本記事は、藤野英人氏の著書『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

女性,発見,疑問
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

快・不快への想像力が高いほど「先の先」が見える

さまざまな学びや体験から私がなにを得ているかというと、ひと言で言えば「人間にとってなにが快で、なにが不快か」ということです。

「先の先」を読んで未来を予測していくとき、大前提となるのは「人間とはなにか」についての洞察です。

未来というのは、人間の行動の積み重ねによってつくられるものですから、人間とはなんなのか、人間はどんな理由でどんな方向に向かっていくのかを考える必要があります。

そこで重要なのが、近年注目を集めている「ウェルビーイング」です。

ウェルビーイングとはbeing well、つまり「well」な状態であることを言い、心身共によい状態を目指すという考え方です。

「お金持ちであること」や「長生きすること」や「やりがいのある仕事を持っていること」などは、それ自体が直接的に人を幸せにするとは限らず、そういったものを目指すことで不幸になるケースもあります。

それよりももっと本質的な「よい状態」を目指すことこそ、大きな目標であるべきだということです。

ウェルビーイングという概念を難しいと感じる人もいるかもしれませんが、これは英語で言えば〝How are you?〟です。

「あなたはどんな状態ですか」と尋ね、聞かれた人は〝I'm fine.(元気だよ)〟とか、〝Not too bad(そう悪くはないよ)〟などと答えます。

もちろん日本でも、あいさつに続いて「調子はどう?」「元気にしてる?」などと尋ねることはごく自然に行われています。

このように、人間は洋の東西を問わず、beingを確認し合う生き物なのです。

ウェルビーイングが重要だというのは、そもそも当たり前の話だと言っていいでしょう。

ウェルビーイングの重要性を考えると、これまで以上に価値が高まるのは「体験」です。

なにかの情報を文字や映像として知っているということではなく、体験を通じて「それがどのような状態なのか」を感じ、人間の快・不快への想像力を高くできる人ほど「先の先」を読む力は上がるのではないかと思います。

ウェルビーイングは「先の先」を読むうえで非常に重要な視点です

積み重ねる一方で、「アンラーニング」を行う

何事も体験することは素晴らしいのですが、一方で積み重ねてきた体験がネガティブに働くときもあります。

人間は過去の自分の経験を積み上げ、その経験の上に立って未来を見るため、例えば経験による強固な思い込みを持ってしまった場合などは、未来を見る目が歪められてしまう可能性もあるのです。

そこで重要なのが「アンラーニング」です。

ただ新しい知識を重ねていくだけでなく、ときには一度学んだことを捨て去ったうえで学び直さなければなりません。

一度学んで記憶したものをただ捨てるのは難しいので、アンラーニングは「忘れる」ことと「新しいものを取り入れる」ことがセットである必要があります。新しい視点や考え方を取り入れ、古い視点や考え方を洗い流していくようなイメージです。

アンラーニングのために重視したいことが2つあります。

1つは、読書です。新たな研究結果や最新の知見を書物から学ぶことは、古びた知識や常識を入れ替えるために重要です。

もう1つ、「若い人と会う」こともアンラーニングを促してくれます。

例えば先日、20代の人たちと会って食事をしていたときのことです。

若い人は美味しいことを「やばい!」と言うのだと思っていたのですが、その場にいた人たちは「飛ぶ!」と言っていたのです。

「やばい!」というのは、どうもちょっと古くなっているようです。

一説によれば「飛ぶ!」というのは、元プロレスラーの長州力さんが使っていた表現とのことで、古いのか新しいのかわからないところがまた面白いのですが、私も最近は美味しいものを食べたら「飛ぶ!」と言うようにしています。

つまらないことのように感じるかもしれませんが、アンラーニングする、アップデートするというのはそういうことだと思うのです。

「飛ぶ!」という言葉に眉をひそめる人もいるでしょう。私自身、昔は若い人の言葉の使い方に違和感を持ったこともありました。

今でも覚えているのは、「よろしかったですか?」という言い方を初めて聞いたときのことです。

今でこそどこでも耳にするフレーズですが、使われ始めた頃は「日本語の表現としておかしい」と指摘されていました。

私もあるホテルでこの言葉を聞いてびっくりし、そのホテルに「従業員があのような言葉を使うのはおかしいのでは」と苦情を言ったのです。

ところが数年後、素晴らしい接客で知られる大阪のザ・リッツ・カールトンホテルで、「よろしかったでしょうか?」が使われるのを耳にしたのです。私はそのとき、自分が折れることを決めました。

文化や習慣といったものは、時間の経過と共に若い人が変えていくものであり、その意味で必ず「若い人が勝つ」のです。

人間というのは放っておけばどんどん古くなる

もちろん、言葉の使い方やものの考え方、感じ方などをすべて若い人に合わせて変えるべきだとは思いません。

人にはそれぞれ自分の経験や価値観があり、生きてきた証としてそれらを大事にするというのも1つの考え方です。

これは皮肉でもなんでもなく、若い人の感覚についていこうとせず、シニア同士で将棋を指してお茶を飲みながら楽しく過ごすのも立派な人生です。

しかし、もし「先の先」を読む思考力を身につけたいと思うなら、やはり20代、30代の考え方や感じ方を学んで合わせていく努力が必要です。

多くの人は「老化したくない」「老害とは言われたくない」と思っているでしょう。では、そもそも「老化」とはなにかと言えば、私は「アップデートしていないこと」こそ老化だと考えています。

例えば森喜朗元首相の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」「わきまえている女性」といった発言は国内外で批判を集め、森さんは東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長を辞任することになったわけですが、おそらくこの発言は30年前なら誰も問題にしなかったでしょう。

このようなハラスメントが普通に許されていた時代が、たしかにあったのです。しかし今の時代にこの発言は許されません。

つまり森さんは「30年間の変化についていけず、アップデートできなかった」のです。

人間というのは、放っておけばどんどん古くなるものです。

自分をアップデートし続けるには、なるべく若い人に接し、その価値観や考え方、アイデア、新しい技術などに接していくのが最良の方法ではないかと思います。

=プロ投資家の先の先を読む思考法
藤野英人
投資家・ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長。1966年富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。主な著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。

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