3月は退職シーズン。長年勤めた会社を定年で去る人が多く、早期退職で新たな道を模索する人もいるだろう。会社を辞めるに当たって考えなければならないものの1つが健康保険だ。選択肢は国民健康保険への加入、現在の健康保険の任意継続、配偶者が加入する健康保険の被扶養者の3つが考えられる。

国保は2018年4月から財政運営の主体が従来の市区町村から都道府県に移管される。どの選択肢を選べば、出費を抑えることができるのか、京都市保険年金課、全国健康保険協会京都支部で試算してもらった。

選択肢は国保か健康保険の任意継続、配偶者の被扶養者

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公的医療保険には、会社員ら給与所得がある人が加入する健康保険と、農林水産事業者や自営業者、非正規労働者、年金生活者らが入る国保の2種類がある。うち、健康保険の任意継続は会社を辞めた人が国保に加入せずに最長2年間、前の会社の健康保険に加入し続けるものだ。

退職の前日までに2カ月以上加入していることが条件で、退職後の20日以内に手続きすれば加入を継続できる。だが、在職中は会社が保険料を半額負担してくれているが、退職後は全額自己負担となる。個人の負担はその分大きくなる。保険料率は都道府県で異なり、居住地によっても差がある。

国保は地方自治体が運営するもので、前年の所得を基に算定する所得割、世帯人数から算定する均等割、1世帯ごとに算定する平等割、保有資産を基に算定する資産割などを組み合わせて保険料が決まる。

居住する市区町村によって算定方法が異なるため、保険料の格差が存在する。長野県では市町村によって3.6倍もの差があり、退職で実家へ戻って国保に加入したら、保険料が急増したという話も聞こえる。

大阪市のように、退職で所得が大きく減る人を救済する保険料の減免基準を設けている自治体もある。ただ、減免基準は各自治体でさまざま。減免基準が適用されるかどうかは確認が必要だ。

最も安くつきそうなのは、配偶者の健康保険に被扶養者として加入することだ。モデルケースの妻が会社員で、健康保険に加入していたなら、加入できる。この場合、妻の保険料は変わらないが、被扶養者の見込み年収が130万円未満で失業保険を給付していないことが条件になる。

扶養家族が多いと国保が割高に

国保と健康保険の保険料がどうなるのか、京都市保険年金課と全国健康保険協会京都支部に問い合わせてみた。モデルは京都市に住み、会社を早期退職する56歳の男性。前年の所得は400万円で、54歳の専業主婦の妻と大学生、高校生の子ども2人がいると想定した。任意継続の保険料算定に使う月額報酬は26万円としている。

京都市保険年金課が国保の年間保険料を2017年度の保険料率で計算したところ、医療分43万9,540円、後期高齢者支援分13万7,820円、介護分11万5,900円の合計69万3,260円となった。全国健康保険協会京都支部が任意継続の保険料を2018年度の保険料率で計算すると、1カ月当たりの保険料は3万134円。年間にするとざっと36万円余りで済む。

一般に扶養家族が多いと、国保は割高になる。固定資産税を多く納めていたり、保険料が高い市区町村内に居住していたりしても、保険料ははね上がる。逆に、独身世帯や前年の所得が低いときは、任意継続より安く済むことがある。国保の保険料は居住地によって大きく異なるが、京都市以外でもこうした傾向は変わらない。

健康保険が月額報酬だけで算定し、世帯内の人数を考慮しないのに対し、国保は世帯内の人数など保険料の割り増し要因が多いことが影響しているわけだ。

移管後の国保保険料、大きな減少見られず

国保は4月から財政運営の主体が市区町村から都道府県へ移る。長く赤字運営が続き、市区町村が一般会計からの繰り入れで補てんしてきただけに、広域化で財政基盤を確立するのが狙いだ。これに伴い、国が新たに1,700億円を追加支出することになっている。

都道府県内で保険料を統一するのは当面、大阪府など4府県にとどまる見込み。京都府など都道府県の多くは、国の財政支援などを基に保険料の上昇を抑えるため、激変緩和措置を講じる。

京都府が移管後の市町村別保険料を試算したところ、全26市町村のうち京都市など17市町は保険料が下がるが、綾部市など9市町村は上がることが分かった。このため、約8億円を投入し、全市町村で保険料が下がる見通しとなっている。

しかし、保険料の低下幅はそれほど大きくなりそうもない。先の4人家族のモデルを京都市保険年金課が移管後の保険料率で計算したところ、後期高齢者支援、介護分を合わせた年間の保険料は65万3,140円。2017年度に比べ、4万円ほど安くなる程度にとどまった。

定年近くまで働いたなら、一定の所得があるはず。この場合は任意継続の方が安くなると考えるべきだろう。ただ、退職後に所得が急減すれば翌年度に国保の保険料が大きく下がる。退職後の2年間、どの程度の所得が見込め、居住地の保険料がどうなるのか。退職前に健康保険協会支部や市区町村の担当課に問い合わせ、把握することが大切だ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。