富裕層が資産運用を行っているプライベートバンクは、一般の預金者には馴染みのない金融機関の1つです。プライベートバンクは普通銀行とどのような違いがあるのでしょうか。

また、どの程度の金融資産があれば口座を持てるのかも気になるところです。プライベートバンクの概要について詳しく解説します。

富裕層御用達のプライベートバンクとは

富裕層が資産運用をしているプライベートバンクはいくらから口座を持てるのか
(画像=lexiconimages/stock.adobe.com)

プライベートバンクとは、一定の預入資産のある富裕層を対象に資産管理や資産運用を行う金融サービスです。資産規模が小さい人は対象外であるため、プライベートバンクはごく少数の者のみが口座を開設できる私的銀行のようなイメージで考えてよいでしょう。

まずは、プライベートバンクの概要について解説します。

プライベートバンクの歴史

プライベートバンクの歴史を紐解くと、始まりは11世紀にスイスで行われた十字軍遠征まで遡ります。階級社会のヨーロッパでは貴族などの資産を保全するための財産管理人がいました。とくに十字軍遠征後も戦乱が続いたヨーロッパでは軍人に富が集中したこともあり、軍人たちの資産を管理する人が必要だったのです。

この財産管理人の活動が、個人営業としてのプライベートバンクの始まりといわれています。軍人と財産管理人の間には強固な信頼関係が必要なことから、プライベートバンカーが無限責任を負う現在のプライベートバンクの仕組みが成立したといわれています。その意味でスイスがプライベートバンク発祥の国と考えられています。

正式な銀行が行うプライベートバンクとしては1664年に英国でチャイルド・アンド・カンパニーが設立されています。以降、英国で1600年代後半、スイス、オランダ、ドイツで1700年代、そして米国で1800年代からプライベートバンクが誕生していきました。

プライベートバンクと普通銀行の違い

プライベートバンクには普通銀行と異なる特徴があります。まず普通銀行は窓口に行けば原則として誰でも口座を開設できますが、プライベートバンクには最低預入資産の条件が設定されています。希望する人が誰でも口座を開設できるか否かが最も大きな違いになります。

普通銀行とプライベートバンクでは運用する商品にも大きな違いがあります。銀行など一般の金融機関が運用するのは投資信託や債券といった市場に出回っている商品が中心です。これに対しプライベートバンクでは、私募仕組債や優先出資証券など発行数が限定された特別な商品をポートフォリオに組み入れる場合があります。

また、普通銀行は窓口の担当者が決まっていませんが、プライベートバンクは顧客専任の担当者が付き、ヒアリングをしながら、顧客の状況に合わせて運用方針が決められます。そのため、プライベートバンクは1人の営業部員が受け持つ顧客の数が少ないのが特徴です。

一言でいうと、プライベートバンクは「顧客1人1人に合わせてカスタマイズされたオンリーワンのサービスを提供する金融機関」といってよいでしょう。

プライベートバンクはいくらの資産から口座を持てるのか?

では、プライベートバンクに口座を持つには、具体的にいくらの資産が必要なのでしょうか。国内外の比較では、海外のプライベートバンクのほうが多くの預入資産が必要です。

ヘッジファンドダイレクト株式会社の調べによると、海外のプライベートバンクの必要預入資産はクレディ・スイスが5億円以上、ロンバー・オディエが3億円以上、UBSが2億円以上となっています。

国内のプライベートバンクは証券系と銀行系で水準が異なります。野村證券、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は概ね1億円以上となっており、海外のプライベートバンクに比べるとハードルは低いといえます。

一方でみずほ銀行が10億円以上、三井住友銀行が5億円以上と銀行系はむしろ海外のプライベートバンクより高い水準のところもあります。

出典:ヘッジファンドダイレクト株式会社「プライベートバンクはいくらから利用できる?口座開設に必要な最低金額を紹介!」

もう1つ、スイスのプライベートバンクと国内信託銀行の協業の例を挙げておきましょう。UBSと三井住友信託銀行の協業である「UBS SuMi TRUST ウェルス・アドバイザリー」の公式サイトによると、預入資産の基準は「2億円相当額以上の金融資産」となっています。

プライベートバンクの運用方針

プライベートバンクでは、運用を開始する前に担当者が顧客に運用方針についてのヒアリングを行います。ヒアリングにおいては、リスク許容度について確認します。「安全・確実に運用するか、リスクをとって多くの利益を目指すか」、「目標とする運用利回りは何パーセントか」、「損失が出た場合何割までなら許容できるか」などを決めることで、お互いに納得して運用に臨むことができます。

ヒアリングの結果を基に、具体的なポートフォリオが提示されるので、自分の希望に沿った構成かどうかをしっかりと確認してからスタートすることが大事です。

プライベートバンクの手数料

プライベートバンクの顧客の多くは、担当者に運用を任せる一任勘定を選択しています。一般の証券会社の手数料はネット証券をはじめとする値下げ競争により低下しましたが、プライベートバンクは一任勘定が多いため下がりにくい傾向があります。プライベートバンクの手数料体系は、主に次の4つのタイプに分かれています。

預入資産基準タイプ

多くのプライベートバンクが採用している方式で、預入資産の残高に一定の年間手数料を掛けて算出します。5億円の預かり資産で手数料が1%なら年間500万円の手数料を支払うことになります。手数料のなかには売買手数料やアドバイス料も含まれます。このタイプはさらに残高に関係なく手数料が一律のタイプと、残高に応じて手数料が漸減していくタイプに分かれます。

固定報酬タイプ

運用資産の規模に関わらず定額の報酬を支払うタイプです。顧問契約に似ており、何かあれば固定報酬のなかで賄ってもらうことになります。コストが一定というメリットがある半面、運用成績が良くても報酬が同じため、担当者のモチベーションが上がりにくいというデメリットがあります。

売買手数料タイプ

シンプルに金融商品を売買するごとに手数料を支払うタイプです。顧客にも商品決定のイニシアチブが残るメリットがあります。ただし、一任勘定でこのタイプを選択すると、手数料稼ぎのために回転売買などで頻繁に取引されるリスクがあるので注意が必要です。

成功報酬タイプ

運用して利益が出た場合に、値上がり分に対し一定の手数料を支払うタイプです。成功報酬なので顧客が納得して払えるというメリットがあります。ただし、成功報酬タイプは他の方式と組み合わせて設定されるため、手数料体系が複雑になるデメリットがあります。例えば、取引の手数料は何回行っても固定額だが、利益が出た取引に対しては成功報酬が発生するという仕組みです。

プライベートバンクの運用利回り

プライベートバンクの運用利回りは正式に公開されていないのでおよその目安になりますが、Webサイト「BIG TRADERS」が公表している期待利回りによると、日系プライベートバンクの利回りが5~10%、スイス系プライベートバンクの利回りが3~8%となっています。一般的な投資信託の運用利回りが3~5%であることを考えると、やはり高い手数料を払うだけあって、プライベートバンクの期待利回りは高いと考えてよいでしょう。

出典:BIGTRADERS「プライベートバンクの利回りはどれくらい?国内外の利回りとサービスを比較」

プライベートバンクのメリット

プライベートバンクのメリットは、顧客の状況に合わせたオーダーメイドの資産運用ができることです。ポートフォリオを組む際も、あらかじめヒアリングで聞いたリスク許容度に応じて金融商品が選択されます。単なる資産運用だけでなく、家族構成や年齢、負債や相続の有無などさまざまなファクターを分析して、資産の総合的なマネジメントを受けることができます。

運用利回りは一般の金融機関より高めで、ポートフォリオに組み入れる商品の選択肢も豊富です。プライベートバンクは担当者が受け持つ顧客の数が少なく、1人の顧客のために十分時間を割くことができます。そのため、担当者は老後の資金作りや相続対策など顧客にとって人生をサポートしてくれる存在になり、一般の金融機関よりも信頼関係が深まるメリットがあります。

プライベートバンクのデメリット

プライベートバンクのデメリットは、預入資産のハードルをクリアしないと口座を開設できないことです。最低預入基準が1億円以上であれば富裕層以外は開設が困難です。さらに資産が1億円以上あったとしても口座開設にあたっては厳しい審査があり、会社によってはバンカーとの面接が必要な場合もあります。口座開設にはある程度時間がかかることを覚悟しなければなりません。

また、普通銀行にはない特別なサービスが受けられる分手数料が高額になる傾向があります。預入資産に比例して手数料が増える方式で契約した場合は、運用成績によっては手数料以下の利益しか得られないリスクもあります。

海外のプライベートバンクと国内のプライベートバンクの違い

海外のプライベートバンクと国内のプライベートバンクのどちらに口座を持とうか迷う人もいるでしょう。ここでは、海外のプライベートバンクと国内のプライベートバンクの違いを紹介します。

海外のプライベートバンクの特徴

海外のプライベートバンクは、基本的に現地国の言語でコミュニケーションをとらなければならないので、取引するにはある程度の語学力が必要になります。また、日本の法務や税務への助言が期待できないのもデメリットです。

ただし、実績ある運用ノウハウを持っていることから、資産を増やすために積極的に運用する傾向があります。日本ではある程度制限しているレバレッジをかけた運用の提案をしてくる場合もあります。

国内のプライベートバンクの特徴

国内のプライベートバンクは、専業はほとんどなく多くの場合は金融機関のプライベートバンク事業として行っています。海外のプライベートバンクと違って、日本語でコミュニケーションがとれるので安心して取引できるでしょう。法務や税務の相談も可能です。運用方針は堅実な資産管理を志向するため、保守的といわれています。

国内のプライベートバンクは主に次の4つに分類できます。

資産運用の幅が広い証券会社系

野村證券、大和証券などの大手証券会社がプライベートバンク事業を行っています。銀行系と比べて資産運用の幅が広く、IPO株式の優先割り当てが可能なのも強みです。

信託機能が強みの信託銀行系

三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行など信託銀行もプライベートバンク事業に力を入れています。信託銀行は資産保全や資産運用に信託機能を使うことができるため、信託法によって資産の安全性が担保されるメリットがあります。

資産継承・相続対策に強いメガバンク系

三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3大メガバンクもプライベートバンク事業を行っています。メガバンクは資金量が豊富なので、融資も含めた資産運用の提案ができ、顧客にも投資チャンスが広がるメリットがあります。資産継承や相続対策にも強いので経営者の利用にも向いています。

経験や実績が豊富な外資系

UBS、クレディ・スイスなど世界的に有名なプライベートバンクも日本でプライベートバンク事業を行っています。スイス系と日本の信託銀行が協業している例もあるので、本場のプライベートバンクを志向している人は口座開設を検討してみるのもよいでしょう。

プライベートバンクランキング

プライベートバンクを選ぶ場合、どのような基準で判断したらよいか迷うこともあるでしょう。そのようなときに参考になるのが、プライベートバンクに関するランキングです。

海外では、毎年各種のプライベートバンクランキングが発表されています。そのなかからランキングをいくつか紹介しましょう。

まず、世界全体のランキングでは、ADV Ratingsが発表している運用資産残高ランキングを見ると、プライベートバンク各行の順位は下表のようになっています。スイスの2大金融グループであるUBSとクレディ・スイスがいずれもトップ3に入り、スイスのプライベートバンクにおけるレベルの高さを証明しています。ほかでは米国勢の強さが際立っています。

▽プライベートバンク運用資産残高ランキング(2020年6月30日現在)※は2019年12月31日現在

金融機関名所属国運用資産残高
1UBSグローバル・ウェルス・マネジメントスイス2兆5,900億米ドル
2エドワード・ジョーンズ米国1兆3,050億米ドル
3クレディ・スイススイス1兆2,500億米ドル
4モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメント米国1兆2,360億米ドル
5バンク・オブ・アメリカGWIM米国1兆2,200億米ドル
6JPモルガン・プライベートバンク米国6,770億米ドル
7ゴールドマンサックス・ウェルス・マネジメント米国5,580億米ドル
8チャールズ・シュワブ米国5,063億米ドル(※)
9シティ・プライベートバンク米国5,000億米ドル
10BNPパリバ・ウェルス・マネジメントフランス4,240億米ドル

一方、日本に限定したランキングとしては、「EUROMONEY」誌が発表している「プライベート・バンキング・サーベイ」が権威あるランキングとして知られています。2020年度における総合ランキング日本部門の順位は下表のとおりです。

ここで特筆すべきは、三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)が8年連続で1位に選出されていることです。この賞は約800社の金融機関同士の投票によって順位が決まるため、評価価値の高いランキングといえます。

同証券はファイナンシャル・アドバイザーの長期担当制を敷いて、強固な信頼関係を築いた上で顧客のライフプランに沿った資産運用を行っています。ほかにも野村が4位、SMBCが5位と証券系が上位を占めているのが注目されます。

▽EUROMONEY「プライベート・バンキング・サーベイ2020」日本部門

順位所属国金融機関名
1日本三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券
2スイスUBS
3スイスクレディ・スイス
4日本野村
5日本SMBC

プライベートバンクに口座を持つには

最後にプライベートバンクに口座を持つための流れを紹介します。主に次の5つのステップを踏んで口座開設に至るのが一般的です。

STEP1:プライベートバンクとコンタクトをとる

スイスなど海外のプライベートバンクは紹介者がいないと口座を持つことは難しいといわれています。国内のプライベートバンクは「UBS SuMi TRUST ウェルス・アドバイザリー」や「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」のように公式サイトを立ち上げて事業内容や問い合わせ先を公開している会社もあるので、コンタクトはとりやすいといえます。

STEP2:プライベートバンクの審査を受ける

コンタクトがとれたとしても必ず口座を開設できるとは限りません。資産状況や資産形成の過程(マネーロンダリングなどがないか等)、家族構成、ライフプランなどについて事前に審査を受けます。資産状況が預入資産の基準に満たなければ、この時点で口座開設は難しいでしょう。

STEP3:プライベートバンクの経営陣と面談を行う

事前審査と前後してプライベートバンクの経営陣と面談が行われます。この段階では具体的なポートフォリオなどの話はせず、基本的な運用の考え方や希望などを聞き取ります。顧客のことを知ることから始めるのがプライベートバンクの特徴です。

STEP4:書類に記入し、宣誓書にサインして口座番号が与えられる

口座開設に必要な書類に記入し、誓約書にサインします。書類の記入事項に不備がなければプライベートバンクの口座番号が与えられます。

STEP5:開設した口座に入金する

開設した口座に預入資産を入金して口座開設が完了となります。入金の具体的な金額は担当者から指示があるようです。

以上がおおまかな口座開設までの流れですが、海外と国内のプライベートバンクでは異なる部分もあると思われます。口座を開設したあとは、担当者からヒアリングを受けて運用方針を確認してから運用がスタートします。

預入資産が少なくとも1億円以上必要なプライベートバンクは一般の投資家には関心が薄いかもしれません。しかし、投資の世界で成功し、将来基準を超える資産を築いた場合のためにも、プライベートバンクについて知っておいて損はないでしょう。

※本記事は2022年8月18日現在の情報を基に構成しています。プライベートバンクの概要は一例ですので、会社によって内容が異なる場合があります。口座開設にあたっては、各社の公式サイト等で内容をご確認ください。

丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。企業系サイトを中心に執筆し、得意執筆領域は金融・経済・不動産。市場分析や経済情勢に合わせたトレンド記事を、毎年200本以上執筆している。主な掲載媒体は「YANUSY」「THE Roots」「Renergy Online」「Dear Reicious Online」「JPRIME」「タツマガ」など多数。