
現在、日本人の2人に1人は、何らかのがんに罹患するといわれています。がんはさまざまな要因によって発症すると考えられており、罹患する人が増えているものの、治療により多くの命が救われていることも報告されています。
このようにがん治療の効果に期待が高まるなか、どのようながん保険を選ぶのが良いのか、がん治療の傾向と併せて解説します。
日本人のがん罹患率と生存率

国立研究開発法人国立がん研究センターの発表によると、日本人男性のがんの53.3%、そして女性のがんの27.8%は生活習慣や感染が原因と考えられています。
また、がんの部位別では男性の場合、前立腺がんの罹患率が最も高く10.8%となっており、実に9人に1人の割合で罹患していることが分かります。年齢別でみると、50歳代から急激に増え始め、70歳代後半くらいの高齢になるほど罹患率が高くなっています。
また、女性においては乳がんの罹患率が10.9%と最も高い数値になっており、生涯で乳がんに罹患する割合は2003年では30人に1人となっていたのに対し、現在では9人に1人と大きく増加していることが分かります。年齢別の罹患数については、30歳代後半から急増し、50歳代までの世代が多く見られ、最近では60歳代も増加傾向にあります。
そして、100%に近いほど治療による生存率が高いことを示す「5年相対生存率」は、前立腺がんの場合99.1%、乳がんは92.3%といずれも高い数値を示しており、がん治療の効果がより高くなっていることがうかがえます。
最近のがん治療の傾向
がんの治療法には、3大治療といわれる「手術(外科治療)」、「薬物療法」、「放射線療法」がありますが、より高い治療効果を目指して、これらの治療法を組み合わせた「集学的治療」が行われています。昨今のがん治療の特徴として、入院期間が短くなっており、薬物療法や放射線療法については通院しながら治療を続ける傾向にあることが挙げられます。
また、がんに伴う心と体の様々な痛みの症状を和らげる「緩和ケア」については、がんと診断された早い時期から取り入れるなど、それぞれの医療の専門家が連携して治療や支援を行うチーム医療が広がっています。
近年、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、ひとりひとりに適した治療を行う「個別化医療」も始まっています。国が推進する「がんゲノム医療」において、多数の遺伝子を同時に調べることができる「がん遺伝子パネル検査」は、一部が健康保険の適用対象となるほか、先進医療においても行われています。
先進医療は、厚生労働大臣が定める高度の医療技術のことを指し、その治療においては体への負担が少なく、回復も早いといわれていますが、患者が希望し、医師がその必要性と合理性を認めた場合に行うことができます。
また、患者申出療養という制度もあり、未承認薬や海外で行われている治療法を希望する場合、担当医に相談し、臨床研究中核病院で計画書が作成されると、国の会議で検討され、6週間以内を目安に実施の可否が決定されることとなっています。
がん対策基本法とがん治療
がん対策基本法は、全国どこでも同じレベルの医療が受けられる環境整備や、政府が総合的ながん対策として「がん対策推進基本計画」を策定することなどを目的に、2007年4月に施行されました。その後2016年12月の改正により、がん患者が尊厳を保持しつつ安心して暮らすことのできる社会への環境整備や、がん患者への理解を深めるための、がんに関する教育の推進が追加で盛り込まれています。
がん治療の基本的施策
がん治療においては、「がんの予防および早期発見の推進」、「がん患者の療養生活の質の向上」、「がん研究の推進」、「がん患者の雇用の継続」、「がんに関する教育の推進」などが基本的施策として盛り込まれており、その施策に基づいて、「がん予防」、「がん医療の充実」、「がんとの共生」といった治療の方向性が決められています。治療の具体的な方向性は以下のとおりです。
1.がん予防
・がんの予防
・がんの早期発見および検診
2.がん医療の充実
・がんの手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法
・チーム医療
・がんのリハビリテーション
など
3.がんとの共生
・がんと診断された時からの緩和ケア
・社会連携に基づくがん対策やがん患者支援
・がん患者などの雇用継続を含めた社会的問題
など
これらを行うことで、現在のような短期入院そして通院治療の増加傾向につながっているといえます。
がん治療にかかる費用
がんの3大治療において、標準的な治療(科学的根拠に基づいて行われる治療)となるものについては、保険診療となります。また、多額の費用がかかったとしても高額療養費制度があることから、例えば協会けんぽに加入している場合で月の総医療費が100万円であったとしても、年収300万円~700万円(標準報酬月額28万円~50万円であれば、自己負担額は8万7,430円です。
一方、先進医療にかかる費用や患者申出療養での未承認薬などにかかる費用、自由診療の費用については、健康保険の適用対象外となるため、それだけでもかなりの費用負担となります。
また、がんは治療後の療養生活が長くなったり、進行の程度によっては治療そのものが難しい場合があることから、補完代替療法として健康補助食品やサプリメントに関心を持つ人も少なくありません。
このような健康補助食品やサプリメントを取り入れる場合は、担当医に相談し、検討することが大切ですが、この購入費用も健康保険の適用対象外となることから、場合によっては月額で数万円単位の出費となるケースもあります。
がんへの経済的な備え
がんに罹患した場合、がん治療にさまざまな選択肢がある中で、納得できる治療方法を選べるようにしておく目的で、民間の保険で備えておく方法もあります。次項で詳しく見ていきましょう。
がん保険の選び方
がん保険を選ぶ際、多様化する現在のがん治療法に対応した保障内容かどうかがポイントとなります。以前であれば長期入院でのがん治療が一般的だったため、古いタイプのがん保険には入院給付金の保障が手厚くなっているものが多くあります。
しかし現在では入院期間は短く、通院による治療法が増えていることから、通院治療に応じた給付金が受け取れない可能性があります。現在、既にがん保険に加入しているのであれば、保障内容がどのようになっているか確認しておきましょう。
最近のがん保険の特徴
最近では、「がん診断一時金」や「入院を伴わない通院治療に対する給付」を重視するものが増えています。また、診断一時金に関しては、転移による治療を想定し、再発についての保障を確保するといった観点から、一定期間経過すれば複数回受け取れるタイプの商品もあります。
さらに、自由診療や緩和ケアなど治療の選択肢が増えていることから、そのような治療に対する保障を用意している商品もあります。
通常、がん保険は加入後90日以内に発見されても保障しないという免責期間が設けられていますが、最近では免責期間を設定していない商品もあります。ただその場合、診断一時金や通院給付の保障がついていない可能性がありますので、保障内容についてしっかりと確認しておくことをおすすめします。
また、療養期間中の働けないリスクへの対策として、収入保障保険などを組み合わせておくと安心です。無理なく負担できる保険料内で、より安心できる保障を組み合わせておきましょう。
がん検診の重要性
がんへの対策として、まず重要なのは検診を受けることです。がんは初期の段階において自覚症状が出ることは稀なことから、早期に発見するためにはがん検診を定期的に行うことが重要です。また、もしがんに罹患していたとしても、早い段階で発見でき、適切な治療を受けることで生存率が高まることが期待できます。
ただ、現在のコロナ禍において、検診施設に出向き検診を受けることをためらう人もいます。そうした中、国内の健康診査実施機関が合同で取りまとめた「健康診断実施時における新型コロナウイルス感染症対策」がガイドラインとして掲載されています。
このガイドラインは都度改定されており、各健康診断施設ではこのガイドラインに則って対策を講じたうえでがん検診などを実施しています。きちんと定期検診を受け、がんに対する備えを疎かにしないことが大切です。