シンカー:徐々に実質賃金の上昇が消費の回復を促進し、それが物価の持ち直しにつながり始めているとみられる。日本の物価は、とうとう需要の拡大が押し上げる要因となる局面に入ってきているとみられる。2018年前半は、1年前の原油価格上昇の影響が剥落していくため、足もとの物価上昇圧力があっても、前年同月比は横ばい圏内の動きとなる。しかし、後半には、賃金上昇は消費需要を生み、それが価格転嫁をより可能にするサイクルに入り、コア消費者物価指数の前年同月比は1%を十分に超えていくと予想する。失業率は2.7%まで低下した。過去を振り返っても、1980年代後半のバブル期も、失業率が3%から2%に低下するわずか1%のマージンの中で、賃金上昇と内需拡大が強くなり、最終的に物価も力強く上昇していった。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

11月の失業率は2.7%と、10月まで5ヶ月続いた2.8%から低下した。そして、11月の有効求人倍率は1.56倍と10月の1.55倍から更に上昇した。先行指標として、10月の新規求人倍率が2.36倍(11月には2.37倍と更に上昇)と9月の2.26倍から大幅に上昇するなど、労働需給の引き締まりが更に強くなっていることが影響した。失業率は、現在の就職活動が実際に雇用につながるとみられる2018年度入りする4月以降には、更なる低下余地を探っていく展開となるだろう。アベノミクスが円安や短期的な需要対策だけではなく、日本経済の内需を含めた本格的な回復に寄与しているのは、非製造業の売上高経常利益率がしっかり上昇し、これまでの最高水準になっていることで説明できる。非製造の中のサービス業が、効率性や収益性が低いといわれてきた部門だからだ。ただ、規制改革や自律的な産業構造の変化などによる効率性の改善は、デフレ完全脱却にとって痛し痒しの面がある。需要の拡大に対して供給余力の拡大を意味するため、物価上昇圧力を抑制する効果があるからだ。しかし、7-9月期の法人企業統計では非製造業の売上高経常利益率がとうとう伸び悩み始めたことが確認できた。賃金の上昇などによるコストの増加を、売上高の増加でカバーする余地が減っていることを意味する。高水準の利益率を維持するためには、企業の選択としては、売上高を更に増加させるか、価格を引き上げる必要が出てくることになる。利益率が上昇しなければ、日本経済の状態が好転したとはいえないが、上昇し続ければ、物価上昇圧力は強くならない。賃金コストの増加を主として利益率の上昇が困難になれば、企業はようやく価格を引き上げ始める。失業率が3%を下回った局面でようやくそのような変化がみられるのだろう。過去を振り返っても、1980年代後半のバブル期も、失業率が3%から2%に低下するわずか1%のマージンの中で、賃金上昇と内需拡大が強くなり、最終的に物価も力強く上昇していった。

11月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.9%と、10月の+0.8%から上昇幅が拡大した。1月にマイナスからプラスに転じて以降、上昇幅が順調に拡大している。12月の東京都区部のコア消費者物価指数も前年同月比+0.8%と11月の+0.6%から上昇幅が拡大した。2016年後半から2017年前半までの1年間は、全国に対して東京の物価上昇圧力が弱く見えた。これは、東京では企業の価格競争が激しく、省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しにより、賃金コストの上昇を吸収しようとしているようとする動きが強かったのが理由であろう。一方、2017年後半からは、東京が全国に追いつく動きをみせている。深刻な雇用不足感などにより賃金上昇は全国より強い。徐々に実質賃金の上昇が消費の回復を促進し、それが物価の持ち直しにつながり始めているとみられる。日本の物価は、とうとう需要の拡大が押し上げる要因となる局面に入ってきているとみられる。全国と東京ともに、コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)も上昇幅が徐々に拡大してきており(全国11月同+0.3%・10月同+0.2%、東京12月同+0.4%・11月同+0.2%)、物価上昇はエネルギーの寄与だけではなくなってきている。2018年前半は、1年前の原油価格上昇の影響が剥落していくため、足もとの物価上昇圧力があっても、前年同月比は横ばい圏内の動きとなる。しかし、後半には、賃金上昇は消費需要を生み、それが価格転嫁をより可能にするサイクルに入り、コア消費者物価指数の前年同月比は1%を十分に超えていくと予想する。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司