片岡 雄介
片岡 雄介
株式会社シー・エフ・ネッツ
大学卒業後、新築マンション販売営業、賃貸仲介営業を経て、2011年、シー・エフ・ネッツグループへ入社。賃貸不動産の管理業務に従事する。現在、賃貸管理部門であるシー・エフ・ビルマネジメントのリーダーを務める。

不動産投資家は、所有している不動産を賃貸することによって収益を上げます。一方で不動産会社は、不動産投資家から不動産管理業を任されることにより収益を上げます。このように経済活動では、投資家と不動産会社、双方が不動産を通じて収益を上げることが望ましい姿です。

しかしながら、投資家と不動産会社との間の一般的な契約形態において、投資家と不動産会社それぞれに時間的損失や金銭的損失などが発生していることについて見落とされているのが現状です。ただ、その損失は他人物賃貸借契約の形式を取ることによって解決されます。

本記事では、不動産投資家と不動産会社の両方にメリットがある他人物賃貸借契約について解説します。

従来の不動産の賃貸方法は投資家と不動産会社ともにデメリットを含んでいる

投資家と不動産会社の双方にメリットあり。他人物賃貸借契約とは何か
(画像=guy2men/stock.adobe.com)

投資家と不動産会社の関係において、投資家が不動産を賃貸する方法は大きく分けて二通りあります。

1.投資家が不動産会社へ不動産の賃貸管理を委託する方法

不動産の賃貸借契約上の立場
・賃貸人=投資家
・賃借人

2.投資家が不動産会社とマスターリース契約を締結する方法

不動産の賃貸借契約上の立場
・賃貸人=投資家
・賃借人=不動産会社

投資家と不動産会社の間の契約では、一つめの方法が一般的です。この方法における不動産会社は、管理業務のみを行い賃貸借契約における当事者ではありません。この場合、投資家と不動産会社にはそれぞれ次のようなデメリットがあります。

投資家のデメリット

A:
家賃収入を得ることだけを目的とする投資家の場合、不動産の賃貸借契約の締結や更新の度に契約書の署名押印などの作業が発生する。所有する不動産の件数が多いほど作業量も比例して増えるため、多くの時間が失われる。

B:
不動産の賃貸借契約に関して賃借人との間で何かしらの紛争が起こると、当事者として表に出なければならない。そして紛争解決のために弁護士へ委任する際、その弁護士費用を負担しなければならない。

不動産会社のデメリット

C:
不動産の賃貸借契約の締結や更新の都度、投資家に契約書への署名押印を依頼する作業が発生する。管理を委託されている不動産の件数が多いほどその作業量も増えるため、不動産会社の労働時間や人件費が増加する。

D:
不動産の賃貸借契約に関して、賃借人との間で何かしらの紛争が起こったとしても当事者として表に出られない。そのため、『投資家』『投資家が委任する弁護士』『賃借人』の三者の間に入り調整する手間が発生し、紛争解決まで時間を要する。

宅地建物取引業法で有効。不動産会社は代理になれる

投資家と不動産会社それぞれに共通するAとCのデメリットの解決策として、不動産会社が代理になる方法があります。不動産会社が宅地建物取引業者であれば、不動産の賃貸借契約において賃貸人(=投資家)の代理として、賃借人との間で契約締結業務を行えるのです(宅地建物取引業法第第2条2)。

そうすれば不動産会社が契約の締結や更新の際、代理として契約書への署名押印作業を行えるため、AとCは解決できます。しかしながら、この代理の形式を取ると不動産会社にはまた別のデメリットが発生します。

不動産会社の媒介業務の報酬には上限がある

宅建業者である不動産会社が不動産の賃貸借契約の媒介を行った場合、この不動産会社が受け取ることのできる媒介報酬は賃料の1ヵ月分相当額です(宅地建物取引業法第46条、昭和45年10月23日建設省告示第1552号)。

また、宅建業者である不動産会社が賃貸借契約の媒介を行うと、不動産の所有者と賃借人の双方から賃料1ヵ月分相当額の報酬を得ることはできず、どちらか一方からしか得られません。

例えば、不動産の所有者から管理委託を受けている不動産会社(※宅建業者とする)は、仲介専門の不動産会社(※宅建業者とする)と共同媒介していることが多くあります。

この場合、大抵の仲介専門の不動産会社は、賃借人から仲介手数料として賃料1ヵ月分相当額を得ます。
そうすると、管理を委託されている不動産会社は賃料1ヵ月分相当額の報酬を不動産の所有者から得ることができません。

この点が代理の形式をとる不動産会社のデメリットとなります。

不動産会社内で宅建業者と管理業者を分ければ手にする報酬が増える

そのための対策として、不動産会社のグループ内で宅建業者の会社Xと宅建業者でない賃貸住宅管理業者の会社Yの二つを設けます。そして不動産の所有者は、宅建業者Xへ不動産の媒介を依頼し、管理業者Yへ不動産の管理を委託します。

そして宅建業者Xが、仲介専門の不動産会社と共同媒介が成立すると、不動産の所有者は管理業者Yへ賃料1ヵ月分相当額の報酬を支払います。管理業者Yは宅建業者ではないため宅建業法第46条に抵触しないのです。

これによりAとCのデメリット解決に加えて、不動産会社が手数料収入を得ることもできます。このような枠組みを設けて、安定した収益を上げている不動産会社もあります。

不動産会社が賃貸人の立場となるためには

残るはBとDの「紛争時に投資家が表に出る」「紛争に手間と費用、時間がかかる」のデメリットの解決です。

宅建業者である不動産会社は賃貸借契約において代理に過ぎず当事者ではないため、BとDの解決ができません。そのため、不動産会社が当事者となるためには、賃貸人になる必要があります。

不動産会社が賃貸人になるためによく知られている方法は、まず投資家と不動産会社との間でマスターリース契約を締結し、そして不動産会社が賃借人へ賃貸するサブリース契約です。

しかしながら、マスターリース契約には投資家と不動産会社、双方にデメリットも存在します。そのためどちらか一方がマスターリース契約を望んだとしても、それが成就するかどうかは互いの状況によります。

他人物賃貸借契約では不動産会社が賃貸人になれる

マスターリース契約を締結しなくても、賃貸借契約の賃貸人を不動産会社にする方法があります。それが他人物賃貸借契約です。不動産会社と賃借人との間で、投資家が所有する不動産の賃貸借契約を締結するのです。このときの不動産会社の賃貸借契約上の立場は賃貸人となります。

不動産の他人物賃貸借契約は親族間でよく用いられてきました。例えば、所有者が高齢となり契約手続きが満足に行えない際、その子が賃貸人になるなどです。ただ、不動産会社間では認知度が低く用いられることは稀でした。

では、他人物賃貸借契約が法律上有効なのかどうか法的根拠を見ていきます。

他人物賃貸借契約の法的根拠(民法第559条と第561条)

まず、民法第561条『他人の権利の売買における売主の義務』において次のように定められています。

「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」

これは他人の所有物を売買することを有効とする民法の規定です(※ただし宅建業では他人物売買の制限が一部あり。宅地建物取引業法第33条の2)。

そして民法第559条『有償契約への準用』において、「この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。」と定められています。

この二つの条文をまとめると以下1・2・3となります。

  1. 「この節の規定」は民法第561条に係っている
  2. 不動産の賃貸借契約は「有償契約」のため、民法第561条の内容が準用される
  3. 不動産の賃貸借契約は「性質がこれを許さない」に該当しない

よって、不動産会社が、他人(=投資家)の所有物である不動産について、賃借人との間で賃貸借契約を締結することは有効となります。

投資家(所有者)の同意を得る

もちろん実務において不動産会社が所有者に無断で勝手に賃貸人を名乗り、賃貸借契約を締結することは望ましくありません。所有者である投資家の同意を事前に得ておいた方が良いでしょう。

また、契約の締結や更新の度に同意を得る作業をなくすために、不動産の管理委託契約書へ文言を記載するなど実務が円滑に進むよう整えておくことも一つの方法です。投資家と不動産の管理委託契約を締結する際に、合わせて他人物賃貸借契約の同意も得ておくのです。

不動産の他人物賃貸借契約。実際の流れ

以上を実務として進めると次のようになります。

  1. 不動産会社はグループ内で宅建業者X社と管理業者Y社の2社を設ける
  2. 投資家とY社との間で、投資家が所有する不動産の管理委託契約を締結する
  3. 2と同時に投資家はY社が不動産の賃貸人として賃貸借契約を締結することに同意する
  4. 投資家はX社へ不動産賃貸借の媒介を依頼する
  5. X社は仲介業者との共同媒介で不動産の賃貸借契約を成立させる(この契約の賃貸人はY社)
  6. 仲介業者は賃借人から仲介手数料として賃料1ヵ月分相当額の収入を得る
  7. Y社は投資家から報酬として賃料1ヵ月分相当額の収入を得る

安定した不動産経営のために他人物賃貸借契約の利用も一つの手段

投資家と不動産会社がパートナーとして互いに良好な関係を築いていくためには、どちらも不動産を通じて安定した収益を得られることが前提にあります。そして、その収益確保のためには時間的損失や費用の削減も求められます。

ただし、それは双方が法的に問題なく、かつ互いに納得できるものでなければなりません。どちらか片方のみがリスクを冒す、片方のみが損失を抱えるという関係では成り立たないからです。

投資家と不動産会社は不動産から収益を上げるための一つの手段として、他人物賃貸借契約を用いることを検討してみても良いのではないでしょうか。

他人物賃貸借契約に関するよくある質問

Q. 他人物賃貸借契約とは?

マスターリース契約を締結しなくても、賃貸借契約の賃貸人を不動産会社にする方法があります。それが他人物賃貸借契約です。不動産会社と賃借人との間で、投資家が所有する不動産の賃貸借契約を締結するのです。このときの不動産会社の賃貸借契約上の立場は賃貸人となります。