上場株式などを保有しており、売買は行っていないものの、一定の配当を得ているという人がいます。特に高配当の銘柄を保有している人なら、売却せずに配当を得る方法も有効でしょう。しかし、配当金を受け取った場合、確定申告はした方がいいのでしょうか。

本記事では、配当控除の概要と確定申告することで節税になる理由、さらにはその判断基準についても解説します。また、上場株式を売却した際に確定申告をした方が有利になるケースについても紹介します。

配当控除とは 

金融所得における配当控除の節税効果とは?
(画像=NicoElNino/stock.adobe.com)

余剰金の配当などの配当所得がある場合、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けることができます。この税額控除のことを配当控除といいます。

配当控除を受けるためには確定申告が必要ですが、その際、配当控除の額以外にも配当について源泉徴収された所得税の額が納付すべき税額の計算上控除されます。

節税になる理由

そもそも企業が「配当金を出す」場合には、法人税や住民税が課された税引き後利益を原資として、株主に対して配当金を支払うのが通常の流れです。しかしこれを課税という視点から考えると、以下のようにいわゆる「二重課税」の状態になっていると言えます。

・配当金を支払う前の段階で法人税や法人住民税が課税されている
・配当金を得た株主に対して、個人所得税や個人住民税が課税されている

そのため、株主に対して課税される個人所得税や個人住民税の負担を軽減し、調整しようという考え方が配当控除の趣旨であると考えられます。

配当控除を受けられる配当所得

配当控除を受けられる配当所得とは、日本国内に本店のある企業から受ける「余剰金の配当」や「利益の配当」、「余剰金の分配」、「証券投資信託の収益の分配」ですので、以下のような配当は配当控除の対象とはならない点に注意が必要です。

・基金利息
・私募公社債等運用投資信託などの収益の分配に係る配当
・国外私募公社債等運用投資信託などの配当
・外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当
・特定外貨建てなど証券投資信託の収益の分配に係る配当
・適格機関投資家私募による投資信託から支払いを受けるべき配当
・特定目的信託から支払いを受けるべき配当
・特定目的会社から支払いを受けるべき配当
・投資法人から支払いを受けるべき配当 など

さらに、「確定申告をすること」と「総合課税の適用を受けること」が、配当控除の適用を受けるための前提条件です。そのため、確定申告を受けずに「申告不要」としていたり、申告分離課税を選択して確定申告を受けたりする場合は、配当控除は受けられません。

配当控除の節税メリットについて

配当控除の適用を受けた場合の節税メリットは、所得税そして住民税の両方にあります。具体的な内容は以下の通りです。

(所得税の軽減額)
A:課税総所得金額1,000万円以下のうちの余剰金の配当などの10%
B:課税総所得金額1,000万円超えのうちの余剰金の配当などの5%
AとBの合計額

(住民税の軽減額)
A:課税総所得金額1,000万円以下のうちの余剰金の配当などの2.8%
B:課税総所得金額1,000万円超えのうちの余剰金の配当などの1.4%
AとBの合計額

上で計算した金額が所得税そして住民税額から減額されるため、配当控除を活用した方が有利なのか、申告不要としておいた方がいいのかという判断が重要なポイントになります。

配当控除の利用の判断

配当控除を活用した方が有利か、申告不要としておいた方がいいのかの判断基準は、「課税総所得金額が695万円以下かどうか」です。

なぜなら、配当控除の適用を受けるためには、「総合課税を選択」しなければならず、その結果、課税総所得における所得税や住民税の税率から控除を受けた場合の実質負担率を考えると695万円以下がボーダーラインになるからです。

課税総所得所得税率配当控除所得税の実質負担率住民税率配当控除住民税の実質負担率最終的な税金の実質負担率
195万円以下5%10%0%10%2.8%7.2%7.2%
330万円以下10%10%0%10%2.8%7.2%7.2%
695万円以下20%10%10%10%2.8%7.2%17.2%
900万円以下23%10%13%10%2.8%7.2%20.2%

例えば、課税総所得金額が695万円以下の人が配当控除の適用を受けると、所得税率20%に対して配当控除で10%減額されるため、実質負担率は10%です。

そして、住民税率は一律10%ですので、それに対して2.8%の配当控除が適用されるため、住民税の実質負担率は7.2%です。

結果、所得税と住民税を合わせた実質負担率は17.2%となり、申告不要にしておく場合の税率20%(株式の譲渡益や配当、利子を受けた場合の税率20%の内訳:所得税15%+住民税5%)と比べると、配当控除を受ける方が有利ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

配当控除以外にもある節税対策 

上場株式等の譲渡で損失が生じ、他の上場株式等の譲渡益との間で通算しきれない場合も確定申告をすることで節税効果につなげることができます。

上場株式等の譲渡損失

上場株式等を、証券会社などを通じて譲渡したことにより生じた損失の金額については、確定申告により、その年分の上場株式等に係る配当所得金額等の金額と損益通算が可能です。

その際、上場株式等の配当などに係る配当所得についての申告分離課税の選択、および上場株式などの譲渡損失と上場株式等に係る配当所得との損益通算は、確定申告書にその旨を記載するとともに、一定の明細書などを添付することによって行います。

損益通算および繰り越し控除の概要

上場株式等に係る譲渡損失の金額については、一定の要件を満たす場合に限り、その譲渡損失の金額が発生した年の翌年以後3年間にわたって、上場株式等に係る譲渡所得等の金額および上場株式などに係る配当所得等の金額から繰越控除できます。ただし、一般株式等に係る譲渡所得の金額から繰越控除することはできません。

上場株式等に係る譲渡損失の損益通算と繰越控除を時系列に説明すると、以下のようになります。

・1年目
上場株式等に係る譲渡で110万円の損失が発生。同年分に上場株式等の配当で10万円の所得があるため、差し引き100万円の損失を向こう3年間繰り越し可能。

・2年目
上場株式等の譲渡益が40万円、上場株式等の配当で5万円の所得がある。しかし繰り越された損失(100万円)があるため、非課税となる。そして、次年度に繰り越す損失額は、100万円-(40万円+5万円)=55万円となる。

・3年目
上場株式等に係る譲渡益が30万円、上場株式等で5万円の所得がある。しかし、繰り越された損失(55万円)があるため、今年も非課税となる。そして次年度に繰り越す損失は、55万円-(30万円+5万円)=20万円となる。

・4年目
上場株式等に係る譲渡益が10万円、上場株式等の配当で30万円の所得があるが、繰り越された損失(20万円)があるため、上場株式等の譲渡益については課税されない。しかし上場株式等の配当所得30万円は全てを差し引けないため、上場株式等に係る譲渡益で利用した繰越控除の残り10万円を適用した20万円が課税対象となる。

配当控除を行う際の注意点と対策 

自営業者や個人事業主、さらには年金受給者などで国民健康保険に加入している場合、確定申告を行なうことで国民健康保険料が高くなるケースがあります。

国民健康保険料の算定基準の一つである所得割算定基礎額については、所得金額から基礎控除を差し引いた額としている自治体もあります。

その場合、確定申告を行なうことで上場株式等に係る譲渡所得や配当所得が所得金額に含まれるため、国民健康保険料が高くなり、節税効果を上回る可能性もあるのです。

このようなケースの救済措置として、住民税の申告不要制度が創設されています。手続きも簡単で、確定申告作成ページで1項目入力するだけです。この申告不要制度を活用することで、所得割算定基礎額に上株式等の譲渡所得や配当所得が含まれるのを防ぐことができます。

今後の金融所得課税見直しの動きに注意 

上で紹介した住民税申告不要制度は、令和4年度の税制大綱により、令和5年分から廃止されることが決まっています。そのため適用を受けられるのは本年までであることに注意しておきましょう。

配当金を受け取った際の申告方法は、「総合課税」、「申告分離課税」、「申告不要制度(特定口座にて源泉徴収済の場合)」の3つから選択できます。そして、課税所得金額によっては、総合課税を選択し、確定申告を行う方が節税効果は高くなります。

ただし、今後は住民税申告不要制度が廃止されることから、国民健康保険の加入者は保険料が高くなるため、節税効果と増加する保険料を比較し、どの申告方法を利用するのがいいかを考える必要があるといえそうです。

新井智美
新井智美
トータルマネーコンサルタント ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員、コンサルタントとして個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)を行う他、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行うと同時に金融メディアへの執筆及び監修も行い、現在年間200本以上の執筆及び監修をこなしている。これまでの執筆及び監修実績 は1,000本以上。