相続によって不動産を受け継いだ場合、被相続人(亡くなった人)の名義となっている不動産の名義を相続人へ変更する必要があります。2022年時点で相続不動産を取得した際の名義変更は、義務ではありません。
しかし、変更しておかないことで正式な所有者が分からなくなったり、いざその不動産を使用したくても自由に使えなかったりする事態に陥る可能性があります。そのため、相続後の正しい名義人情報に変更しておくことが大切です。
本記事では、相続によって取得した不動産名義変更の手続きの流れや手続きを行うにあたって必要となる書類について解説します。
相続登記とは?

相続登記とは、相続によって土地や建物といった不動産を取得した場合に「所有権の移転登記」を行うことです。相続登記は、以下の内容で必要となる書類も異なります。
・遺言書で行われたものか
・遺産分割協議によって行われたものか
・民法で定められた相続割合によって行われたものか
相続登記をしないとどうなる?
相続登記が行われないと不動産登記簿上の所有者は、亡くなった人の名義のままになってしまい、所有者の正しい情報が把握できません。そうなると、例えばまちづくりを目的とした公共事業を行う際や災害時の復旧工事が進まないなどの問題が生じます。また不動産売買取引を行う際、相続登記を行っていないと売買ができません。
2022年時点で相続登記は義務づけられていないため、行われていないケースも多く、そのことが社会問題にも発展しています。なぜなら、相続登記が行われていない土地は適切な管理が行われていないことが多く、周辺の生活環境を悪化させる原因になり得るからです。そのため、2024年4月からは相続登記が義務化されることになりました。
相続で不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが必要です。もし正当な理由がないまま相続登記を怠っていた場合は、過料が科される罰則が設けられています。
相続登記の手続きの流れ
相続登記を行う際には、該当の申請書(相続方法によって異なる)を作成し、必要書類を添付して相続する不動産の住所地を管轄する法務局に提出します。申請書の内容は「所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)」「所有権移転登記申請書(相続・法定相続)」など相続方法で添付書類が異なるため、注意が必要です。また相続する不動産の評価額によっては、登録免許税が発生します。
登録免許税は、原則現金納付が必要となるため、領収証書を登記申請書に貼付するのを忘れないようにしましょう。ただし登録免許税が3万円以下などの場合は、収入印紙で納めることも可能です。収入印紙の場合も登記申請書へ貼付します。記載事項は、現在の登記内容の通りに記載することが必要なため、事前に現時点の登記事項証明書(不動産謄本)を取得して確認しておくと安心でしょう。
ちなみに法定相続分で相続した場合の当期申請書の記入例は、以下の通りです。


相続登記は、法務局の窓口に書類一式を持参して申請する方法以外に「郵送」「オンライン申請」も利用可能です。ただしオンライン申請を行う場合は、事前に申請用総合ソフトをインストールする必要があります。
また申請する際には、必ずICカードリーダーが必要になるため、準備しておきましょう。申請用総合ソフトをインストールし、ログインしたあとの手続きの流れは、以下の通りです。
1.申請情報を作成する:登記申請書の作成に該当
2.添付情報の添付:申請に必要な書類を添付
3.申請情報に電子署名を行う
4.申請情報を送信する
5.登録免許税を納付する:電子納付にて行う
6.書面で作成した添付情報の提出:オンライン申請受付日から2日以内に登記所に持参するか、郵便(書留)で送付
7.登記完了証の取得:登記が完了したことの証明を受け取る
オンライン申請を行って変更が完了したあとは、間違いなく相続登記できているかの確認の意味でも変更後の登記事項証明書を取得しておきましょう。
相続登記を行う際に必要な書類一覧
相続登記を行う際に必要な書類は、相続方法によって異なります。ここでは、すべての相続方法に共通している書類や入手先を紹介します。
必要書類 | 取得できる場所 |
---|---|
登記申請書 | 法務局のホームページの見本をもとに作成する(相続方法によって記載内容が異なるため注意) |
被相続人の住民票の除票 (本籍地の記載があるもの) | 被相続人が最期に住んでいた市区町村窓口 |
被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本 | 戸籍のあった市区町村役場 |
法定相続人全員の戸籍謄本 | 各法定相続人の戸籍がある市区町村役場 |
法定相続人全員の住民票の写し (本籍地の記載があるもの) | 各法定相続人の住所地を管轄する市区町村役場 |
相続した土地や建物の登記事項証明書 | 法務局 |
固定資産税評価証明書 | 不動産が所在する市区町村窓口 |
相続のケースによって必要となる書類が異なる
上述しているように相続が「遺言」「遺産分割協議」「法定相続分」のどの方法で行われるかによって添付する書類が異なります。ここでは、必要となる書類を相続のケースごとに解説します。
遺言による相続
遺言による相続の場合は「被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本」が不要です。また遺言とひとくちにいっても「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。
遺言が「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の場合は、家庭裁判所の検認が必要です。検認が行われたことを証明する文書が添付された遺言書の準備が必要になるため、注意しましょう。ただし、「自筆証書遺言」においては、自筆証書遺言保管制度を利用した場合、家庭裁判所の検認が不要となります。
「公正証書遺言」の場合は、公正証書遺言の正本もしくは謄本を用意すれば問題ありません。また遺言執行者が選任されている場合は、遺言執行者の印鑑証明書、遺言執行者が選任されていない場合は相続人全員の印鑑証明書が必要です。さらに相続が遺贈の場合は、あわせて受贈者の住民票の写しが必要になります。
遺産分割協議による相続
遺産分割協議による相続の場合は、相続人全員が自署捺印した遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書が必要です。
法定相続分に基づく相続
法定相続分で相続する場合は、追加で必要となる書類はありません。
今後は必要書類が少なくなる可能性も
国は、2024年4月からの相続登記義務化にあたり、手続きの簡素化などさまざまな取り組みを行っています。その一つが「相続人申告登記」の新設です。これは、相続人が登記名義人の法定相続人であることを申し出ることで申請を行ったことにするもので、各相続人の書類を集めたり登録免許税を納めたりする必要がなくなります。
実施は、相続登記義務化と同じ2024年4月からです。本制度が実施されると手続きの負担がかなり軽減されるため、相続登記が行われないケースも減少することが予想されます。またすでに実行されている施策の一つが「登記手続きの際の費用負担軽減」です。本施策により以下のような相続登記の際には、登録免許税が免除されます。
・相続によって土地を取得した人が、相続登記を行う前に亡くなった場合には、該当する登録免許税が免除される
・不動産の価値が100万円以下の土地に対しては、登録免許税は課されない
ただし、これらの免税措置を受けるためには申請が必要となるため、忘れないようにしましょう。2024年4月から相続登記が義務化されるにあたり、相続登記も他人事ではなくなります。
自分が不動産を相続したときに備えて相続登記の流れや必要書類について必要な知識を身につけておきましょう。
