新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。

2022年4月より、公的年金の繰り下げ受給の範囲が70歳から75歳になる点はよく知られているところですが、その翌年の2023年4月より、5年前みなし繰り下げの制度が導入されます。

この5年前みなし繰り下げとは一体どのような制度なのでしょうか。ケースを挙げて紹介するとともに、年金繰り下げ受給の選択肢が広がるにあたっての注意点についても解説します。

2022年4月1日からの改正点 

2023年4月より開始される年金の5年前みなし繰り下げとは?
(画像=pomupomu/stock.adobe.com)

2020年に公布された改正年金法により、2022年4月1日から年金の繰り上げ受給および繰り下げ受給の内容が改正されます。

繰り上げ受給

2022年4月1日より、65歳未満の人が年金の繰り上げ受給を選んだ場合、減額率が現行の0.5%から0.4%に緩和されます。したがって、受取額が改正前よりも少し増額されます。

受給される人の年代により異なりますが、60歳から64歳に受けられる特別支給の老齢厚生年金については、60歳から年金の支給開始年齢までの間で繰り上げて受給することができます。ただし、その場合は65歳からの老齢基礎年金も一緒に繰り上げて受給することになります。

また、老齢基礎年金は、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢から65歳までの間に単独で繰り上げることができます。

繰り下げ受給

2022年4月1日より、繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳へ引き上げられます。増額率は従来と変更なく0.7%のままですので、75歳まで受給を繰り下げた場合は、受給できる年金額が84%まで増加します。

ただし、この仕組みが適用されるのは1952年4月2日以降に生まれた人で、2022年4月1日以降に70歳になる人です。そして、繰り上げ受給を選択した場合、通常の65歳から受け取りを開始した場合と比べ、年金の受取総額が多くなるのは受給開始から約12年後となります。

平均寿命が延びている今、何歳で受給を開始するか非常に悩ましいところではありますが、この12年を目安に受取開始時期を考えてみてはいかがでしょうか。

5年前みなし繰り下げとは? 

2023年4月1日より、70歳を過ぎて年金請求をしても、5年前に繰り下げて請求を行ったとみなし、年金額を増額する仕組みが設けられます。

これは70歳以降に年金請求を行い、かつ繰り下げ受給ではなく本来の受給開始年齢からの年金受給を選択した場合に当てはまるもので、改正後は、5年前に繰り下げ受給の申し出があったものとみなして年金が支給されるようになります。

5年前みなし繰り下げの具体例

5年前みなし繰り下げとは、実際にどのような仕組みなのでしょうか。

具体例で示すと、仮に73歳で繰り下げ受給をしようと思っていたけれど、その時点で繰り下げ受給を行わないとした場合、68歳時点での増額率(0.7%×36ヵ月=25.2%)で計算された年金額が5年分遡って支給され、さらに73歳以降も25.2%で計算された年金額で支給されるということになります。

また、73歳から繰り下げ受給を行った場合、8年分の増額率である67.2%で計算された年金額を73歳から受給します。そのため、従来よりも受給開始時期の選択肢が拡大されることになります。

5年前みなし繰り下げの注意点

この5年前みなし繰り下げについては、80歳の誕生日の前日以降に請求した場合は適用されません。この仕組みが適用されるのは1952年4月2日以降に生まれた人である点に注意が必要です。また、老齢基礎年金と老齢厚生年金でも適用が異なることを知っておきましょう。

老齢基礎年金の場合、この仕組みが適用されるのは2023年4月1日の前日に71歳に達していない人が対象です。つまり1952年4月1日以前に生まれた人は5年前みなし繰り下げの対象とはなりません。

老齢厚生年金に関しては、施行日の前日である2023年3月31日時点で受給権を取得してから6年を経過していない人が対象です。つまり、1952年4月2日以後に生まれた人であれば、2023年3月31日時点で71歳未満と判断されることから5年前みなし繰り下げの対象となります。

もちろん、2023年3月31まででも、繰り下げ時点で繰り下げ請求をせず、65歳からの割増無しの年金を遡って受給することはできます。つまり、繰り下げ時点で繰り下げ受給を選ぶか、繰り下げ請求をせずに66歳以降に65歳に遡って繰り下げによる増額のない本来の年金を請求するかを選択することができます。

ただし、繰り下げ請求できる期間には時効がありますので、遡って支給されるのは最大5年間の範囲となる点も覚えておきましょう。

改正前だとどうなる?

2023年3月31日までの具体例として、68歳で繰り下げ請求を行い、68歳から3年分の増額率である25.2%が適用された年金を一生受給するか、65歳に遡って増額無しの年金を3年分一括受給し、68歳以降も増額無しの年金を一生受給するかの2つの選択肢があります。

仮に68歳時点である程度まとまった資金が必要な場合は、65歳に遡って割増無しの年金を3年分一括して受給することも検討する余地があるといえるでしょう。

年金の繰り下げ受給の手続き方法は? 

繰り下げ受給の手続きは、65歳の誕生月に日本年金機構から送られてくるハガキ形式の年金請求書にて繰り下げの意思を表示します。その際の繰り下げの方法には以下の3通りがあります。

  1. 老齢基礎年金のみを繰り下げる
  2. 老齢厚生年金のみを繰り下げる
  3. 老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰り下げる

そして、受給開始を66歳以降に繰り下げることを選択した場合、その年金の繰り下げ受給開始時点で改めて年金請求の手続きを行います。受給については請求した月の属する月で計算された増額率が適用された年金額を、繰り下げ請求を行った日の属する月の翌月から受け取ることになります。

年金受け取りに関するその他の改正点にも注意しておこう 

2022年4月からは、65歳以降に社会保険に加入して働き続けると、その分だけ毎年年金額が増えていきます。年に1度、9月1日を基準日として、直近1年間の標準報酬額を反映して年金額が計算し直され、10月より改定された年金額が受け取れる仕組みです。

これまでは65歳以上も継続して働いた場合、70歳になるか、退職して1ヵ月を経過しないと年金額は改定されませんでした。したがって、この点は65歳になっても働き続ける人にとっては大きなポイントとなるでしょう。

また、2022年4月からは65歳未満の在職中の年金調整額が、65歳以上と同様の47万円になり、多くの人が在職老齢年金制度による年金支給停止額が減り、年金収入が増えることになります。

改正スケジュールや今後の動向にも注目 

2020年に公布された改正年金法の施行が2022年4月より段階的に開始されます。そのため、どのような項目が改正され、その施行日がいつなのかをしっかりと把握しておくことが大切です。

また、今回の改正年金法は、「今後における現役世代の急速な人口減少が見込まれること」や、それに伴う人手不足が進行することを予測し、そのための外国人技能実習制度に加え、高齢者そして女性の就業を促進する必要があるという考えのもとに公布されたものです。

今後は医療の進歩により健康寿命も延び、より多くの人がこれまでよりも長い期間、多様な形で働くことが見込まれています。また、このような社会や経済状況の変化は今後もさらに多様化そして複雑化していくことが予想されます。

世代間および世代内の公平性を確保するという公的年金制度の目的を持続していくには、更なる問題が発生していくことも考えられるでしょう。このような背景を受け、今後の年金制度の改正や働き方における改正などの動向について、今以上に関心を寄せておく必要があるといえます。