福岡市の博多駅と長崎市の長崎駅を結ぶ九州新幹線の長崎ルートが、在来線と新幹線を乗り継ぐリレー方式で2022年度に暫定開通することが決まった。新幹線と在来線の両方を走ることができるフリーゲージトレインで運行する予定だったが、開発が難航し、開業予定に間に合わなくなったためだ。
しかしリレー方式だと時間短縮効果がわずかなうえ、約1時間半の移動に乗り換えがある。高速バスとの競合で不利になりかねず、経済波及効果に乏しいなどとして、地元に疑問の声も上がっている。
時間短縮はわずか22分、武雄温泉駅で乗り換え
国土交通省などによると、九州新幹線長崎ルートのリレー方式は、博多駅から佐賀県武雄市の武雄温泉駅まで在来線特急が運行、武雄温泉駅で新幹線に乗り換え、長崎駅まで向かう。博多-長崎間の最速所要時間は1時間26分。フリーゲージトレインより6分時間がかかるが、現行の在来線特急に比べ、22分の短縮となる。
武雄温泉駅では対面乗り換えのためのホーム改良工事をし、スムーズな乗り換えを目指す。ホーム改良工事などで約70億円の追加費用が発生するが、国とJR九州で負担する。
長崎ルートは当初、フリーゲージトレインで博多駅から佐賀県鳥栖市の新鳥栖駅まで九州新幹線鹿児島ルートを走り、武雄温泉駅まで在来線を走行、長崎まで新設する新幹線の線路を通す計画だった。しかし、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が進めるフリーゲージトレインの開発が難航した。
長崎、佐賀の両県は開業時期の厳守を国に強く要望していたこともあり、JR九州がリレー方式での暫定開通を提案。与党検討委員会と国交省、長崎、佐賀の両県、JR九州、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の6者でリレー方式に合意した。
佐賀県はフリーゲージトレインの運行まで在来線特急の本数確保を求めていた。これを受け、今回の合意では暫定開通から3年間、JR九州が博多駅と佐賀県鹿島市の肥前鹿島駅を結ぶ在来線特急を1日14往復運行することも明記した。
フリーゲージトレイン走行試験が中断し、開発に遅れ
JRの軌間(2本のレールの内側の幅)は在来線1067ミリ、新幹線1435ミリ。フリーゲージトレインは車輪の幅を変えることにより、新幹線、在来線双方の線路を走行できる。スペインやポーランドでは既に実用化されている。
長崎ルート向けの車両耐久走行試験は2014年10月から進められたが、車軸付近にひびや摩耗が発見され、試験中断に追い込まれている。国交省は原因を時速260キロの高速耐久走行で新たに確認された事象に起因するものとみている。
このため、走行試験の再開は早くても2016年度後半になり、試験終了が2019年度にずれ込むことが、軌間可変技術評価委員会に報告されている。ただ、問題解決のめどはまだ立っておらず、国交省の思惑通りに試験再開できるかどうかは流動的だ。
地元で上がるフル規格整備の声
沿線自治体は開業予定に合わせた街づくりを進めているだけに、リレー方式の採用でひとまず、開業延期という最悪の事態を避けられた。長崎県新幹線・総合交通対策課は「リレー方式はあくまで暫定だが、新幹線効果が出るように努めたい」と期待する。
しかし、リレー方式の時間短縮効果はごくわずかだ。博多駅と鹿児島県鹿児島市の鹿児島中央駅間を結ぶ鹿児島ルートで、熊本県八代市の新八代駅と鹿児島中央駅間が先行開業した際、リレー方式が採用された。営業距離の長い鹿児島ルートは、それまで4時間近くかかっていた所要時間が2時間強と90分も短くなり、それなりの時間短縮効果を感じられた。
これに対し、営業距離が鹿児島ルートより短い長崎ルートでは、時間短縮は22分。わずか1時間半ほどの移動で乗り換えがあるのも、利用者にとって不便でしかない。高速バスなら博多-長崎間が2時間半ほどかかるが、料金は在来線特急のざっと半額。安い運賃と乗り換えがないことから、高速バスに流れる利用者が増えるとみる声もある。
暫定開業期間が終わり、フリーゲージトレインに移行しても、現行の在来線特急に比べた時間短縮効果は30分ほどでしかない。途中の佐賀県だと、リレー方式、フリーゲージトレインとも時間短縮効果をほとんど見込めないのが実情だ。
しかも、JR西日本 <9021> は、最高時速270キロと山陽新幹線の「のぞみ」より30キロ遅いフリーゲージトレインの山陽新幹線乗り入れに難色を示している。
鹿児島ルートのように九州から関西まで直通運転ができないことになり、博多駅で乗り換えなければならない。経済波及効果の面で考えても大きな期待が持てないとの見方も出ている。中村法道長崎県知事は記者会見で「リレー方式で当初の期待通りの経済効果は生まれない」と厳しい見方を示した。
そこで、期待が浮上してきたのがフル規格での整備だ。博多-長崎間を全線フル規格にすれば所要時間は約50分となり、関西への直通運転にも道が開ける。福岡商工会議所の礒山誠二会頭は記者会見で「フル規格でないと経済効果が薄い」と指摘した。
ただフル規格となれば地元負担は大きくはね上がる。佐賀県の場合、フリーゲージトレインで225億円の負担が800億円に達するとの試算も出ている。地元がおいそれと出せる額ではなく、結論を出すのは簡単でなさそうだ。
高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。