第88回アカデミー賞の脚色賞受賞で注目を集めた映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(原題:The Big Short)が3月4日に日本でも公開された。舞台は2006年のサブプライムショックから2008年のリーマン・ショックに至る米国金融市場で、4人の男が住宅バブルの崩壊に賭け、紆余曲折を経て巨大金融機関を出し抜いて大儲けするという、実話に基づいたストーリーだ。

映画は、それまで存在しなかった取引を行うために彼らが策を巡らし、時間と闘いながら奔走する姿を追う。難解な金融商品や取引をコミカルに解説しているので専門用語が分からなくても楽しめるが、金融商品や複雑な取引の仕組みを材料にしているため、視聴者からは「難しい」という声も少なくない。そこで、この映画をより楽しむために、事前に知っておくとより楽しめるだろうと思われる「3つの専門用語」を解説していく。

バブル崩壊に賭ける4人の男を描く

原作は映画「マネーボール」の原作者でもあるベストセラー作家マイケル・ルイスのノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」(文春文庫刊)。映画は、世界を震撼させたリーマン・ショックに至るまでを「99.9%実在人物」とともに描いている。

4人の主人公はいずれも金融機関やヘッジ・ファンドのトレーダー。ヘビメタを愛しオフィスでもドラムスティックを離さないマイケル・バリー(クリスチャン・ベール)は住宅バブルがいつかはじけると考える。その動きに、常に儲けを狙う野心家トレーダーのジャレド・ベネット(ライアン・ゴズリング)はカネの匂いを嗅ぎ取る。

理想主義者で曲がったことの嫌いなマーク・バウム(スティーブ・カレル)は欲に目のくらんだ金融機関への制裁のつもりが、結局は儲けに乗った形となり後に苦悩する。現役を引退した冷静沈着な伝説のトレーダー、ベン・リカート(ブラッド・ピット)は住宅バブル崩壊の可能性が高いとみて儲け話に乗る。

サブプライムショックとは?

2006年のサブプライムショックは、返済能力の低い個人向け住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きが多発したことに端を発する。映画では「審査書類に何も書き込まないニンジャローン」として登場する。米国では1990年代に住宅金融制度が整備され、規制緩和や低金利も手伝って低所得者層に持ち家ブームが広がり、住宅価格の上昇を招いた。

この種のローンには、最初は低いが2年後に一気に跳ね上がる「釣り金利」契約が含まれていたことや、米国の住宅価格が2006年半ばに下落に転じたことで焦げ付きが頻発し、隠れていたリスクが一気に表面化してサブプライムショックに至る。

この結果、サブプライムを含む多数の住宅ローンを束ねて販売するモーゲージ債や、それから派生する金融商品の価格が暴落し、これらに巨額の投資をしていた金融機関の破綻が始まる。そのひとつが07年8月にフランスの当時の最大手行BNPパリバで起きた「パリバ・ショック」だ。米国では、金利上昇でローン焦げ付きが加速し、金融市場に疑心暗鬼が広がって資金の貸し手が姿を消し、これが最終的に投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻につながったというわけだ。

知っておくとより楽しめる「3つの専門用語」

時代背景はそんなところだが、ここで、CDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)、サブプライムローンやモーゲージ債の派生商品であるMBS(Mortgage Backed Securities不動産担保証券)、さらにCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)について簡単に解説しておこう。

CDOは、日本語訳に債務という言葉が使われるが、債券や貸付金(ローン)などの「債権」を裏付けとする資産担保証券(ABS:Asset Backed Security)の一種。これを買うことは、会社や個人など多数の最終借り手に間接的におカネを貸すことを意味する。ただ、多くの債権を束ねるため、いくつか焦げ付いても全体では利益が狙えるリスク分散投資と考えられていた。

MBSはその一角で、モーゲージの名の通り、担保は不動産だ。多数の住宅ローンやモーゲージ債を束ねてリスクを分散した投資商品である。

要は担保の違いでそれぞれに名前が付いており、これらの担保範囲の広さは「ABS>CDO>MBS>モーゲージ債>個別住宅ローン(サブプライムも含む)」の順になる。本来はこの不等式の左にあるほどリスクが分散され、安全なはずだが、高利回りを追求するあまり、貸倒リスクの高いサブプライムローンを大量に仕込んでしまったことが、金融ショックにつながった。映画では、腐った魚で作ったシチューに例えている。

CDSは資産値下がりに対する保険

一方、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は性格が全く異なり、一種の「保険」である。株式や債券が暴落したり、債務が返済不能になったときに補償するもので、掛け捨ての保険料を払う必要はあるが、いざとなれば元手を取り戻せる。この商品の恐ろしいところは、担保証券などの現物を持っていなくても売買できることだ。

したがって、不動産価格が暴落する、あるいはローンが焦げ付くと思えばCDSだけを買って儲けることができる。映画の主人公たちの狙いはまさにこれで、低格付債権を多く含むCDOが大暴落、つまりこれに対するCDSが急騰する方に賭けたのである。ちなみに原題にあるShortとは、自分が持っていなくても下がりそうなものをあらかじめ売っておくという意味での「空売り」のことである。

案の定、サブプライムショックが起き、ここで万々歳となるところだが、4人は新たな壁にぶつかることになる。このひねりがこの映画の面白さのひとつだが、そこは実際に観てのお楽しみだ。

以上、「マネー・ショート」の舞台である金融危機のあらましと、登場する金融商品の話をしてきたが、少しでも映画鑑賞のお役に立てば幸いだ。マッケイ監督は金融の素人を自認し「プロや専門家と一般の人々の間に大きなギャップがある」と語っている。この映画をきっかけに金融に興味を抱くことを望んでいるのかも知れない。(シニアアナリスト 上杉光)