居住者は行方不明”、このような状態の土地に買い手がつくかどうか大いに疑問です。

ではAは家屋を放置しておいても問題はないのでしょうか。

家屋は老朽化が進んでおり、もし何かのきっかけで家屋が倒壊すると、近隣からの損害賠償請求を受ける可能性もあります。そのため家屋の取り壊しを先延ばしにすることはできません。

この場合、Aはどのようにすれば良いのかを見ていきます。

家屋を取り壊すためにはどうすれば良いのか

家屋はAの所有物ではないため、家屋の所有者の承諾なく、Aが勝手に家屋を取り壊すことはできません(民法709条)。

家屋の登記上の所有者はCですが、Cはすでに死亡しています。Aが家屋を取り壊すためには、Cの法定相続人から承諾を得ることが必要です。しかし、Cの法定相続人のうちの一人であると推定できるDは行方不明なため、承諾を得ることについて困難が予想されます。

以上の状況から、家屋は法的手続により取り壊すことになります。

なお家屋の取り壊しは、通常の建物の明渡しと比べて法的手続に時間を要します。法的手続による家屋の明渡しと取り壊しの流れをそれぞれ見ていきます。

建物明渡請求の流れ

貸主が借主へ家屋を賃貸しており、借主の賃料の不払いにより明渡しを求める場合、法的手続の流れは次の通りとなります。

  1. 借主の賃料の不払いが発生
  2. 貸主は、借主との間の賃貸借契約を解除
  3. 貸主は、借主を被告として、明渡請求の通常訴訟を裁判所へ提起
  4. 貸主は、裁判所で勝訴判決を得る
  5. 貸主は、借主を債務者として、建物明渡の強制執行を裁判所へ申立て
  6. 裁判所の執行官にて強制執行を実施、明渡し完了

3から6は、6~9カ月程の期間を要します。

建物収去・土地明渡請求の流れ

次に家屋の取り壊しと土地の明渡しの両方を求める場合は、次の通りとなります。

  1. 借主の地代の不払いが発生
  2. 貸主は、借主との間の賃貸借契約を解除
  3. 貸主は、借主を被告として、建物収去と土地明渡請求の通常訴訟を裁判所へ提起
  4. 貸主は、裁判所で勝訴判決を得る
  5. 貸主は、借主を債務者として、建物収去命令を裁判所へ申立て
  6. 貸主は、裁判所で建物収去の決定を得る
  7. 貸主は、借主を債務者として、建物収去と土地明渡の強制執行を裁判所へ申立て
  8. 裁判所の執行官にて強制執行を実施、明渡し完了

途中に5・6の建物収去命令の申立て手続を挟むことから時間をさらに要し、3から8まで10~12カ月程かかります。

家屋の所有者の法定相続人を調査する

Aは裁判所へ建物収去と土地明渡の通常訴訟を提起する前に、Cの法定相続人を調査する必要があります。死亡したCの借地人としての権利をCの法定相続人が相続しているためです。

調査の結果、Cの法定相続人は次の3人と判明します。

Cの長男=D
Cの長女=E
Cの次男=F
(※Cの配偶者は、Cの死亡後に死亡)

法定相続人の調査方法は、被相続人の本籍地を管轄する役所の戸籍担当へ被相続人の戸籍を請求し、被相続人の出生時まで戸籍を順番に遡っていくと法定相続人が判明します(戸籍法第10条の2)。

建物収去と土地明渡しを求める通常訴訟を提起する

Cの法定相続人が判明した後、Aはこの法定相続人D・E・Fの3人を被告として、建物収去と土地明渡請求の通常訴訟を裁判所へ提起します。

訴訟の途中、Fから「Cが死亡していたことは知っていたが、自身が借地人としての権利を相続し、地代の不払いがあることは知らなかった」という旨の申し入れがあり、Fは家庭裁判所にてCの相続を放棄しました。

被告はDとEの2人となりましたが、両名からは連絡がなかったため、Aは勝訴判決を得ました。その後、建物収去の決定から強制執行へと進み、結果、Aの土地の上の家屋は取り壊され、土地はAへ引き渡されました。

法的手続き費用も債権を確定させれば回収可能

Aは通常訴訟から建物収去命令、強制執行までの約12カ月間に亘った法的手続を弁護士に頼ることなく全てA自身で行いました。弁護士費用はかからなかったものの、それでも法的手続の合計費用は255万円ほどになりました。

255万円の内訳は、裁判所へ納めた金額が15万円、強制執行時の家屋に残された家財一式の撤去処分費用と家屋の解体費用で240万円です。

通常、訴訟や強制執行で要した費用は、訴訟費用額確定処分と執行費用額確定処分を裁判所へ申立て、裁判所で決定が下されると債権が確定するため、債務者からの回収が可能となります。

そのため、今回の255万円も債権が確定すれば回収が可能ですが、そもそも回収する相手方に資力がなければ不可能です。行方不明となったDや連絡の取れないEからの回収見込みは薄いと思われたため、すでに死亡しているCとCの配偶者に目を向けます。

Aは、Cの法定相続人の調査途中、生前のCとCの配偶者が取り壊された家屋とは別の住所に転居していることを把握していました。そのため、CとCの配偶者が家屋の他に不動産を所有している可能性もあり、ここから回収の道筋が見えると判断したのです。

代位登記を用いて所有権を移転させた後に不動産強制競売

Aが、CとCの配偶者名義の不動産の有無を探ってみた結果、Cの配偶者名義の土地と戸建があることを突き止めました。しかしAはCの配偶者に対する債権を有していないため、この不動産を競売にかけることはまだできません。

まず、土地と戸建の登記上の所有者をCの配偶者から、Cの法定相続人である長男Dと長女Eへ移転させる代位登記の手続きとります(※次男FはCの配偶者の相続も放棄していました)。

また同時並行で、Aは、DとEを相手方として、訴訟費用額確定処分と執行費用額確定処分を裁判所へ申立て、裁判所の決定を得ます。

そして土地と戸建の登記上の所有者がDとEになった後、Aは、DとEを債務者として不動産強制競売を裁判所へ申立て、無事に競売の配当金で法的手続に要した255万円を回収しました。

相続による不動産トラブルは他人事ではない

地主であった親から土地の所有権を相続したものの、土地の借主によって思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。その多くは土地の売買や土地の借主との交渉により解決しますが、中には今回の事例のように法的手続に頼らざるを得ないこともあるでしょう。

慣れない間は法的手続を取ることに二の足を踏むかもしれませんが、実は思いのほか簡単です。裁判所の窓口へ相談に行けば、書類の作成方法や申立ての手順について説明を受けられます。

もし裁判所の窓口が開いている時間帯に都合がつかなければ、インターネットで検索すると法的手続についてある程度、理解することも可能です。

それでも不安を感じるならば、借地権や底地、不動産トラブル全般に強い専門家は数多くいますので、相談してみても良いでしょう。

相続による不動産トラブルは決して他人事ではないことを、心に留めておかなければなりません。